ひとしきり軽口を叩いたあと警部はふと真顔になって言った。「久しぶりに
君を食事に誘ってもいいかな」「ええ、喜んで」私たちは近所のレストランに
入った。人気のある店らしく混雑している。文字通り注文の多い料理店だ。
厨房の中ではでっぷり太った料理長が多すぎる注文にてんてこまいしている。
「昔、NHKに宮崎緑という女性キャスターがいたろう」食事を待つ間、
警部はかつて手がけた事件の話をした。その事件の犯人は奇妙な妄想に
とりつかれていたらしい。なぜか毎晩テレビで見るニュースキャスターの顔と
ツタンカーメンの顔の区別がつかなくなっていたというのだ。「そいつは
取調室でも『宮崎緑は危険なオーラを発している』とかなんとか、ブツブツ
つぶやいていたっけ。まあ、実際にやったことといえば近所の電器屋の
テレビを壊してまわったくらいのものだったんだが」
この店はペット同伴で入れるらしい。私たちの隣のテーブルの
裕福そうな老婦人の膝の上には、プードルがおとなしく座っていた。
プードルの向こう側にはチワワが、そのまた向こうにはヨークシャーテリアが
顔を覗かせている。「雑種はいないらしいな」警部がぼそりと言った。
いつのまにかプードルが警部の膝の上に引っ越してきていた。
首輪につながれた紐をいじくりながら、警部はさらに奇妙な犯罪者の
話をつづけた。「今度は女さ。『私が苦手なのは鏡よ、鏡じゃなければ
怖いもんなんかないわ』と豪語していたが、ためしに鏡を見せてみたところ
一言『ゲッ』と言って気を失った。その隙に逮捕したってわけさ」
「家でもこんな話ばかりしているせいか、息子がこんな作文を書くように
なってしまったよ」警部は苦笑まじりに背広の内ポケットから丁寧に畳んだ
原稿用紙を取り出した。受け取って開いてみると、たどたどしい文字で
「ごはんのときミステリおペラペラめくっていたら、おとうちんに
しからねた。ごめんなちい、もうしません」と書かれていた。
「お待たせしました」その声にふと顔を上げると、警部は一瞬ぎょっとした。
「困りますよ、留守番をお願いしてたのに」ウェイターの服装をしてはいるが、
それは警部の部下の若手刑事だった。「なんだおまえ、ギャルトンの恰好
なんかして」「それを言うならギャルソンです」「うるさい。ギャルトンで
いいんだ、ギャルトンで」一度言ったら後には引かない警部である。
「それで、なんだギャルトン事件でもあったのか」「それがですね…」
━―━―━―━―━―━―━―━―━[JR山崎駅(^^)]━―━―━―━―━―━―━―━―━―
「事件というわけではないんですが…そのう…鮫島警部が、署の方に見えて
るんですよ」口を濁しながら言う。それを聞いて、鷹取警部の口が大きく
への字に曲がった。息子の作文を丁寧に折りたたんでポケットにしまい、
代わりにメニューを取り上げて立ち上がり、机に叩きつける。「本当か!?」
若手刑事は、周囲の目を気にしながら小声で返事をした。「本当です」
「やれやれ」警部は再び腰をおろした。若手刑事がホッとした様子を見せる。
私もホッとした。「チョコおあずけに、ドキュン推理に、鮫島参上か…。
とにかく、これで今日一日の悪運は使い果たしたな」と警部が言った。
「鮫島警部が嫌いなのかい?」と私は聞いてみた。鮫島警部というのは、
”西の丸太の鷹”の異名をとる鷹取警部と並んで、”東の新宿鮫”と称される
警察界の巨人だ。この二人が犬猿の仲だとは、聞いたことがなかった。
