【おじいさん】日本昔話を推理せよ!【おばあさん】

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4471 ◆/4.7OGB.Lw



俺はなぜあんなことをしてしまったのだろうか。
うなされる日々が続く。
それもこれも、全てあいつのせいだ。
眠れない日々が続く。

また・・・夜が来る・・・


4481 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:21


昼明かりの中、一人のみすぼらしい男が通りを歩いていた。
足取りはよろよろと、ちょっとしたはずみで転びそうだ。
往来には味噌を売る人、魚を運ぶ人、大道芸に見入る人、
様々にごったがえしていた。
男の足取りでは簡単にぶつかってしまうほどだ。
その中を、男は千鳥足で歩いていた。
酔っぱらい、誰が見てもそうだった。

4491 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:21


「おっと、ごめんなせぇ」

男はぶつかった人に謝った。
そしてまた、ゆらゆらと歩きはじめた。


町のはずれまで歩くと、男は橋の下へと潜った。



ボロボロの小屋があった。
中には、小屋以上に粗末な服に身を包んだ若い女がいた。
女は腹が膨れている。
孕んでいるのだ。

4501 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:21


「ほら、今日の稼ぎだ」
男はそう言って、懐から巾着を六つ、放り投げる。
それらは、じゃら、と音をたてて地面に落ちた。

「すまないね、おまえさん・・・」
女は小銭を数えながらつぶやくように言葉をかけた。


スリ、それが男の仕事だ。
スられる方が悪いのだ、それが男の言い分だった。
女もそれを重々承知している。


外は雨が降り出したようだ。
二人は身を寄せ合いながら、床についた。
雨の音だけがこの夫婦を包み込んだ。

4511 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:26


あくる日。
男はいつものように通りを歩いていた。

(あいつのためにも、稼ぎを多くしてやんないとな。
 生まれてくる子には何て名前を付けようか・・・)

そんなことを考えながら、仕事をしていた。
狙いを定め、通行人にぶつかり、手に盗った巾着を袖に隠して、また歩き始める。

4521 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:26


考え事をしていたせいか、
後ろから付いてくる影には気付かなかった。
袖に隠した巾着が四つになった途端、男の頭に衝撃が走った。
役人が男を後ろから殴ったのだ。


気絶した男に縄をかけると、役人は呼子を鳴らす。



数刻後、男は詰め所の中にいた。

4531 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:27


荒縄を腕に食い込ませて、床に男は転がっていた。
取り調べはまだだ。
詰め所の中には数人の役人がおり、
そのうちの一人が水を桶に入れて持ってきた。
それを男目がけてぶっかける。

男は目を覚ました。


(しまった・・・捕まっちまったのか・・・)


男はぼんやりした頭で思った。

4541 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:28


次第にはっきりする意識の中、後頭部に痛みが戻る。
頭を抱えようとするが、腕がうまく動かない。
後ろでに縛られていることに、ようやく気付く。


(取り調べが始まるんだな・・・)

どれだけ恐ろしい刑罰になるのか。
考えただけでも震えてしまうほどだ。



ふと、外から声が聞こえた。

「火事だ!」
 
4551 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:28


どうやら付近で火事が起こったらしい。
男は、(しめた!)と思った。

所狭しと立ち並ぶ木造住宅ではたちどころに火が広まってしまう。
住民総出で火を消すのが慣わしだ。
今もまた、例外ではなかった。


役人は手に手に桶や鍋を持って外へ飛び出していく。
井戸に向かったのだろう。

男は誰もいなくなった詰め所の中で、
袖から短刀をどうにか取り出し、縄を切り始めた。
以前に盗んだ金で手に入れたものだが、
ひょうんな所で役に立つものだ。

4561 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:29


縄を切り終わると、男は裏口へと向かった。
表から出ると、役人に見つかる恐れがある、そう思ったからだ。

しかし、その考えが浅はかなものであることを知ることになった。

役人がいたのだ。

どうやら、厨で水を汲めるものを探していたらしいが・・・

役人は懐から呼子を取り出した。


(鳴らされては捕まってしまう!)

