『読みました』報告・国内編Part.2

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478書斎魔神 ◆qGkOQLdVas
三木卓「路上」を読んだ。谷崎潤一郎賞受賞作だけあって、
その物語性は確かなものが存する。
本作品集の本質は、鎌倉を舞台に日常生活に潜む「ミステリ」を抉ったもので
あると言い得る。ミステリ板で指導的立場にある者としては、当板の厨房連中にも
幼稚な名探偵ものばかりに耽溺することなく、本書のような大人の読物にも挑戦して
欲しいものである。
独立した短編の主人公が、他の作品にも脇役や点景として登場するのは、
ちょっと阿刀田高「街の観覧車」を想起させる構成ではある。
末尾の収録作「いくたびか繰り返された夜」の本編、
最後の一行「そうか、極楽蜻蛉みたいな子か」という締めの言葉が見事である。
(この言葉に込められた重みは、本書を通読することによりわかる)
小説の構成としては、唯一、鎌倉を表舞台とはしない「高野川を過ぎていく雲」が
逆に「ヒロインの鎌倉」という存在感を際立たせる効果を上げて、強い印象を残す。