904 :
書斎摩神 ◆qGkOQLdVas :
過去ログで紹介されているシャーリー・ジャクスン「たたり」(創元推理文庫)を読む。
小倉多加志訳「山荘綺談」(早川文庫)を知る者としては、
訳者の学歴が法政大学(通信過程)日本文学科卒とあるのに不安感が高まる。
英語でも英文学でもなく、英語以外の外国語や外国文学を専攻したわけでもなく、
しかも通信卒の者に、果してジャクスンの翻訳が可能なのであろうかと。
本書を読む限りでは、この点は幸いにも杞憂に終わったようである。
女性らしい繊細な感覚が文章の隅々にまで行き届いた訳で、同性であるジャクスンの
原文の雰囲気が良く出ているのではないかと思う。
特にヒロインであるエレーナの心情が、かなりビビッドに伝わって来る。
しかし、作品の出来そのものは、本作に触発されて書かれたと言われる
リチャード・マシスン「地獄の家」、スティーブン・S・キング「シャイニング」と
比較して遠く及ばない。
初の怪奇現象が起こるまでに、頁数の過半を費やすようでは、現代の読者に受け入れられる
ものではないのである。
後半のモンタギュー博士夫人の登場も、作品の雰囲気を壊す感があり、
今ひとつ狙いがわからないものがある。
本作の設定を取り入れて、よりパワー・アップしたのがマシスン作品。
創作欲を触発されたのみで、自己流の設定と処理を施したのがキング作品と言えよう。
ロバート・ワイズ監督による映画化作品(モノクロ)の方が、むしろ恐怖感が強く
面白く見れた気がする。