【謀略空路】大藪春彦の本を語る 5

このエントリーをはてなブックマークに追加
61書斎魔神 ◆qGkOQLdVas
既に願望にとどまってしまうが、西城シリーズ東南アジア篇として、マレー半島を
を股にかけて大暴れする西城を読みたかった気もする。(大藪版ハリマオか)
これこそ、東南アジア篇の名にふさわしかろう。
政治・歴史・地理・風俗的に多様性に富んで面白い地域ゆえ、大藪氏の薀蓄も
(勿論、食の面も含めて)楽しみなところであったのだが。

「荒野からの銃火」に収録されたハードボイルドに関するエッセイを読むと、
大藪氏がハードボイルド作家と呼称されることそのものを嫌がっているとは
思えない。ハードボイルド作品も、ヘミングウェイとハメット(俺はこの辺を
「原型」と呼称している)、チャンドラー、ロスマク、その後に登場する病的な探偵たち
(ローレンス・ブロック、ビル・ブロンジーニ等の作)等種々あるわけだが、
作家大藪春彦のひとつの極みである「ヘッドハンター」は
ヘミングウェイ、ハメット作品等のハードボイルドの原型と同様なものであった
ということ。(ハードボイルド小説の教科書と称した所以である)
だから、俺は大藪作品に「ハードボイルドであれ、とか、ハードボイルドでなければ
ならない」などとは、一言も書いていない。全て結果から見ての話である。

話に聞くだけでも、凄惨・苛烈という言葉でも言い表せられない半島からの引揚げ体験、
そして引揚げ先である四国での圧迫の日々、作家大藪春彦の本質を成す「暗い情念」を
形成する因となったこれらの体験に真から共感出来ずして、大藪作品の真の理解には
到ることは出来ない。
実際、最初期の読者には、自身も大陸や半島からの引揚げ体験や地方への疎開体験を
通じて、大藪氏の主人公に共感と自己への投影を感じていた者もいるやに思う。
エンタメとして、大藪氏の作品のディテールに萌え、ぶっ飛んだアクションやストーリー
展開を楽しむ。ある意味、良い時代になったのであろう。