男は手にした短刀で飛びかかった。
役人は抵抗する間もなく、喉を切られて倒れた。

ドサッ、という音が外から聞こえる叫声に紛れる。



誰にも見られなかったことを確認すると、男は外へと逃げ出した。

4571 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:30


家へたどり着くまでのことはよく覚えていない。
人から金を盗んだことは数知れないが、
人を殺したのは初めてだった。


きっとすぐに似顔絵が作られて、この家もつき当てられてしまうだろう・・・


男は隣りに女房がいることも忘れて、恐怖に身を震えさせた。

4581 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:30


すぐに男は一つの考えにたどり着いた。

「逃げよう!」

そう叫ぶとすぐに、女を外へと追い出すと、
家にあった金を持って町へと歩き出した。
道中の食料を買うためだ。
女にひもじい思いをさせるわけにもいかない・・・

4591 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:30


人とすれ違うたびに男は隠れるようにして早歩きになり、
女はそれについていくのに足を早めた。
女はお腹の子を気遣いながら、男に逃げる理由を尋ねた。

「お前は知らなくていい」

それが男の返事だった。

何度聴いても同じ答えしか返ってこない。
女はだんだんと苛ついてきたが、怒ったところでどうしようもない。
男の顔も強張って、今にも腕が飛んできそうだったこともある。
どうにか気持ちを抑えて、静かに聴いた。

「どこに行くの?」

「できるだけ遠くに」


男は、もう何も聴くな、とだけ言うと、店へと入っていった。

4601 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:31


旅支度を済ませ、二人は町のはずれへと急いだ。


(余所へ行くなら旅団に入るのがいいのだろうが、
 恐らく既に抑えられているだろう。
 やはり、歩くしかない)


男はそう思った。

4611 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:33


郊外に出る寸前だった。
呼子の音があたりに響いた。

(見つかった!)

男は周囲を見回すと、往来の中で呼子を持つ役人を見つけた。


(殺すか・・・いや、逃げた方がいい・・・)

すばやく考えると、女の手を引いて走りだした。
ここから近くに森がある。
そこまで逃げれば、追ってをまけるはずだ・・・


役人は距離を保ちながら追いかけてくる。
相手は既に人を殺しているのだ。
一対二では分が悪い。
仲間が来た時に位地がわかるようにだろう。
時々呼子を吹くのは忘れない。

4621 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:35


森が見えたとき、役人は少し焦った様子で急ぎだした。
男と女は森へと入っていった。

しかし、孕んだ女の足では、森の中を歩くのは辛い。
夕方の森は薄暗く、遠くまで見渡すこともできない。
女はもう歩くのが精一杯な様子で荒い息を吐き出している。


(こいつがいなければもっと速く逃げられるのに)

男は苦々しく女を見ながら額の汗をぬぐった。

4631 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:36


呼子の音がかすかに聞こえる。
森の中では音が吸収されて、音は遠くまで聞こえないはずだ。
それならば、聞こえるよりも近くに役人が迫っている・・・

男は焦った。


女を引きずるようにして森の中を走りだした。
どれだけ走っただろうか。
次第に、水の音が聞こえてきた。


川が近いのだろうか・・・
小さい川なら渉ることができる。
しかし、大きければ・・・俺はともかくこいつは・・・


夜の森がうっすらと開けているのが見えた。
呼子の音も、すぐそこまで迫っている。
後ろを振り返る余裕もなく走ってきたのだ。
川を渡るしかない。
男は川が渡れることを祈って森を抜けた。

4641 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:36


目の前には、川があった。
昨夜まで続いた雨で増水した川だ。
すでに空は白んでおり、夜明けが近い。

(渡らなくては・・・)

脅迫めいた考えだけが男の頭にあった。


二人は流れの速い川に足を踏み出した。
女が流されないように、男は後ろから女を支えた。
川の底の石はすべりやすく、今にも足を踏み外しそうだ。

4651 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:37


腰まで浸かるほど進んだ時、後ろから声が聞こえた。

「いたぞ! こっちだ!」


(見つかった!)

男は頭が真っ白になった。


(急がないと、急がないと捕まってしまう!)


「速く歩け!」

男は喚きながら女の背を押した。

4661 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:38


次の瞬間、女が視界から消えた。
男はわけがわからず唖然とした。
川の深みに落ちてしまったのだ。
女はただ、川に翻弄されて流されていく。

男は女が流されてしまったことを悲しむよりも、
逃げ足が速くなったことを喜んだ。

4671 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:38




気がつけば、夜は明けていた。



4681 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:38


数日後、男は別の町にいた。
相変わらず橋の下で過ごしていた。
だが、頬は痩け、その目は虚ろだった。
毎晩うなされ続けているのだ。

夢の中に出てくる女。
童歌を歌いながら出てくる女。
その手には、血塗れの赤子を抱えて・・・

4691 ◆/4.7OGB.Lw :03/12/15 23:39


かごめ かごめ
籠の中の鳥は
いついつ出やる
つるとかめがつぅべった
後ろの正面だぁれ・・・