365 :
名無しのオプ:
俺は正直言って、困っていた。
(このコブさえなけりゃ、女にもてて、遊べて、ウハウハなのにな。)
そういえば、隣にもコブつきの兄ちゃんがいたな。
可愛そうに・・・。あいつも俺みたいに悶々としてるんだろうな・・・。
どうやったら取れるんだ?このコブは?
誰かに押し付けるわけにもいかないし、はぁ、やだやだ。
俺は野良仕事に出た・・・。
366 :
名無しのオプ:03/11/08 02:04
野良仕事・・・楽しくは無い、がしなけりゃ生きていけない。
淡々と同じ動作を続けた・・・ん?隣の兄ちゃんも野良に出てるな。
あいつは俺と違って真面目だ、母親の面倒見もいいし評判の息子だ、俺と
同じなのは・・・共にコブつきって事だけ。あ〜だりぃ、博打にでも行くか、久々に。
俺はついてた、信じられないくらい。
たった三文の金があっという間に一両になった、へへへ、これだけありゃ
女も買えるな・・・。
しかし、一人の男が俺の人生を狂わせた・・・。
そいつはこう言って近づいてきた・・・。
「兄さん、馬鹿づきですな、ちょっといい話あるんですけど、のりません?」
「いい話?」
「そ、ま、ここじゃなんなんで、飲み、行きましょ。ささ・・・。」
「お、おう・・・。」
367 :
名無しのオプ:03/11/08 02:08
「で、なんでぇ、話って?」
「せっかちですな、旦那・・・おい、おやじ、燗つけてくれ。」
「へぃ。」
「いえね、話ってのは、おっ、きたきた、まま一杯・・・。」
「こりゃ、すまねぇ・・・で、話・・・。」
「そうそう、話、旦那ぁ、鬼って信じますかい?」
「鬼?ねぼけてるのかい?」
「ははは、ねぼけちゃあ、いませんよ。鬼、です。」
「角の生えた?」
「あはは、角は生えちゃあいやせん。」
「じゃあ、何が生えてる?」
男の話を説明するとこんな感じだった・・・。
368 :
名無しのオプ:03/11/08 02:15
「鬼」と呼ばれる集団、平たく言うと「殺し屋」がいる、ということだった。
なんでも金次第でどんな仕事でも受けてくれるそうだ。
で、話し掛けてきた男は俺にこう言った・・・。
「そいつらに頼んで、越後屋、知ってます?大店の、越後屋。」
海産物問屋の越後屋を知らぬ者はここらへんにいない、蔵には千両どころか万両詰まってるって、話だ。
「その越後屋を・・・皆殺し・・・。」
「・・・・・して、どうする?」
「頂くんですよ、蔵の金を。」
「「鬼」が許さないだろう、横からかすめとる、なんて・・・。」
「いいえぇ、あいつらおかしいのが集まってるんですから・・・中には
そういう仕事が趣味、って奴もいるぐらいで・・・。」
「やめた、やめた!そんな危ないことに首突っ込めるか!帰る!」
俺はそう言うと、酒代を男に投げつけ足早に家路に着いた・・・。
369 :
名無しのオプ:03/11/08 02:25
俺の鼓動は早鐘のように打っていた・・・ドクドクドクドク。
「「鬼」か・・・。そんなもん、金でどうのこうのなんて奴が・・・いるのか?」
翌日、俺は相も変わらず野良に出た。隣の兄ちゃん・・・威勢良く野良やってるな。
・・・?あ、あいつコブが無い・・・あんなに目立ってたのに。何故だ?
