今、読んでいるミステリ小説は?【4】

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612書斎魔神 ◆CMyVE4SVIw
木田元「猿飛佐助からハイデカーへ」(岩波書店)を読んだ。
本書の第9章「警視庁絵草紙」から、著者がミステリに関して記した部分を
抜粋してみよう。
以下の文章を読んで、ミスヲタも何か感じるところがあるかと思う。
*は私のコメント
第一節 ミステリ耽溺
・そのころ(*著者が大学講師になり上京した頃)同じ公団住宅の下の階にすごい
ミステリファンの奥さんがいた。その奥さんに貸してくださいと頼むと、
たとえばエド・マクベインの「87分署」シリーズとかディック・フランシスの
「競馬」シリーズとかを買物袋に二つくらい貸してくれる。
それをひたすら読みつづけるのだ。(中略)こうして、ギリギリ最後の10日間くらいで
論文を書き上げるということを繰り返していた。
* 次々とミステリを読みながら、論文(哲学)を仕上げてしまう著者にも驚きだが、
当時(昭和30年代)は、買物袋一杯のポケミスを所持する団地妻が存在した
事実には隔世の感がある。
613書斎魔神 ◆CMyVE4SVIw :03/12/31 08:50
・ エラリー・クイーン、E・S・ガードナー、ディクスン・カー、ヴァンダイン、
クロフツ、シムノン、エリック・アンブラー、ウイリアム・アイリッシュといった古典的な
作家のものはたいてい読んだような気がする。
アガサ・クリスティだけは、むろん少しは読んだが、どうしてかあまり読んでいない。
ダシェル・ハメット、レイモンド・チャンドラー、ミッキー・スピレインといった
ハードボイルド系もだいたい読んでいる。
昔のことはあまり憶えていないが、最近では、「古代ローマ船の航跡をたどれ」に
はじまるクライブ・カッスラーのダーク・ピット物、「古い骨」にはじまった
スケルトン探偵物や「偽りの名画」にはじまった美術館学芸員物を書きまくっている
アーロン・エルキンズの作品はほとんど全部読んでいるし、ほかにもコリン・デクスター
やジョン・ダニング、サラ・パレッキー、「ロシアのアガサ・クリスティ」と言われる
アレクサンドラ・マリーニナ、といった作家たちのものも大半読んでいる。
和物では、先ほど挙げた作家たち(横溝正史、木彬光、坂口安吾の「不連続殺人事件」や「安吾捕物帳」、初期の松本清張、水上勉)のあとは鮎川哲也や佐野洋、土屋隆夫と
いった世代の人たち、そのあとしばらくは半村良と陳舜臣にはまっていた。
「石の血脈」をひっさげての半村良のデビューは実に鮮烈だったので、この人のものは
しばらく読みつづけた。拳法の名手陶展文の活躍する陳舜臣「枯草の根」も味があった。
(中略)陳舜臣のものは、いつか数えてみたら、単行本と文庫本と合わせて、7、80冊
あった。半村良も陳舜臣も、ある時期までのものはあらかた読んでいる。
614書斎魔神 ◆CMyVE4SVIw :03/12/31 08:51
そのあとは、森詠、泡坂妻夫、胡桃沢耕史、笠井潔、高橋克彦、佐々木譲、逢坂剛
といったあたり。殊に逢坂剛とはよほど相性がいいらしく、「カディスの赤い星」に
はじまるスペイン物、「百舌の叫ぶ夜」にはじまる警察庁内部の暗闘物、
「禿鷹の夜」にはじまる警視庁神宮寺署刑事禿富鷹秋が主人公のシリーズ、
お茶の水に現代調査研究所をかまえる岡坂神策物、梢田と斉木という刑事コンビが
活躍(?)するお茶ノ水署物、池袋西口にある「まりえ」というスナックを舞台に
した連作「まりえ」物、若き日の近藤重蔵が主役の初の時代物シリーズ、(中略)
私もまたこれをくまなく追いかけて読んでいるのだから、その執念は相当なものだ。
(略)桐野夏生の女性探偵事務所もの、篠田節子の作品群、梓澤要の伝奇ミステリ、
別所真紀子の俳諧小説、宮部みゆきや乃南アサも全部とはいかないがかなり読んでいる
から、女性作家も相当カバーしている。(後略)
615書斎魔神 ◆CMyVE4SVIw :03/12/31 08:51
ごく最近、「狐闇」という骨董小説を読んだのがキッカケで、北森鴻という若いー
と思うのだがー作家にはまってしまい、宇佐見陶子という店を持たない骨董屋、
いわゆる旗師を主人公にした冬狐堂シリーズ、蓮丈那智という女性民俗学者が主人公の
シリーズ、雅蘭堂という下北沢の骨董屋シリーズ、香菜里屋という三軒茶屋のビア・バー
を舞台にしたシリーズ、福岡中州のおでん屋台が舞台のシリーズ、そしてとうとう若い日の黙阿弥を主人公にした「狂乱廿四孝」まで探し出して、おそらく本になったものは全部
読んでしまった。
* ミスヲタも顔負けの凄いミステリの読書量(?)だが、
 著者の専門はあくまで哲学であり、メルロ=ポンティやハイデカーに関する権威である。
東西の文学書もほとんど読破しているとか。
ミステリの類を読むのは、毎日就寝前の30分程度、これを40〜50年続けている
そうだ。
 ミスヲタ各自は自分自身に恥入る点がないか自戒されたし。
616書斎魔神 ◆CMyVE4SVIw :03/12/31 08:52
第二節 風太郎の明治小説
だが、この手の広い意味でのミステリのなかで、私がもっとも入れこんだのは
山田風太郎の明治小説であろう。
私はそれほど熱心な風太郎の読者だったわけではない。
大評判を呼んだ忍法帳シリーズなども、その時点ではほとんど読んでいない。
それが、なんのはずみでか昭和50年に彼の明治小説の第1作「警視庁絵草紙」を
読んで、すっかりはまってしまったのだ。
(中略)風太郎の明治小説が出るたびに待ちかねるようにして読んだ。
いつか調べてみたら、手持ちのこれらの本、全部初刷だったから、
よほど出るのをまちわびて買いこんだらしい。

(中略)その後も暁方の就眠剤が払拭すると、ついこの明治小説に手が伸び、
1冊読むと次から次に読まされてしまうということを繰りかえして、3.4度は
読みかえしている。
(中略)とうとう平成9年(1997年)に筑摩書房から出された
「山田風太郎明治小説全集」愛蔵版の全巻解説を書いてしまった。
* ちょっと解せない感がある山風明治ものへの著者ののめり込み方である。
先に挙げた愛読するミステリ選択における著者のセンスの良さを知るだけに
不思議である。