「君はどういうところから、自分が自分であると分かるかな」
「俺は昔から俺だし、ずっとこの先も変わるわけが無い」
はずだ。
「そう、その昔から……が一番重要なんだよ。記憶がある、
それが連続して、という所だ」
「当たり前だろう、そんな事」
白い老人は何度もうなずいた。
「その通り。それを逆に考えてみよう。沢山の人格がある。
それを、個々の人格が主張する。つまりそれは記憶が断続
的に残るという事では無いかな」
「つまりAという人格とBという人格がそれぞれ自分が覚醒
している時の記憶だけ得られるということ……でいいのか?」
「まあ、いいでしょう。より分かりやすく説明するなら記憶
する器官が分裂して相互に働きかけられない、でいいかな」
実は今も全く何がなんだか分からない。ただ俺は相手のいう
事合わせているだけだ。
瀬戸川がどうにか理解できたのは、公魚権の『虚城 〜インターネット殺人事件』とは、
ネタに困った公魚権なる作家が、同人女の作品をついパクッてしまって発表したために、
殺人まで犯してしまう、とかいう珍妙な粗筋だけだった。
「つまり何か、こいつは自分の犯罪をこの本で自白しているわけだな」
「いえ、これはメタミステリと言って」
「ああ、それももういい、もういいって言ってるだろ!」
笠井を追い払って、瀬戸川はもう一度『虚城 〜インターネット殺人事件』に目を通し始めた。
「・・・『まあ、いいでしょう。より分かりやすく説明するなら記憶
する器官が分裂して相互に働きかけられない、でいいかな』
実は今も全く何がなんだか分からない。ただ俺は相手のいう
事合わせているだけだ。」
・・・何じゃこりゃ?さっぱり理解できんぞ!
瀬戸川は、激しく頭を掻きむしった。
実は今も全く何がなんだか分からない。ただ、俺は相手の
いう事に口を合わせているだけだ。
「そして密室の状況を思い出そう。まず、君の母親は密室の
中で悲鳴をあげた」
そういえば、なぜこの老人は事件の事を知っているのだ。
「それを聞いた君は密室に向かった。しかし鍵がかかってい
たのか、開かない。それで……父親を呼びにいったのだね」
そうじゃない俺はその時、抱かれていたのだ。
もちろん、今までの流れを無視して書き込まれた157に、フォロワーなど出なかった。
何事もなかったように、その後の掲示板の展開は、今までの書き込みが実は公魚権の
『虚城 〜インターネット殺人事件』という小説の中の描写であり、公魚権自身が
殺人事件の容疑者になるという物語(A)と、『虚城 〜インターネット殺人事件』の
中の、ロシアへ向かう私と白い老人の対話の描写(B)の二つに、分裂して続いていた。
182 :
名無しのオプ:01/12/10 03:22
笠井は自分の考えを上司が取り合ってくれないことにイラだっていた。
彼は件のBBSの書き込みが事件の鍵であることを確信していた
(彼はすぐに確信する性格だった)。
なにしろキャッシュには被害者の書き込みが残っていたのだ間違いない。
それによると被害者は「111(ほんもの)」というハンドルを使っていたらしい、
すると流れから言っても157に残された「111(ニセモノ)」という名義の書き込み、
これは犯人が残したものに違いない。
それは第一次大戦のもたらした大量死がミステリ黄金期の作品を生み出す
要因になっていることと同じくらい間違いのないことだ。
183 :
名無しのオプ:01/12/10 03:31
イラだちを露にしながら笠井は選外刑事に言う
「鑑識の草加さんからなにか言ってきてないか?」
「あれ、知らないんですか部長。草加さんは休みですよ」
「なに?」
「なんかトラブルに巻き込まれたって話で」
「じゃあ、担当は誰だ?」
「業腹所長か馳辺さんあたりじゃないですか」
「バ、バカ確かめろ」
「えーと、あ、野崎さんです」
「なんだと!」
よりによって犬猿の仲の野崎とは……
184 :
名無しのオプ:01/12/10 08:41
海苔付はベットの上で、秋が持ってきた紙を睨み続けていた。
例の掲示板をプリントアウトしたものだ。
海苔付が倒れた現場で、死んでいた人物が111(ほんもの)のはずだ、
では
>>171以降の111(ほんもの)は誰なのか。
まったく関係のない人物がただの興味本位で書き込みを引き継いでいるのか・・・
それとも―――。
この171以降の111(ほんもの)が新たな被害者になる可能性は大きいのではないか。
185 :
名無しのオプ:01/12/10 08:50
ベッドの脇では秋が折り紙で一心不乱になにかを作っている。
186 :
名無しのオプ (実は111):01/12/10 11:47
*
それにしても・・・
病院に向かう瀬戸川はまた考え始めた。
どうして現場にあった本は、消えてしまったんだ?