「別に。あいつは慈悲深いし、度胸もあるし、何より頭が切れる」頬杖をつき、
部下のほうをねめつけながら、警部は答えた。「まあオレほどじゃないけどな」
「よし、じゃあラーメンと餃子だ」メニューを再び手にとると、警部は言った。
あまりに自然な口調だったので、私も刑事もきょとんとしてしまった。
「注文だよ。ほら、お前はギャルトンだろ。早く行ってこい」
若い刑事は不意を突かれて、おたおたと机の上を見回した。「いや、でもここ、
醤油もラー油もおいてませんよ」ここはファミレスなんだから当たり前だ、
と私は思った。「醤油だのラー油だのまどろっこしいこと言うな! さっさと
行って来い!」警部が怒鳴りつけたので、彼は慌てて厨房のほうに駆けて行った。
その後姿を見送りながら、警部は愉快そうに笑った。機嫌を損ねることがあると、
こういう意地の悪い、子供の悪戯のようなことをやるのは警部の悪い癖だった。
どうやら鮫島警部とは本当にそりが合わないようだ。店の奥で、本物の店員を
相手にしどろもどろになっている気の毒なギャルトン刑事を残したまま、
私たちは勘定を済ませ、すたすたと店を出た。
警察署の前には、蟻の列のように高級車が並んでいた。黒いトランクが
太陽の光を反射し、こちらの目を刺してくる。
この車一台で、私の家賃の何か月分に相当するのか計算してみようとしたが、
見当もつかなかったのでやめた。
代わりに、先ほどから気になっていたことを、思い切って聞いてみた。
「ねえ警部、さっき言ってたドキュン推理って何のことだい?」
警部は白い歯をむきだして苦笑いし、「また今度教えてやるよ。鮫島には言うなよ」
と言った。
署に入ると、見知らぬ顔の警官が何人かいたので、その中心にいる人物が誰だか、
すぐに分かった。濡れ羽色の長い髪の毛と、ノンフレームの眼鏡、知性の輝きを
たたえた、切れ長の目。私も一度か二度、新聞で顔を拝見したことがある。
鮫島京子警部。
「お久しぶりね」
彼女は取り巻きの警官たちの輪の中から進み出ると、まず眼鏡を直して、
それから鷹取警部に手を差し出した。眼鏡に触れた時に、私は彼女が左利き
だと気づいた。差し出された手も、左手だった。
「久しぶりだな」そう言って、鷹取警部は右手を差し出した。
だから二人の握手は、妙な形になってしまった。ごつごつした中年の男の手と、
若い女のマニキュアの手は、触れ合ってすぐに離れた。
私と鮫島警部を簡単に紹介した後、鷹取警部は手近な椅子を引き寄せてまず自分が
座り、それから、「まあ座れよ」と言って鮫島警部に手振りで別の椅子を勧めた。
「東西名探偵の世紀の対決だな」と、老警官の一人が冷やかした。
∧_∧
ピュ.ー ( ^^ ) <これからも僕を応援して下さいね(^^)。
=〔~∪ ̄ ̄〕
= ◎――◎ 山崎渉
ここ1週間ほど美人警部をネタに妄想に耽っていたオレだが、
久しぶりに来てみたら能天気に笑う山崎渉のAAが書き込まれており、
すっかり萎えてしまったのだった。
「東西てぇけつかぁ」
老警官のセリフを受けて、鮫島警部に付き添ってきた、
これも同年輩の刑事が言った。どうも東北のほうの出身らしい。
「そういや、うちの姫んとこにゃ、西ん方のイヌエィツケーからも
取材が来とったでな」鷹取警部を差し置いて、NHKの関西支局が
何かの番組で鮫島警部を取材したということらしい。
90 :
名無しのオプ:03/05/29 07:52
>西ん方のイヌエィツケー
ワラタ!!!!!