聞いてみようか?しかし、あんまり親しくないしな・・・あいつの周りには
色んな女がいつもいるんだよな。同じようにコブがついてる俺には誰も目もくれないのに。
頭下げるの、嫌だな。そうだ、お袋に聞かせに行けばいいんだ。
俺はお袋に頼んで隣の兄ちゃんの所へ聞きに行ってもらった・・・。
晩飯の時、俺は聞いてみた。「なんて、言ってた?」
「そうさねぇ、ただ、笑ってただけさね。」
「笑ってた?んじゃなくてちゃんと聞いたのかよ。お袋。」
「聞いたよぉ・・・もういいじゃないか。母ちゃんお前が色々悩んでるのも
判ってるよ、でもね、なったことはしょうがないじゃないか。それも受け止めて
生きていかなきゃ・・・。」
「うるせぇぇぇ!」
俺は夜の町に飛び出た・・・あの、博打場で、あいつを見つけなきゃ・・・。
370 :
名無しのオプ:03/11/08 02:37
あいつは簡単に見つかった、ついてる奴片っ端から声を掛けてるようだった。
「よ・・・よぉ。こないだは、わ、悪かったな・・・。」
「おっ、旦那・・・のるんですかい?」
「は、話し次第だな・・・ここじゃアレだ、外に行こう。外。」
「あのさ、「鬼」ってのにはどうすりゃ逢える?」
「逢って何を頼む・・・ま、いいでしょ、人にはそれぞれ悩みがあるんだ、
聞かないでおきましょ。しかしねぇ・・・。」
「ど、どうした?」
「いえね、逢おうと思って逢えるもんじゃ無いんですよ。」
「ど、どういうことだ?」
「ここから四里ばかり離れた山の中腹に今は忘れ去られたようなお堂がありやす。」
「うん、で、、、。」
「その、お堂の前に地蔵があってそれの下に自分の殺して欲しい相手の名前を書いた
紙を埋めるんです、すると「鬼」が仕事するんで頼んだ方は、銭払うんです。」
「ど、どこに・・・?」
「また、その地蔵の下に、銭を埋めるんです。」
「そ、そうか・・・ありがと。」
俺は一目散に家に帰った・・・この間の一両がまだある、一両も払えば「鬼」も納得するはずだ。
そいつらが動けば、俺も変われる、邪魔なコブを取って生まれ変わるんだ!
「あ〜あ、行っちゃったよ・・・困るね、せっかちなお人は・・・ま。しょうがねぇか。」
371 :
名無しのオプ:03/11/08 02:47
次の日、朝早くに俺は出かけた。
寝不足に四里はきつかったがなんとかお堂を見つけた・・・。
「ぼろぼろだな・・・薄気味悪ぃ・・・おっあれが地蔵だな。」
俺はそいつを動かし、地面を掘り、紙を埋めた・・・。
「最近は誰も頼んでないみたいだな、土が固ぇや。えっと・・・これでいいのかな?」
その時・・・「うぬは何故ここに来た・・・?」
地の底から震えるような低い声が・・・聞こえた。
「ひゃっ・・・こ、こ、こ・・・」
「殺したい者がいるのか・・・。」
「そ、そ、そ・・・で、・・・す。」
「そうか、何故に殺したいのじゃ・・・。」
「じ、じゃ、じゃ・・・じゃまだからです。お、俺にまとわりついて
いつでもどこでも俺の前に現れる、うっとおしいったらしょうがねぇや!」
俺は半ばヤケになっていた・・・。殺されるんじゃないか、とも思っていた。
「そうか、、、帰れ。紙を見て我々は判断する。勘違いするな、我々は殺し屋では・・・無いぞ。」
俺は叫びながらそこを離れた・・・気がおかしくなりそうだった・・・家に着くなり
布団をかぶってガタガタ震えてた・・・お袋は心配したが、どうしようもなかった・・・。
372 :
名無しのオプ:03/11/08 02:55
数日後、赤ん坊の泣き声で俺は目が覚めた・・・。
それに外がなにやら騒がしい・・・俺は寝ぼけ眼で表へ出た。
「あんたの子、だってさ。」
お袋が困惑したような顔で俺に赤ん坊を渡す、捨て子にしちゃひどく上等な着物を着ている・・・。
「それにこれ・・・手紙、あんた宛だよ。」
俺は手紙を受け取り家に引っ込んだ・・・。混乱の極みに俺はいた・・・。
「手紙・・・誰からだ?なになに・・・。」
赤ん坊をあやしつつ、俺は手紙を読んだ、表の人垣はいつの間にか消えお袋も戻ってきていた。
「で、なんて書いてあったんだい?」
俺は今、読んだばかりの文面を反芻していた。
「巷では我々を「鬼」と称しておるのは知っておったが、お前は本当の鬼だな」
この一文から手紙は始まった・・・。
373 :
名無しのオプ:03/11/08 03:00
「今まで、色々な人間が我々の前に現れたが子殺しを頼んだのはお前が
初めてじゃ、いかな我々とて親を慕う子を殺すなど、出来る訳が無い。
我々がお前の近在で見聞きしたところによるとお前は自分が不幸なのは
我が子のせいである、と常々嘆いている、ようじゃな。
しかも、母親の言葉にも耳を傾ける素振り、すらない、真に不届き・・・」
説教はいいんだよ・・・で、なんでここにもう一人ガキがいるんだ?
