殊能将之 Part16

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357書斎魔神 ◆qGkOQLdVas
「キマイラの新しい城」を読んだ。
天性のストーリーテラーだけあって、千葉郊外に移築された古城の密室殺人(?)と
六本木ヒルズでの大立ち回りという一見対照的な物語を違和感無く面白く読ませるのは
さすがである。
作中でもジョンに関して語られているが、ヒルズでのドタバタ活劇は明らかにジョンの
影響を見て取ることが出来る。
舞台を古城の方ではなく、話題の商業インテリジェントビルに設定したのが非凡な
バリエーションと言えようかと思う。
ただし、本作は博学な殊能タンらしからぬミスも見られる。
直接に本筋に影響を与えるものではないが、
千葉県警の刑事が、警視庁の刑事をキャリアと思い込むシーンがあるが、
警察のキャリア官僚(国家T種試験合格採用者)が、暴力団絡みの麻薬捜査の現場指揮や
潜入捜査等にあたる事はあり得ない。
若いキャリア官僚は県警等にとっては、大事な預かりものであり、大過無きようになるべく
地方の県に配属されるのが通例であり、警視庁の捜査の現場にキャリア官僚がいるのは
おかしくもある。
警視庁には警視庁警察官T類試験というものがあるが、同試験による採用者を通常キャリアと
は呼ばず、警視庁という東京都の自治体警察に採用された地方公務員のため、
千葉県に限らず他県の本部長になることなどあり得ないのだ。
本作に登場する警視庁の刑事は、劇中でキャリアであると断定まではされてはいないが、
そもそも千葉県警の刑事が上記したような警察機構に関する知識が無いこと自体が不可思議
と言える。
殊能タンは、「警察庁」と「警視庁」を混同しているのではないか?
巻末の参考文献にも警察関係の資料は掲げられておらず、この点に関して確認を怠り
誤った知識のまま執筆したように思われるのが残念である。