この、俺があちこち古本屋を駆け回って漸く買えた本と、何か違うというのか?
そうか!よし判った!オリジナルだ!!見ろ、やはりコイツは自分の本で自白しているぞ。
現場にあったのはこの市販本じゃなかった。
この作品の元ネタになった、同人本だったんだ!
海苔付は、市販本にしてはお粗末な造本であることを言おうとしていたのか。
だが、彼の推理は、ベッドに半身を預け折り紙を弄んでいた海苔付に、アッサリと覆された。
187 :
名無しのオプ (実は111) :01/12/10 11:48
「ああ、あれはゴタイソーという安売り店が出している廉価本なんですよ。
瀬戸川さんの持っているのは、それのオリジナル」
「そうか、やはり盗作だったんだな!」
「違いますよ。自分で自分の旧作をリメイクしたんです。焼き直し。」
海苔付が、しょげる瀬戸川を病室から送り出したその時、向かいの個室の扉が開いた。
骨折でもしたのだろうか。ギブスをした患者と、それを見舞いに来たらしき若い女が見えた。
「秋・・・ちゃん?」
若い女は怪訝な表情で会釈をすると、去っていった。
残された患者の方は、海苔付と視線が会うと、無愛想な顔で扉を閉めた。
「ちぇ、感じ悪いな。それにしても今の見舞い客、秋チャンに瓜ふたつだったが?」
188 :
111(ほんもの) :01/12/10 11:49
「何、あの男。こっちをジロジロ見て。気持ち悪い」
見舞いに来たバイトの娘を送り出した私は、向かいの病室の男のことを思い出していた。
私のこととしか思えない書き込みが混じっていたり、会話を盗聴されているともとれる
書き込みが相次いでいることから、私はちょっと神経質になっているのかも知れない。
「私を見張るために、わざわざ入院した、とか。まさかね」
もちろんその時私は、向かいの男が刑事だなんて知らなかった。
それから、『虚城 〜インターネット殺人事件』という本が実在することも。
何しろそれは、一般の書店で売ってなかったのだから。
もしその本を読んでいれば、もっと早く事件の真相が判ったはずなのに。
全ての手がかりは、その中にあったのに。
189 :
名無しのオプ:01/12/10 14:58
「ええ〜? でもおかしくないですか、これ」
選外刑事が言った。
「だって、この入院してる女、コロシは知らんのでしょう?