「ま、取材っていっても、たいしたもんじゃなかったけどネ」
鮫島警部は脚を組み、メンソール煙草をプハーッと吹かす。
私の中で、思わず何かが弾けた。と、鮫島警部がこちらを振り向いた。
「あら、先生。それを言うなら『何様のつもりだ』でしょ」
うっ。どうしてわかったのだ。たしかに私は今、(この女、何者のつもりだ)
と思っていたのだった。が、やはり何様というより何者のほうが合っている。
「ごたくはいいんだよ。用件を早く言ってくれ」
鷹取警部が、机の角でコツコツとパイプを鳴らした。
凝り性の警部は、愛用の古い骨太なパイプを持っている。だが、普段は大切に
引き出しにしまっていて、人前でそれを吹かすことは滅多になかった。
鮫島警部が説明しようと向き直ったとき、鷹取警部は思い切りそのパイプを吹かした。
目の前が煙る。メンソールの煙は押し流され、鮫島警部はたまらず咳き込んだ。
巻き添えを食って、私も思い切り咳き込んだ。
「すまん、すまん」
鷹取警部は再びパイプをコツコツと鳴らした。
鮫島警部が涙をにじませた目で睨み付ける。先ほどの老警官が、その肩に手をかけた。
「用件ならだいたい察しとるじゃろ。今度の通り魔事件に、姫とわしらも一枚噛ませて
もらう事になったってことさ」
そんなことではないかと思っていた私には、鷹取警部が露骨に顔をこわばらせたのも
また、意外ではなかった。老警官は苦笑いしていたが、鮫島警部は、真っ直ぐに
鷹取警部の目を見据えている。場に緊張した空気が漂うのがわかった。
私が二人をとりなさなければならないだろう。
先手を打って、どういう風に切り出すべきかを検討することにした。
しかし、ふと気がつくと、二人は管轄がどうしたの、捜査の権利がどうしたのと議論して
いたので、いきなり気力が萎えてしまった。私にはチンプンカンプンな話だ。
今頃になって私は、自分が蚊帳の外にいることに気がついた。
口を挟んだところで、言い負かされてしどろもどろになってしまうのは目に見えていたので、
私は出来るだけポーカーフェイスを繕い、澄ましていることにした。
「ハッキリ言ったらどうだね、わしらが足手纏いになると思っとるんじゃろ?」
老警官が口を挟んだ。勇気のある老人だと私は思った。
鷹取警部が突然立ち上がって彼の胸倉を掴んだので、尚更そう思った。
「そんなことはひとことも言っちゃいない。俺はただ、自分の仕事に横から嘴を
突っ込まれるのが我慢ならんだけだ」
怒っている時の鷹取警部の顔は、普段からは想像も出来ないほど恐ろしいものになる。
これは警部の天性の武器の一つで、私も何度か直に拝ませてもらっているから、
老警官がかたくなな表情の下で冷や汗をかいているのが、手に取るようにわかった。
「わかったかい?」
鷹取警部が聞いたが、老警官はうめいただけで、返事が出来なかった。
鮫島警部が立ち上がり、氷のような手で鷹取警部の腕を掴んだ。
「私は、あなたのこういうところが我慢できないわ」
彼女の白い肌に血管が浮き上がる。鷹取警部が、唇を噛んだ。
「それに、この通り魔事件に対するあなたの処置は充分じゃない。私たちの援助を、
拒む理由はないはずよ」
私は心臓が飛び上がるほど驚いた。
古参の鷹取警部は、警官仲間のうちでは人気者で人望もあり、からかいや冷やかしの
対象になることはあっても、そのやり方を正面切って批判する者など見たことがなかった。
二人はしばらく無言で睨み合っていたが、老警官が苦しそうに咳き込んだので、鷹取警部は
大人しく手を離した。鮫島警部もそれに習った。
鷹取警部の袖の陰から、掴まれていた部分が赤くなっているのが見て取れた。
”西の丸太の鷹”と”東の新宿鮫”が再び対峙する。
緊迫した空気を破ったのは、私の娘だった。
私のポケットの中の携帯電話が、大音量で鳴り始めたのだ。
私の携帯の着メロは、中島みゆきの「悪女」である。
いまだに携帯電話の扱いになれない私は、娘にセットしてもらった。
娘は中島みゆきなど見向きもしていなかったのだが、「地上の星」がヒットした
途端、いつのまにか着メロに登録していて、お父さんはどの曲が好きなの、と
聞いてきたのものだ。以来中島みゆきは、私たち父娘を繋ぐ、貴重な絆の一つになっている。
しかし、今は中島みゆきを聞きたい気分ではないのだ。
学生時代、私の愛した「悪女」のメロディが、意地悪く、陽気に刑事部屋にこだましている。
場にいる全員がこっちを見ていた。ものすごく気まずかった。
これまでに使用された作品タイトルを著者名あいうえお順でリストにしました。
重複確認の際などにご参照ください。
分かる範囲で書いているので、ミスがありましたらご指摘お願いいたします。
尚、メール欄に書かれていない等、記述の曖昧なものは省略させて頂きました。
ご了承ください。
【国内】
<ア行>
鮎川哲也「誰の屍体か」
>>11『黒いトランク』
>>84 有栖川有栖『双頭の悪魔』
>>69 江戸川乱歩「灰神楽」
>>52「蜘蛛男」
>>53「二銭銅貨」
>>63「猟奇の果」
>>66「何者」
>>91 「双生児」「幽霊」「指環」「盗難」「五階の窓」「大暗室」「闇に蠢く」「虫」「赤い部屋」
「芋虫」「堀越捜査一課長殿」「一人二役」「疑惑」「兇器」「火縄銃」「鬼」「悪霊」「指」
「日記帳」「十字路」「一寸法師」「蜘蛛男」「妻に失恋した男」「接吻」「毒草」「木馬は廻る」
(以上は
>>43>>56を参照)
大沢在昌『新宿鮫』
>>30 <カ行>
笠井潔『薔薇の女』
>>23『サマー・アポカリプス』(?)
