『読みました』報告・国内編Part.2

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580書斎魔神 ◆qGkOQLdVas
北川歩実「猿の証言」を読んだ。
随分と前に購入し積読状態になっていた作だが、今回読んでみて、
今まで読書欲が湧かなかったのも致し方ないという気がした。
クローン、人工授精、キメラ、サル学等、タイムリーというか刊行時を
考慮すれば先鋭的とも言える内容を持った作なのだが、
それなりに興趣をそそるものがあるとはいえ、ミステリにしてはあまりに
膨大なサル学等に関する薀蓄は、作品を無駄に長くし、ストーリーも
冗長に流れてしまう弊を招いている。
また、登場人物も類型的(研究者の女性がことごとく美人というのは、
リアリティを殺ぐ結果となっている)に過ぎるし、過去に渡る人間関係もあまりに
創り過ぎである。
本書のテーマを、地味目な女性研究者あたりをを主人公にして、妙な過去の因縁話を付けずに人間関係を自然に描けば、逆にリアルで凄味があるスリラーに仕上がったのではないだろうか。
ただし、これもあくまで「スリラー」としてであり、そもそも「ミステリ」としての
オーソドックスな謎解きの面白さは薄い作であるとは言える。
全体的に見て、作者の力量・技巧不足を強く感じさせるものがある。