こっちは一人でも持て余してるのに・・・。
374 :
名無しのオプ:03/11/08 03:08
「・・・長々、と書いてきたが我々はお前に罰を与える事にした。
子供が嫌いなお前に、もう一人子供を授けてやる。
その子は江戸の大火で焼け出された身寄りの無い子供じゃ、育ててやれ。」
確かにこないだの大火事で大勢の子供がみなしごになったとは、聞いたが・・・。
まだ、続きがあるな・・・。
「しかしただ、他人の子を育てろ、と言ってもお前には無理だろう、だから我々は見張ることにした。
その子を捨てるなり、殺すなり、里子に出すなりしたら、お前をひどい目に合わせる。
ふふふ、きちんと育てろよ、いつも見てるからな。そうそう、我々も鬼では無い、例の地蔵の下、掘ってみよ。」
・・・鬼じゃん、こいつら・・・。
しかし・・・。俺はお袋に赤ん坊を預けると地蔵の所へ行った。
375 :
名無しのオプ:03/11/08 03:12
「ハァハァハァ・・・またここに来る、とはな・・・。」
地蔵の下を掘った・・・金だ。大判、小判が、ザクザクと・・・。
「ゆ、夢か・・・?いや、違う、やった大金持ちだぁぁぁ。」
・・・・・子供たちのために使え・・・・・
・・・・・隣の家の男の様にはなるなよ・・・・・
低い声が突然聞こえ、俺は心臓が飛び出るかと思った。
・・・・・いつでも見ているぞ・・・・・
・・・・・いい父親、いい爺さんになれよ、ふふふふ・・・・・
376 :
名無しのオプ:03/11/08 03:23
・・・結局、お袋は何も言わなかったし聞かなかった。
ただ赤ん坊の出所だけは俺に尋ねた、みなしご、だと聞くと
ただ「そうかい、じゃあがんばって立派な子にしなきゃね、お前みたいに。」
と皮肉だか嫌味だかを俺に言った。
男は二人で飲んでいた「あ〜あ、結局誰ものりゃしねぇ、「鬼」なんてものを
でっちあげて頼みに来た馬鹿から金を取る、って計画はあんまり上手くいきませんでしたね、御頭。」
「ふふふ、まぁいいじゃねぇか、俺は楽しんだぜ、今回。」
「ま、御頭がいいんならいいんですけどね。」
「あいつ、ちゃんと育てるかな?」
「育てる、でしょう。なんせ自分の命がかかってるんだから・・・。」
「違いねぇ、俺は親に疎まれ、世間に嫌われ、いまじゃこんな商売やってるからな・・・
俺みたいなガキを増やしちゃいけねぇ・・・。」
「今度は、どんな仕掛けを考えやす?御頭。今回はまぁ、いいことしたんだし
次はがっぽり稼ぎやしょう!」
377 :
名無しのオプ:03/11/08 03:30
「俺はいつだって真ん中にいた、誰からも愛された、羨ましがられた。
読み書きは一番出来たし、算盤も出来た、顔もいいし、身体も強かった。
なのに・・・なのに、あの女だけは・・・俺から離れていった。
俺は・・・あの女の面影を残すこのガキが嫌いだった、疎ましかった・・・。
隣の馬鹿息子はガキが増えたのに、前より楽しそうだな・・・くだらねぇ。」
俺の方が自由だ、女にももてる、金もある・・・。なのに・・・。
「おとうちゃん、大きな石持って、何するの?」って声が耳にこびりついて、はなれねぇ・・・。
あいつはいなくなったのに・・・・・俺は、幸せなのか?
コブが無くなった俺、とコブが増えたあの野郎・・・どっちが幸せだ?