>>58−59『バイバイ、エンジェル』
>>65
【海外】
<ア行>
フランシス・アイルズ『殺意』
>>49 コーネル・ウールリッチ「もう探偵はごめん」
>>36 ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』
>>31 スタンリイ・エリン『鏡よ、鏡』
>>76 アーロン・エルキンズ『古い骨』
>>92 <カ行>
E・S・ガードナー『氷のような手』
>>95 フレッド・カサック『殺人交叉点』
>>10 エラリー・クイーン『顔』
>>94 パトリック・クェンティン『わたしの愛した悪女』
>>96 アガサ・クリスティー『ねじれた家』
>>48 <サ行>
トマス・スターリング『一日の悪』
>>80 レックス・スタウト『料理長が多すぎる』
>>73 ネヴィル・スティード『ブリキの自動車』
>>71 ミッキー・スピレイン『裁くのは俺だ』
>>72
<タ行>
G・K・チェスタトン『奇商クラブ』
>>44 レイモンド・チャンドラー『事件屋稼業』
>>30「待っている」
>>46 ジョセフィン・テイ『時の娘』
>>38 カーター・ディクスン『ユダの窓』
>>82 ダフネ・デュ・モーリア『レベッカ』
>>37 サー・アーサー・コナン・ドイル「まだらの紐」
>>20 海外作家の<ナ行>はナシ。
<ハ行>
A・バークリー『チョコレート殺人事件』(?)
>>54−55
ダシール・ハメット『マルタの鷹』
>>28 ビル・S・バリンジャー『歯と爪』
>>39『消された時間』
>>40 レジナルド・ヒル『子供の悪戯』
>>83 レイ・ブラッドベリ『何かが道をやってくる』
>>26 ディック・フランシス「敗者ばかりの日」
>>7 クリスチアナ・ブランド『緑は危険』
>>74 ニコラス・ブレイク『野獣死すべし』
>>33 ローレンス・ブロック「夜明けの光の中に」
>>34『慈悲深い死』
>>81 アン・ペリー『見知らぬ顔』
>>85 E・D・ホック「長い墜落」
>>22
<マ行>
ロバート・R・マキャモン『遥か南へ』
>>32 ロス・マクドナルド『眠れる美女』
>>8『さむけ』
>>24『ドルの向こう側』
>>75『ギャルトン事件』
>>78 エド・マクベイン『通り魔』
>>9 >>19『凍った街』
>>70『死が二人を』
>>93 マーガレット・ミラー『まるで天使のような』
>>47 <ヤ・ラ・ワ行>
ルース・レンデル「カーテンが降りて」
>>35 以上です。
101ゲト。100まででキリよく収まらせたかったであります。
私は可能な限りクールな声で「失礼」と言い、席を立った。
ここで電話をとるわけにもいかないので、着メロは流しっぱなしにするしかない。
視界の隅で、鷹取警部と鮫島警部が顔を見合わせていた。
まあ、取り合えず二人の諍いに一石を投じることは出来たわけだ。
そう自分を慰めて、ドアへ向かった。その時、着メロが消えた。娘を呪うのは
筋違いだと分かっていたが、自分の口元が引き攣るのがわかった。
誰も彼もが私を笑っているように思える。警官たちが道をあけてくれたが、
彼らが意図しなかったにせよ、その仕草は私を憐れんでいるようにしか思えなかった。
私はあくまで何事もなかったかのように胸を張り、キビキビと歩くよう心がけたが、
皆にはどう見えたのか、自信はなかった。
入り口のドアを開けると、ちょうどゴミ収集車がやってきたところで、キンコンカンコンと
お馴染みの音楽が流れ込んできた。いいだろう。確かに今の私に相応しい、退場のBGMだ。
警察署入り口の階段を下りながら、ここで電話をするのもどうかと思ったので、裏庭の方へ
