『読みました』報告・国内編Part.2

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611書斎魔神 ◆qGkOQLdVas
深沢七郎「楢山節考」(新潮文庫)を読んだ。
一見、板違いのようでいて、そうではない作品集である。
特に冒頭に収録された「月のアペニン山」は、最後に作者が記しているとおり、
サスペンスの練習として書かれたものであり、現代風に形容すればサイコ・ミステリで
ある。文学者の手によれば、文庫本30頁足らずのボリュームでこのような迫真力に
富んだ作となり、しかも習作として書かれてしまう事実を凡百のミステリ作家とこれを
支持するミスヲタは瞠目し、自省すべし。
そもそも表題作となった名作「楢山節考」にしても、あまりにストーリーが人工に膾炙
してしまったが、ラストに到る伏線を配したストーリー展開は、ミステリの手法を
利用したサスペンス溢れる作品なのである。
深沢風青春小説の趣がある「東京のプリンスたち」は、ハードボイルド風にも書けた作
かと思う、さすれば石原慎太郎か。
最後に収録された「白鳥の死」は、深沢氏を評価し、交流が深かった正宗白鳥の死に
関する感興を描いた小品であり、完全な板違い作品である。