エドワード・D・ホック

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656書斎魔神 ◆AhysOwpt/w
エドワード・D・ホック「サム・ホーソーンの事件簿Y」を遂に読了して
しまった。涙の全話講評逝ってみようか!!
最終巻ゆえ、ネタばれには最大限の注意を払って執筆したので、
各人、安堵して読め!!
・「幽霊が出る病院の謎」
俺好みな怪奇探偵小説仕立てな一編。
(余談ながらエルの傑作「オランダ靴の秘密」は同じく病院を舞台にしながらこの志向性が無いのが、個人的に唯一の不満点だと言い得る)
序盤でインフルエンザねた(季節性だが)が出てくるのが、
妙にタイムリーなのはおもろい感じ。
・「旅人の話の謎」
レズビアンが平然と出て来る展開(サムたちもさほど驚かない)に、
このシリーズ世界における時代の流れを感じさせるものあり。
ただし、舞台が2次大戦中ということを思うと、執筆時点の方を着目すべき
であろう。ストーリーは偶然性が強過ぎて、つまらなくはないが今ひとつか。
・「巨大ノスリの謎」
ノスリとは何か?これも読んでのお楽しみにしておきまっしょ。
(頑張っていきまっしょ!(w )
ジョン風の正に力業殺人トリックをどう評価するかだな。
・「中断された降霊会の謎」
これもジョン風のオカルトねたとトリックと言い得る。
エル風のスマートな作風にジョン風のトンデモトリックが短編に集約
されているのが、E・Dの魅力だと再確認させられる。
657書斎魔神 ◆AhysOwpt/w :2009/11/29(日) 16:02:17 ID:NZT/usPY
・「対立候補が持つ丸太小屋の謎」
猿という小道具(?)の使い方が巧い一編。
・「黒修道院の謎」
道徳主義者はサムの最後の判断をどう見るかでしょ。
ご都合主義が強い展開のため、今ひとつ乗れない感あり。
・「秘密の通路の謎」
明記どころか、明確な示唆さえ無いものの、
殺人にまで至った動機は、実はやられちゃったのでは、
と思わせる深読み出来る作としておもろい。
・「悪魔の果樹園の謎」
ジョンちゅーか、サー・アーサーも書きそうなトリックの作や。
騙すに無理有り過ぎな展開だが、戯曲も好きな文学オタな俺としては
ワイルダーの「わが町」まで読んでるらしいE・Dに感心。
・「羊飼いの指輪の謎」
かなりダイナミックなトリックの怪奇探偵小説で面白い。
○○○(ひらがな文字及びカナ文字で3字)は恐いという言を実感させる。
・「自殺者が好む別荘の謎」
何で自宅でなくサムの別荘で?
という点に合理的な説明が困難な作であり、ミステリとしては弱いのが難。
・「夏の雪だるまの謎」
牧歌的なタイトルだし、まさか、サム・シリーズでジャック・ケッチャム世界張りな動機を読むことになろうとは・・・
初期の昔話風の語りの世界(これが好きだった)からは
遠くに来てしまった感あり。
・「秘密の患者の謎」
シリーズフィナーレは時代背景をもろに反映したようなエスピオナージ風
な作や。「兄を北アフリカ戦線で亡くしていた」の記述で俺には全てが読めたよ。
658書斎魔神 ◆AhysOwpt/w :2009/11/29(日) 16:04:07 ID:NZT/usPY
全体を通じての講評
・前巻から見え始めていた傾向だが、とにかく最終作に至るまで
戦争の影が濃厚に漂う最終巻であった。
日本で愛読されていた点に配慮したのか、露骨な日本及び日本人に対する
非難・批判が無いのが救いと言えば救いか。
前記したとおり、初期作のような昔話風のまったり感は無くなっている。
・訳者は同じなのに「御神酒」(「自殺者が好む別荘の謎」で一時的にこの訳が復活しているが)が「酒」となっているのは、原文における作風の変化を反映したものだろうか?
意訳し過ぎという批判もあろうが、お気に入りの「訳」だっただけに
ちと残念だ。
追記
訳者の言に「これからは『サイモン・アークの事件簿』シリーズのほうを応援していただければ幸いである」とあるから、
今後はストック豊富なサイモン・シリーズが刊行されてゆくと思われだ。
サム・シリーズは俺が贋作でも書くしかないのか・・・