『読みました』報告・国内編Part.3

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221書斎魔神 ◆qGkOQLdVas
はまると抜けられなくなる面白さな潤一郎ラビリンス・シリーズ(中公文庫)、
近いうちに全巻読破してしまう勢いである。
ただし、今回紹介する「潤一郎ラビリンスXV 犯罪小説集」は、
前に紹介した集英社文庫「谷崎潤一郎犯罪小説集」と重複する「柳湯の事件」
「途上」「私」の三作を除外した残り四作の出来は今ひとつという感が強い。
・「前科者」
なぜこの作が犯罪小説集にセレクトされたのか疑問である。
谷崎作品に見られる「善と悪」というテーマをディスカッション方式で描いた作
であり、犯罪はその結果に過ぎないのである。
「日本におけるクリップン事件」あたりの方がはるかにミステリと言い得る。
・「呪はれた戯曲」
入れ子構造の殺人というアイデアは面白いのだが、巻末の解説でも指摘されているとおり、
作中に挿入された戯曲が平板な出来なため、結末に到るスリルを殺ぐ結果に終わって
いるのが惜しまれる。
・「或る調書の一節 対話」
犯罪者と取調官のダイアローグを通して、犯罪者の不可解な心理を描いたちょっと
松本清張を想起させるような作。
・ 「或る罪の動機」
関係者を一堂に集めた名探偵の謎解き後から物語が始まるという、
ある意味でアンチミステリ風な作。ゆえに、「文学」と戯言に過ぎない「ミステリ」との
間に横たわる深い溝を再確認させられるような一編である。