『読みました』報告・海外編Part.2

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451書斎魔神 ◆qGkOQLdVas
HM文庫刊行を記念して、フリーマン「樽」を再読。
しかし、このようなエポックメーキングな作が、早くからポケミスに収録されながらも、
HM文庫化されていなかったのには、正直驚きを禁じ得ないものがある。
今読むと、謎解きそのものはたいしたことは無い。
結局、犯人のトリックが巧みというよりは、当初真相に到らなかったのは、
捜査側の調査不足に帰する面が大きいからである。
本邦における鮎の黒トラが、本作に触発されて書かれた事をあらためて実感したが、
プロットの巧みさ、謎解きの妙味等で黒トラが上という感を受けた。
謎解きミステリとして読んだ場合には、
偶然が絡んで事件解決となるのは、両作品に共通してがっかりさせられた点ではある。
むしろ、現代的な視点で読み直してみると、第一部、第二部のスコットランドヤードと
パリ警視庁の合同捜査が警察小説としての面白さに富む。
登場する刑事の数をもっと増やし、ガイシャの遺留品に関する婦人警官たちの捜査も
具体的に書き込む等(結果しか書かれていないのが残念)すれば、
リアルで読み応えがある警察小説足り得たであろう。
いかんせん、パリ警視庁の警視総監、バーンリー、ルファルジュのほぼ三人だけの捜査
というのは、はなはだリアリティを欠くものがある。
第三部の主役が、やり手ではあるが、アメリカのハードボイルド・ミステリ
に登場するタフでカッコいい私立探偵とは大きく異なる冴えない風貌の探偵なのは
極めてリアルでよろしい。
捜査中に出会った美人タイピストへの聞き込みも、カッコいい探偵ならば、すぐに
仲良くなってしまうパターンだが、怪しがられ嫌がられ、なんか苦労が偲ばれ微笑ましく
さえあるのだ。