事件なんてコイツにとってはなにも起こってないじゃないですか」
「バカ!」笠井が怒鳴る。
「なに内容を読みこんでるんだ。問題はこの新しい111が誰かってことだろうが。
書いてある小説モドキの内容に惑わされるな、このアホ」
もちろんこの時点では、前にも言った通り、私にとって111とは、
ただの見知らぬ匿名の人物にすぎず、しかもとうに殺されていたことなど、
知る由もなかった。
いや、全てが終わってしまった今となっては、幾百のIFを並べても無駄なことだ。
何しろある程度の手がかりは、本当にいつも目の前にあったのだから。
私のこととしか思えない書き込み。盗聴されているともとれる書き込み。
私にもっと推理力さえあれば、その後の事件の展開も違っていたのだから。
(※以下は、読者への挑戦状にして、最後のご挨拶です。みんな今までご免ね)
生前の111とは全く面識がなかったので、どんな人物かは判らない。
ただ、彼が最後に遺した書き込みから、その孤独な横顔は何となく想像がついた。
そうですか。そんなに俺のことがウザイんですか。
判りました。もう二度とこの板には来ません。
俺は俺なりに、何とかこのスレの崩壊を食い止めたかっただけなのに。
ネタだらけで無茶苦茶になってるけど、なんとかそれも生かした話にしたかっただけ。
いいよ。君達、自分では何にもしないくせに、文句ばっかり付けてればいいよ。
もう伏線も張り終わったし。大した謎じゃないから、真相は判る人にはすぐ判るはず。
でも俺はここじゃ嫌われているから、誰も解いてくれずに放置されるのがオチかな。
全く俺にふさわしい結末だ。じゃあね、グッドバイ。
あとから海苔付という、向かいの部屋に入院していた刑事から聞かされた話では、
111はパソコンの前で、上の書き込みを入れた直後に殺されてしまったらしい。
誰からも相手にされず、消えていった111。
私はどうなのだろう。誰かに覚えていて貰えるのだろうか。
それとも、誰にも相手にされないまま、退場していく運命なのだろうか。111同様に。
私がどうして海苔付と知り合いになったかなんて、どうせ誰も関心がないと思う。
誰もが警察と知り合いになるよりも、さよならを言う方法を知りたがっているのだから。
192 :
名無しのオプ:01/12/10 21:37
完
「どうした、なぜ泣いているのかね」
白い老人が聞いてくる。俺の眼からなぜか涙が流れていた。
「大切な人を、なくしたような……」
大切な人?誰だそれは。自分が何を考えているのか分から
ない。目の前の老人はとまどう俺におうようにうなずいた。
「その人物は君の心に残っている」
?
「まあ、それは今は置いておくしかない。密室の話だ。君の
父が密室の扉を破って、まず君が部屋に入った……
「その中に居たのは君の母親だけだね」
そうだ、ジタンの女など誰かの妄想にすぎない……
「さてと、ここで君はどうやって犯人が部屋を鍵のかかった
部屋を出入りしたと考えるかな」
俺は……
「あっノリさん、探してたのよ。屋上でなにボーと突っ立ってるの。風邪ひくわよ」
秋の呼びかけで海苔付は我に返った。
196 :
名無しのオプ:01/12/12 09:43
「はい、頼まれてた虚城のゴタイソー本。4軒目でやっと見つけた」
「秋ちゃん、君さ、昨日、向かいの女の人の見舞いに来てなかった?」
「え?」
「そんなわけないか。あんまり君にそっくりな人を見かけたからさ。」
海苔付は、探るような表情で秋の顔をじっと見つめた。
197 :
名無しのオプ:01/12/12 12:50
「そんなに見つめられると照れちゃいますぅ」
秋は海苔付に背を向けスキップして屋上の入り口へと消えた。海苔付も病室に帰ることにする。
「――それにしても、私はいつの間に屋上に上がって来たんだ?」
198 :
名無しのオプ:01/12/12 15:36
(どうもこのところ、記憶が時々なくなるような気がするが・・・やはり過労のせいか?)
