『読みました』報告・国内編Part.3

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255書斎魔神 ◆qGkOQLdVas
まもなく中公文庫の谷崎潤一郎ラビリンス・シリーズを全巻読破するところである。
ミステリと言い得る作に絞って紹介しておこう。
これが、諸君のミスヲタから読書人への更生の道の縁ともなれば、私としては
これに優る喜びはないからである。

「潤一郎ラビリンス]U 神と人との間」を読んだ。
本書に収録された三篇はいずれもミステリ的興趣に富んだ作である。
大好評の全話講評行ってみよう!
・ 「神と人との間」
有名な小田原事件を素材にした作、決して大谷崎作品中第一等の作ではないが、
終盤のクライムノヴェル化してゆく展開は、それまでの客観的状況に比較して飄々、
かつ、時にはユーモアさえ漂う雰囲気から一変、息詰るようなサスペンス溢れるもの
である。
しかし、ミスヲタにはストーリーを追うのみでなく、物語の中に活写された三人の男女
の生き様を読み取るように精進すべし。
・ 「既婚者と離婚者」
終始、対話スタイルで書かれた異色作。
離婚者である法学士がその芸者あがりの妻を巧みに協議離婚へと追い込んでゆく様は、
倒叙スタイルのミステリ的な面白さに溢れ、この作者らしい粋な締めも読み所である。
・「鶴唳」
小田原を舞台にした中国風奇談の世界から生じる犯罪、美しい静かな庭を
走り回る美女と美少女、美しくも恐ろしいまでの情景が目前に浮かんで来るかのうようで
あり、あらためて大谷崎の筆力の凄さを実感させるような一編である。
まさに「読む」は「文学」、「読み捨て」は「ミステリ」という感を、あらためて強くした。
最早、ミスヲタとはいえ、名探偵コナンを見て喜んでいる場合ではないのである。