探偵小説専門誌「幻影城」

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43名無しのオプ
泡坂妻夫の「DL2号機事件」の評価はどうだったんかな?
佳作ということは絶賛されたわけでもないんでそ?
44名無しのオプ:04/04/02 21:38
権田萬治の「DL2号機事件」評

泡坂妻夫の「DL2号機事件」は風変わりな作品であり、
個性的という点では最もユニークな内容を持った作品といえよう。
とくに前半の軽快なストーリー運びと、後半の奇想天外ともいえる論理展開には新鮮さを感じた。
しかし、作品としてはどうも構成上分裂しているきらいがあり、
前半と後半のブラック・ユーモア的部分にバランスの欠けているうらみがある。
しかし、将来、何かとてつもないものを書く可能性を秘めている感じもするので、
佳作とすることに異議はなかった。
45名無しのオプ:04/04/02 21:39
都筑道夫の「DL2号機事件」評

しかし、私はこの作品(村岡圭三の「乾谷」)を、当選作とすることに、反対だった。
理由のひとつに、『幻影城』が推す新人らしくない、ということがある。
探偵小説の専門誌から、登場する新人としては、
むしろ「DL2号機事件」の泡坂妻夫氏のような人こそ、ふさわしい。
中井さんは、この作者の発想法を、高く評価しておられた。
私もそれには同感だけれども、出来あがりのバランスのとれていない点、文章技術の点では、
「乾谷」よりだいぶ落ちる。

泡坂妻夫氏の「DL2号機事件」は、平凡な題名からは、
想像もつかないような奇抜な展開をして、おどろかしてくれた。
ブラウン神父が出てきて、解決しそうな事件なのだが、
発端の飛行場の場面が悪すぎて、全体的にはバランスがとれていない。
46名無しのオプ:04/04/02 21:40
中井英夫の「DL2号機事件」評

その中でさまざまな難点は持ちながら、奇妙な味として最後まで心に残り、
ともすれば後ろをふり返るように原稿のページを繰って未練を絶ちきれなかったのは
「DL2号機事件」だが、どうしてもこれだけをという気になれなかったのもやむを得ぬ仕儀であろう。

さて最後に「DL2号機事件」だが、難をいえばこれほど欠点だらけの小説もない。
ペンネームも感心しないし、登場人物が最初から宮前空港の羽田刑事というのも
余計な混乱を招くだけだし、“ああ”“だぶだぶ”“端麗”という呼び方もしっくりしていず、
“ひょろりとした青白い男”が緋熊五郎で“ふよふよした白い男”が柴でとなると、
作者の語感そのものに問題がある気がしてくる。
そして最大の難点は加害者が実際に手を下して殺す筈はないという、
誰が見ても明らかなことを泥絵まがいに行わせる点で、
これでは作者自身が物語を投げていると見られても仕方はないだろう。

だが、こうしたすべての欠点を超えてなお深い印象を残すのは探偵役の、従って作者の
特異な発想法の魅力であろう。AだからB、BだからC、だからこうしてという論法に
何ともいえぬおかしみと凄さとがあり、それは冒頭の雨と地震との、まことに爽やかな導入部とともに
ひとときみごとに何もかも洗い流してしまうようだ。そして作者がこうした発想法を持つ限り、
まだまだいくらでも奇妙な味の傑作が生まれそうな期待も持てるのだが、
同時にまた何だって柔道家の娘なんてことが出てくるんだろう、
正月に人身事故を起して免許の方はといった疑問がすぐにも湧き、
どうしても第一位にというほど推す気持は保てなかった。
47名無しのオプ:04/04/02 21:40
中島河太郎の「DL2号機事件」評

泡坂妻夫氏の「DL2号機事件」は、一年前に大地震に襲われた宮前市が舞台である。
空港には爆破予告のあった飛行機の到着を待ちうけて非常体制が敷かれたが、
どうやら無事に着陸した機内から降り立ったのは、この市の財政を左右できる企業家であった。
一度事故があれば、引き続いて同種の事故は起らないという論理の惹き起した惨劇を、
地震前兆雲の観測者が解明するのだが、
この論理は殺人などには当て嵌まりそうもないのが気がかりである。
ブラック・ユーモア式にうまく処理できているといいのだが、奇抜なアイデアをリアルに扱っているので、
結末ががたがたになってしまったのは惜しい。
48名無しのオプ:04/04/02 21:41
横溝正史の「DL2号機事件」評

泡坂妻夫氏の「DL2号機事件」は面白い小説である。
この小説の書き出しだけが妙に幻想的で、登場人物の描写にもひと工夫、ふた工夫が凝らされていて、
私ははじめこれが当選作かと思ったくらいである。
小説のテーマも非常に突飛で皮肉で、うまく書けば現実的な小説とも、幻想的小説ともつかぬ、
いっぷう変わった小説が出来上がったろうと思われるのに、
最後になってなにもかもぶっこわしてしまった。
ここまで書ける作家なのだから、終わりにもうひと工夫凝らせる才能がないとは思えない。
急に力を抜いたのであろうか。与えられた枚数にはまだ相当余裕があったはずである。
もうひと工夫ふた工夫あってしかるべきである。