海苔付は、ふと不安に駆られる。
そういえば、秋ちゃんは、いつからうちで働いているんだ?変だな、思い出せない。
海苔付に思い出せたのは、彼女が記憶喪失だということだけだった。
199 :
名無しのオプ:01/12/12 15:59
病室に帰ると、秋ではなく選外刑事がベッドの脇のパイプイスに座って本を読んでいた。
「あっ先輩!、どこへ行ってらしたんですか?」
「あーちょっとな・・・ところで秋ちゃんは?」
「秋ちゃんなら売店に――」
ポテチ買って来てくれと海苔付は秋にテレパシーを――送ったつもり。
ふと海苔付の視線が選外刑事の読んでいた本に止まった。選外もそれに気づいたのか
「蟻巣河コリスの新作っす、江神もの」
聞いてもいないのに説明する。
「いやあ私この作家のファンなのですよ。ただ、江神ものは最近食傷気味なので早く火村ものの新作が読みたいっす」
200 :
名無しのオプ:01/12/12 16:11
そういいながら選外は、海苔付が持っている、雑誌の付録か何かのような
お粗末な装丁の本に目とめた。
「先輩、それ!『虚城 〜インターネット殺人事件』っすね!!」
「秋ちゃんが手に入れてくれた。全ての鍵はこの本の中にある、多分。」
201 :
名無しのオプ:01/12/12 16:22
「ノリさんがポテチ欲しがってる気がしたから買ってきたよー」
202 :
名無しのオプ:01/12/12 20:30
残念ながらそれは、海苔付が死ぬ程嫌いな酢昆布味の王様チップスだった。
(中途半端なテレパシーだな・・・)
「いやあ、私それ大好物なのですよ」
ポテチは、選外がほとんどたいらげてしまった。
203 :
名無しのオプ:01/12/13 00:16
「ぐ、ぐふっ」
直後、選外が口から泡を吹いて昏倒した。
204 :
名無しのオプ:01/12/13 00:17
選外がポテチをがっつく間、海苔付は『虚城 〜インターネット殺人事件』を速読し始めた。
そのうち、彼は奇妙な既視感を覚え始めた。
(おかしいな・・・この本、前に読んだことがあるような気がする)
205 :
名無しのオプ:01/12/13 01:01
海苔付がふと顔をあげると、選外が激しく痙攣しているではないか。
「おい!どうした?!し、死んでいる・・・」
「あれは自殺だった」
俺はなんとかその言葉をしぼりだした。もう、そういう事
にして、考えるのをやめたいのだ。
「合鍵など無かった。あの部屋は、内側からしか扉の開け閉
めが出来ない。そうだよ、悲鳴は何かの間違いだ」
白い老人はうなずいた。
「その通り、悲鳴が聞こえる事など、まず考えられません。
警察も君の言葉を取り合わなかったのも当然でした」
「なぜだ。悲鳴が起きる事の何が不思議なんだ」
白い老人は眼鏡をはずし、拭きながら言った。
「あの部屋にはグランドピアノが置いていましたね。ならば、
防音設備が完備されていたと考えるのが普通でしょう」
では、あの悲鳴は俺の妄想なのか。目の前の風景が歪む。
正気なのか、夢なのか、幻なのか、嘘なのか
老人は眼鏡をかけ直して言った。
「ですが、貴方の耳に悲鳴が聞こえたのも本当でしょう」
またわけの分からない事を言う。
「悲鳴が起きた時、その部屋にピアノなど置いてなく、当然
防音設備などもされていなかったからです」
「ハア?」
「おそらくは貴方が悲鳴を聞いてからその部屋に行くまでに
ピアノが搬入されたのでしょう」
「おい、待てよ。俺が悲鳴を聞いてから部屋の前につくまで
一分くらいしかかけてなかったぞ」
「もちろん、一分では運び入れることは出来ません」
なら、どうやって。
「あのピアノは一年の間に運ばれたのです」
白い老人ははっきりと言った。
「君は悲鳴を聞いてからの一年と一分間の記憶を失ってたの
ですよ」
209 :
名無しのオプ:01/12/15 03:36
選外の死因はポテチではなく、遅効性の毒によるものだった。
さらに捜査の結果、実は彼こそが「新しい111」だということが判明した。
210 :
名無しのオプ:01/12/17 13:55
問題は、犯人がどうやって選外が「新しい111」であることを知ったのか、ということと、
