「……で?」
「で、とは何だね?」
「それから、どうなるんです? 津波に呑まれて、
小林さんたちはどうなっちゃったんですかね?」
僕の質問に対して小林さんは、むぅ……と唸った。
「死んだんじゃないかな? いや、生死不明、とかにした方が……
続編を匂わせているから……いいんじゃないか?」
「続編があるんですか?」
「いやぁ、考えてないけど……。それにだな、私の台詞かっこいいだろ?
『いきなさい』。これが書きたかったんだよ」
僕はため息をついた。
「そんなの、ダメですよ」
「ダメかね?」
「ダメです」
推理小説には結構、持論を持っているせいか、僕はつい力説してしまった。
「犯人が最後に犯行の動機を自白して、自殺するってケースは
ミステリとしてサイアクですね。ちょっと前に流行った
推理コミックみたいですよ」
「な、なら、ウケるんじゃないかね?」
「ダメですよ。それに、これじゃなんだか僕が真理の尻に
敷かれてるみたいじゃないですか」
「それは、結構、当たってるんじゃないかね?」
「な……」
僕が言葉を詰まらせると、小林さんはチラリと真理の方に目配せした。
あわてて真理が目をそらす。
「とにかくダメったらダメです。トリックもなんだか大掛かりな割には、
効果薄いし、穴もある。今日子さんの過去の設定だって強引すぎます」
「結構、イケると思ったんだがなぁ」
「これなら、今日子さんが作った雪山殺人の事件の方が断然面白かったですよ。
くれぐれも、こんなプロット、ソフトハウスに持ち込まないで下さいね」
「……わ、わかったよ」
小林さんは、僕に気おされたようにしぶしぶと頷いた。
「おじさん、透に嫌われちゃったわね」
真理が愉快そうに笑う。
「茶化さないでくれよ。元々、そんなに自信があったわけじゃないんだ。
また、あらすじから練り直すとするよ」
小林さんは、頼りなさげにハハハと笑った。
ちょっと言い過ぎてしまったかな?
僕は、なんとなく悪いことをしてしまったような気がした。
そんなことが去年、シュプールに行った際にあったから、
僕がこの夏、店頭で「かまいたちの夜2」を見かけたときに
凍りついたのは言うまでもない。
終