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書斎魔神 ◆qGkOQLdVas :
笹沢左保「六本木心中」(作品集)を読んだ。
なぜかミステリと認識されていない作品集だが、十分にサスペンス・ミステリの範疇に
入れて語っても差し支えない作ばかりである。
好評の収録作品全話講評行ってみよう!
「六本木心中」
60年代前半、在りし日の六本木風俗のスケッチがビビッドに描かれており、
この点は時代の資料としても見事である。
この辺が、犯罪もメーンに絡むストーリーであるにもかかわらず、風俗小説としての
イメージが強くなった因であろう。
結末は劇的に過ぎるというか、いかにも作り過ぎたという感を強く受けるが、
この点を差し引いても直木賞落選は納得がいかないところではある。
ビビッドにある種の若者像を描き切った作として芥川賞受賞でもおかしくはなかった
ように思う次第である。
「純愛碑」
タイトルに相反してシニカルな結末が印象的な作。
笹沢氏のお兄さんの身の上に材を取ったものらしく(解説より)
この点で異様なまでの迫真性に富んだ仕上がりとなっている。
「向島心中」
時代小説を思わせるようなタイトルだが、心中事件の動機解明に主眼を置いた
ミステリ色が濃い作である。
「鏡のない部屋」
資産家の家に生まれた醜女を主人公にした残酷であるようでいて、笹沢作品には珍しい
ユーモアさえ感じさせる希少な作である。女心と鏡に着目した推理がなかなか読ませる
ものがある。
「銀座心中」
犯罪もあり刑事も登場するものの、アンチミステリ色さえ漂う快作。
「こうも人が多くなって、忙しくなって、いろいろな出来事が重なるような現実には、
一見偶然とみえる必然が実に多いと思うのだ…」
登場人物のひとりである刑事の言が深く印象に残る。
この言をアホな謎解きのみに耽溺するミスヲタはいかに理解するか、
きつく問い質したいものである。