いついかなる手段で彼に毒を盛ったのか、ということだった。
211 :
名も無きオプ(実は111):01/12/17 15:08
始まった当初は、良スレに成長するかと思われた、このスレ。
序盤までは、各作者達の協調性を重んじたルールによりマターリ進行を続けていたが、
[[111(ほんもの)]]を筆頭とするイチバンチャソ達により、物語そのものまでもが崩壊。
崩壊の主な理由として……。
・ウケ狙いだが寒いだけのネタ。
・無駄に文章を長く書き連ね、目立とう精神爆発。
・他人の作り出した流れを無視し、無理矢理自らの物語へ傾倒し続ける独自思想至上主義満開(w
これでは、他者の自慰行為を無理矢理見せつけられているようで、あまりに弊害する。ネタにもならん。寒過ぎる。
オナニーテキストは、自サイトで書き、蓋をキツーク閉めてくれ。
序盤のコテハン作者達の復活を切に希望する。
選外が死亡した直後に、211 名前:名も無きオプ(実は111)という書き込みがあった。
笠井刑事はまたしても、『これは犯人が残したものに違いない。』と確信した。
もしかすると111を名乗る連中の中に、真犯人からの暗号が隠されているのかも。
俺はようやく気がついた。どこかで見たような目の前の白い
老人。こいつは、あの時、部屋で見た……
「あんたがカーネルサンダースの正体だったのか」
俺のつぶやきに気づいているのかいないのか、白い老人は話を
続けている。
そう、どこかで会った気はしていた。こいつは前に俺の家で
あの母が死んだ部屋にいた。はずだ。
ねつてつ 死ね死ね死ね死ね
「また、別のコテハンが攻撃されていますよ」
呆れたように秋が言う。
「赤ん坊じゃあるまいし、快不快を示すしかできないのかしら。」
「ところで、111の残した謎っていうのは何なんだろうね」
「それなら、もう判っちゃいました。この人、やっぱり自分の書き込みの中に暗号を残してますね。
それから、他の人達の書き込みが、ある真相の伏線となるように、手がかりを構成したみたいです」
「えぇっ?単なるイチバンチャソ君じゃないの?!」
「ふふっ、ミステリを読む力の弱いノリさんの目には、そう見えるでしょうね」
217 :
名無しのオプ:02/01/06 15:56
今日ひとりで、いつも行く喫茶店でコーヒーを飲んでいたら一つ前の席にOL風の女性が座
っていて、それが超美人!僕はボーと見惚れていると彼女がハンドバックを持ったままトイ
レへ行きました、5分位して帰って来たので、もしやウンチでもしたのか?今行けば彼女の
便臭が嗅げるかもと思い僕もトイレに入りました、ちなみにトイレは男女兼用です中に入る
と香水の香だけでした失敗かと思い念のため汚物入れを開けると、ありました温もりの残る
ナプ感激して広げると信じられない位の量の生レバーがドッサリと乗っていました、その場
で全部口に含み僕はまだ暖かい生レバーを全部、口に入れてしまいました、こんなに大量の
レバーを一度に入れた事はありません彼女は会社から帰る途中ナプキンを取り替えられ無か
ったので溜まっていた分が出たのか半端な量ではありません口が膨らんでしまう位の固まり
です僕はナプキンをポケットに入れ出ました席に戻ると彼女はまだ居ました僕の方を見てい
ます、少し頬っぺたが膨らんでいましたが、まさか僕の口の中に自分の生理が入ってるなん
て思うはずがありません!僕はゆっくりと彼女の顔を見ながらホカホカの生レバーを味わい
食べましたズルッと喉を通りました。
218 :
名無しのオプ:02/01/15 16:27
「それも、貴方は何度となく意識を失い、それから一年の
記憶を失う事を繰り返していたのです」
それだけの間、記憶を失っていただと……ならば、
「それなら何か違和感を覚えているはずだろ。俺は、何も。
気づいて、いない」
目の前の白く飛んだ風景が揺れる。酷く息苦しい。白い
男はテーブルの向こうに座っているはずなのに、地平線の
彼方に立っているかのようだ。
「いいえ、貴方は心の奥、無意識でなくそれを知ってます。
貴方の別の人格、母親、父親、そして女性がそれぞれの
年にあらわれた」
お前も、俺の人格の一人?
