80年代後半より、講談社ノベルズを中心に登場した新人作家たちによるムーヴメントのこと。
87年に綾辻行人が『十角館の殺人』で登場したことを嚆矢とする。
#ちなみに「新本格」の名前が商業的に初めて用いられたのは同作家の『水車館の殺人』の背表紙から。
翌88年より、斉藤肇、歌野晶午、法月綸太郎、我孫子武丸、黒崎緑らが続々と登場。
さらに平行して東京創元社より折原一、山口雅也、有栖川有栖、北村薫らがデビューを飾った。
これらの作家のの傾向を一言で言い表すのは不可能であるが、無理に総括すれば、
「謎解きを最重要課題に置いたミステリーらしいミステリーの復権」を目指したと言えるだろうか。
70年代後半には竹本健治、笠井潔、島田荘司らが登場しているものの、
書店を制していたのは、社会派やトラベルミステリーの類であり、これら先輩たちも沈黙を余儀なくされていた。
こうした状況を打破したのが、新人作家たちの大量デビューであり、「新本格」は商業的なレッテルとして多大な効力を発揮した。
反面、こうした枠組みに入れられることを当の実作者たちは困惑をもって受け入れていたようである。
「新本格」は、95年以降、京極夏彦が、西澤保彦、森博嗣らの登場により、実質的な終焉を迎えた。
この世代交代に絶えられなかったのか、綾辻、法月、我孫子らは一様に寡作となっていった。
さらに現在においては、清涼院流水、乾くるみ、高田崇史、霧舎巧、殊能将之らの登場により、
「新本格」という言葉が体現していた理念や商業的パッケージは完全に解体してしまっている。
ちなみに「新本格」という言葉自体は、森村誠一がデビューした当時にも用いられており、決して新しい用語ではなかった。