今、読んでいるミステリ小説は?【4】

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480書斎魔神 ◆CMyVE4SVIw
笹沢左保の「海賊船幽霊丸」(光文社)を読む。
親友(だったらしい)森村誠一の補筆により完成された
故人の380冊目、刊行された最後の著作である。
「海神は女を見ていた」「使者は孤島に消えた」「船霊は暗雲を呼んだ」
「潮流に血が分かれた」「海賊は箱舟に乗った」(森村)
の5章から構成される連作集。
木枯し紋次郎を想起させる印象的な各話タイトル、手馴れた情景描写の巧みさも
あって面白く読ませる。特に、第1話と第2話は時代ミステリと言ってよい展開であり、
ミステリ板で紹介するにふさわしいものがある。
月並みな冒険小説的な展開に終止した第3話と第4話には不満が残るところだが、
特に森村氏補筆による最終第5話は不必要だったように思う。
キャラクタ―、ストーリー等全て森村氏流に展開されており、
前の4話と比較した場合の違和感が強い。
物語そのものは、一応4話で完結しているうように読めるし、他の作家による最終話の
補筆が本当に必要だったのか、おおいに疑問である。
特に、第4話で幽霊丸と運命を共にするとまでの決意を語る新八郎が、
第5話では、あっさりと幽霊丸を戦いのための捨て駒として使用するのは、
納得が行かないところである。森村氏らしい合理的な判断と言えばそれまでであるが、
ここは笹沢作品に流れる合理性からは割り切れない心情のようなものを生かして
欲しかった。
思うに作風から見て、笹沢氏は兄新八郎、森村氏は弟新九郎が、
それぞれ感情移入しやすいキャラのようである。
ただし、森村氏が補筆した第5話には新九郎は登場しないのであるが。
その思想性は生かされているようである。
また、第5話には物語全体キーパーソンでもある蘭が全く活躍しないのも腑に
落ちない点である。