回ることにした。道端で眠っていた野良犬が、目を覚ましてひょこひょこと後をついてくる。
外は、先ほどまでとは違った空模様になっていて、雲が少し増えてきており、風が肌寒かった。
暖冬とはいえ、まだ冬には違いない。鷹取警部にあげ損ねた10円チョコを包み紙から出して、
犬に投げてやった。嬉しそうに平らげ、尻尾を振ってついてきたので、こちらも気分が明るくなった。
あまりなつかれ過ぎても困るので、それ以上は相手にせず、携帯電話を取り出して、
歩きながら娘にかけた。電話に没頭する風を装ったが、犬は伸び上がってこちらの足に
じゃれついてくる。
その時、鮫島警部を乗せてきた高級車の列を迂回して、ゴミ収集車が不恰好に緑色の
巨体をあらわした。私も犬も、慌ててわきに退く。路上に転がった空き缶をぺきぺきと
踏み潰しながら、収集車が止まった。灰色の制服を着た若い収集員が二人、降りて陽気に
挨拶をしてきたので、私も手を振って応えた。
彼らが無造作に、だが力強く、仕事を片付けていくのを見ていると、ゴミ容器に死体でも
入ってはいないかと想像していたことが急に現実離れして思い出され、何とはなしに
気恥ずかしくなった。
9回ほど呼び出し音を待ったところで、やっと先方につながった。苦笑しつつ、少々冗談
めかしながら話しかけることにした。
「ひどいじゃないか、あんなタイミングでかけてくるなんて」
「現在、電話に出ることができません。ピーっとなったら、」
娘の声とは似つかない、機械的な女性の声が応えた。私は電話を切った。
収集員たちのほうにちらと目をやったが、彼らは無論、とうに私の方など見ていなかった。
野良犬は一生懸命ゴミ袋をあさろうとして、その度に追い払われていた。
また一人に戻り、やることのなくなった私は、ぶらぶらと表に戻ることにした。
__∧_∧_
|( ^^ )| <寝るぽ(^^)
|\⌒⌒⌒\
\ |⌒⌒⌒~| 山崎渉
~ ̄ ̄ ̄ ̄
途中、喉が渇いてきたので、通りを渡ってコンビニに寄ってみた。
いい加減、署の前の自販機の品は、どれも飲み飽きているからだ。
店内は大学生らしい若者が数人いるだけだった。講義の合間の暇な時間を、立ち読みで
潰しているのだろう。アルバイトの店員も親しい様子で、商品の整理をしながら、二言三言、
軽口を叩き合っている。レジには誰もいない。
私は期間限定と書かれたベトナム系という触れ込みの乳酸菌飲料を持って、募金箱の文句を
読みながら待ったが、なかなか店員は戻ってこない。なので、棚を見て回るふりをしながら、
レジの付近をうろうろするはめになった。ポテトチップスのコーナーに紛れ込んでいた
カラムーチョを、元の場所に戻してやる。
二言三言どころではなかった。若者よ、君は死ぬまで無駄話を続けるつもりか。
「今週号のジャンプ、どうやった?」「うーん、俺の好きな作家が取材で休んでんのが、
やや不満。ハンターは、相変わらずやなあ」「ははは、載ってるだけましやん」
彼らの会話を聞きながら、棚の整頓に飽きた私は、再びレジの横に置かれた募金箱の文句を
読んでいた。もう8回目くらいである。そろそろジュースの紙パックに浮き出した水滴が
気になりだしたので、一度もとの棚に戻そうとした時、ようやく店員が気がついてやってきた。
小銭が500円玉しかなかったのでそれで支払い、おつりは思い切って全部募金箱に入れた。
約400円は、私にとっては結構な大金だが、まとめて8回分の募金だと思えば、そう高い額
でもないだろう。
信号を渡ったところで、念のためもう一度娘にかけなおしてみたが、やはり留守電だった。
おまけに、うつむいて歩きながら携帯の操作をしていたため、署の前で雑談していた
二人の刑事に、私は頭から突っ込んでしまった。
