「そんな事より、警部、ちょっと聞いてください。スレとは、あんまり、関係無いんですけど。」
亀井は、十津川に、いった。
「どうしたんだい。カメさん。」
十津川は、振り向いて、いった。
「この間、近所の吉野家に、行ったんです。そうしたら、何だか人が凄く多くて、座れないんです。」
「ほう。」
そこへ、西本が、戻ってきて
「そういえば、さっき垂れ幕が下がってて、150円引き、と書いてありましたよ。」
と、いった。
「そうなんだよ。親子連れも来ていて、父親らしき人物は、特盛を頼んでいたんだ。だけど公子や健一、マユミと一緒だったから、その人に150円払って、何とか座らせてもらったんだ。」
「それは大変だったねえ、カメさん。」
と十津川は、笑いながら、いった。
「ところが警部、やっと席に座れたと思ったら、隣の男が、大盛つゆだくで、と言い出したんです。これはいったい、どういう事なんでしょうか。」
亀井は、怒りながら、いった。
十津川は、席を、立ち
「カメさん、まあ吉野家っていうのは、本来、殺伐としてるものだよ。Uの字テーブルの、向かいに座った相手と、いつ喧嘩が始まっても、おかしくない、刺すか刺されるか、
そんな雰囲気がいいんだよ。奥さんや健一君達を連れていったのは、失敗だったね。」
と、いった。
「そうなんですか。」
「カメさんも、つゆだくなんていうのは、今時流行らないというのは、しっているだろう。
得意げな顔して、つゆだくで、といっているような男がいたら、その男に、本当につゆだくを食べたいのかと問うて、問い詰めて、小1時間問い詰めなければ、いけなかったんだ。
おそらく、その男は、つゆだくと、言いたいだけだったんだろう。」
と、十津川は、いい、タバコに火をつけた。
「そういえば、そうでした。確かに迂闊でした。」
と、亀井は、悔しそうに、いった。
「吉野家通の、私から言わせてもらえば、今、吉野家通の間での最新流行は、やはり、ねぎだくなんだよ。大盛りねぎだくギョク、これが、通の頼み方なんだ。
ねぎだくってのは、ねぎが多めに入っているんだが、その代わり肉が少なめなんだよ。そして、それに大盛りギョク(玉子)。これが、最高なんだ。」
「なるほど。」
と、亀井は、西本と、顔を見合わせながら、いった。
「だけど、これを頼むと、次から、店員にマークされるという危険も伴う、諸刃の剣だから、あまりお薦めは出来ないがね。」
と、十津川は、いった。
「それなら、今度、みんなで牛鮭定食を食べに行きましょうか。」
と、西本が、いった。
「それはいいね。」
と十津川と、亀井は、楽しそうに、いった。