この場に居もせず、電話で一言発するわけでもなく、私をこうまで振り回すとは、
我が子ながら全くなんという娘だろう。こんな所で毒づいてみても、娘にこちらの
泣き声は聞こえないだろうが、いやはや、感心するほかない。
本能的に腕を振り回してもがきつつ、刑事の一人を道連れにすっ転びながら、私は
そんなことを考えていた。
「うわ、驚いた。先生じゃないですか、名探偵の。起きてください、大丈夫ですか?」
苦笑しながら私を助け起こしてくれた刑事の顔には見覚えがあった。
「やあ、そっちはどうだったい? 確か、怪しげな路上駐車の車がいる、っていう通報で
出かけていったんじゃなかったかな?」
はっきりしない頭をさすりながら、立ち上がる。
照れ隠しとはいえ、我ながら間抜けな質問をしたものだと思った。
眼の前に、私が署を出たときまではなかった、見るからに怪しい青いミニが停まっていたのだ。
彼らが署に先導してきた車に違いない。
事故でも起こしたのだろう、右側のヘッドライトが砕け、付近のボディが潰れている。
それほど大きな傷ではないが、離れた所からでもかなり目立つ。何しろ、そこ以外は
キレイな新車なのだから。
しかし、それ以上に驚かされたのは、ピカピカのブルーの車体の内側の方だった。
そこには、真っ白な、嘘のような世界が広がっていた。
というより、私は、車の中に雪が降っているのをはじめて見た。
(後で分かったが、実際にはフロントガラスの内側に敷き詰められた、綿だか何だかだそうだ。)
その上に可愛らしくデフォルメされた猫のぬいぐるみが並び、散りばめられたアクセサリーと
戯れている。よくこれで運転できるものだ。実際に街中を走っている車だとは信じられなかった。
「いやあ、これが飛んだ笑い話でして。実は、このけったいな車の持ち主、今回の通り魔事件の、
被害者の知人だったんですよ。今、署の中で話を聞いてるところですけどね。まあ、探し出す手間が
省けたってもんですよ」
そういって彼は笑ったが、これは私には耳寄りな話だった。ついに、依頼人になってくれそうな
人物に行き会ったのである。新車の中の女物の装飾から、派手好きな若い女性だろうと見当を
つけたが、果たして見込みはあるだろうか。
「どんな人なんだい?」と聞いてみたが、刑事は含み笑いをして「いや、会えば分かりますよ、
絶対驚きますよ」というばかりだった。いったい何だというのだろう。
「それよりも、早くそいつを起こしてやらないと。持ち場を離れ、わざわざやって来たってのに、
災難な奴だなあ」
その一言を聞くまで、私は足元に目を回して伸びている、気の毒なもう一人の刑事のことを
すっかり忘れていた。彼がクッションになってくれたおかげで、私は怪我をせずにすんだのである。
「うーん」とうめく彼を、私たちは二人がかりで引っ張り起こした。後頭部に、はっきりと
分かるほど大きなこぶができている。背中をはたいてやると、小石やアスファルトのかけらが
ぽろぽろと落ちた。
こちらの刑事も知った顔だったが、路上駐車の件で出て行ったうちの一人ではなかった。
鷹取警部と昼食をとった時、レストランで見かけたギャルトン刑事である。
(^^)
(⌒V⌒)
│ ^ ^ │<これからも僕を応援して下さいね(^^)。
⊂| |つ
(_)(_) 山崎パン
とん
ゴールデンレター
このスレを見た人はコピペでもいいので
30分以内に7つのスレへ貼り付けてください。
そうすれば14日後好きな人から告白され、17日後に
あなたに幸せが訪れるでしょう
120 :
名無しのオプ:04/01/04 05:29
文太
121 :
名無しのオプ:04/10/20 21:21:08 ID:ttyJ0WsP
とん
122 :
名無しのオプ:
かつ