「私は、貴方の中の人格の一人ではありませんよ。それを
貴方が確かめるすべは残念ながらありませんが」
白い男はそう言って寂しそうに笑うと続けた。
「その間の記憶は貴方の人格にはない。そして彼らは消え
ました。その間の記憶とともに」
おそらく俺は、全ての出来事を思い出していた。
男は口にしない。あの事を。
全ての始まりのあの事を。
>39-41 >93 >175-178参照
そして海苔付は持ってきた『虚城 〜インターネット殺人事件』をぱたりと閉じ、顔を上げた。
「つまり、この男はいわゆる多重人格者だったのですね」
選外の主治医はうなずいて白衣から眼鏡をとってかけた。
「その通りです。多重人格者は他の人格が出ている間の記憶を持つ事が出来ません。そのため
彼の主人格は覚醒するたびに、繰り替えし母親の事件を味わう事になったのです。その場合、
それ以外の時間は別の人格が」
海苔付は
「しかし……四回も同じ日に覚醒する事などあるのですか?専門家ではないのでよく分かりま
せんが」
「同じ日に人格が覚醒するのは偶然ではないでしょう。乖離性ヒステリー障害は幼少時の心的
外傷、いわゆるトラウマによって引き起こされるという説が有力です。母親の事件も一つの
原因だったと考えるのが自然です。だから、その日になるとその記憶が呼び起こされ、一時
的に主人格が呼び起こされたのでしょう。そして事件の全てを知った時、主人格は再び長い
眠りについたのです」
海苔付は少しだけ理解出来たような気もした。
「では、最後にしるされた全ての始まりとは、一体なんなのですか?」
主治医は髭を撫で、ゆっくりと口を開いた。
「トラウマの最大の原因とされる、幼少時の性的虐待……それこそが多重人格になった最大の
原因であり、事件の動機であるのです」
「……まるで貴方の方が刑事みたいですね」
主治医は寂しそうに笑った。
「これが仕事ですから」
「それで、幼少時の性的虐待とは……」
「証拠はあからさまに提示されています。彼の父親に愛人がいましたね。そしてそれも」
「男の人格の一人……」
>>111-114参照
海苔付はふっと息を吐いた。
「この男は、父親に性的虐待を受けていた。それが母親の自殺の動機だったわけですね」
「ええ……警察の捜査能力は大したものです。わずかでも疑問があれば徹底的に、事務的に
調べるものです。本職の方を目の前にして言う事ではありませんが。警察が、自殺だと
はっきり言えばそれが正しいと考えて間違いないでしょう。最初の母親の悲鳴は自殺とは
別の問題だった。そう考えて間違いないと思います」
「まさか、父親が母親を殺そうとして……ですか」
「いいえ、そのような事実があれば、母親は自殺する前に何らかの手をうったと考えるべき
でしょう。殺されたのは……」
「殺されたのは?」
「私、です」
「まさか、貴方ですか?」
「いいえ、『私』。この物語の中における最初の一人称の男です」
「だが、彼は生きていたのでしょう?だから……」
言いつのる海苔付を手でさえぎって、主治医は続ける。
「整理しましょう。この本、」
白い男は『虚城 〜インターネット殺人事件』を手にとった。
「三部に分かれてますね。最初の主人公は男の『私』、次は実は女だった『私』、そして
直接的なつながりが見えない、男である『俺』。最初の時点で男の『私』は消滅していた
はずなのです。それは全て女の『私』の人格の一つだった、と。つまり、最初に殺された
のは息子だったのです。おそらくは『私』の兄弟です。『私』が父に虐待されているのを
知って刃向かい、逆に殺されてしまった少年」
海苔付はもつれた糸を解きほぐそうと、考え込み、ややあって口を開いた。
「それを見つけた母親は悲鳴を上げ、『私』は兄の人格を持ってしまった。そして、母親は
一年後同じ場所で自殺……という事ですか」
根拠を問う気もなくなってきた。おそらく、目の前の主治医は何もかも知っているのだろう。
「ええ、そのようなものだと思われます。もっとも、父親は子供が多重人格になったのをさい
わいに一人二役を押し付け、息子殺しは長い間ばれなかった」
「それでは、ここに出てくる『俺』とは誰なのですか?」
「最初の男の私が、女の『私』の人格の一人だったのです。これもまた、人格の一人と考える
のが自然です。いえ、事実そうでした。私の目の前にいた、彼の肉体は女性の物でした」
貴方が、全てを……
「人格が男性である場合、人格が感じる自分の体もまた、男性の物です。間違いを人格が
自覚する事はありません」
私は……私だ。他の誰でもない、はずだ。
「そう、貴女のように」
「全ての事件の謎を解くため、貴女は警察官になった。つらかったでしょう。ですがこれからが
もっと、つらいのですよ。貴女の人格の一人が事件の真相を知った時、その真相を全て隠して
しまった。貴女の人格が破綻しないように、ずっと護り続けていたのです」
はたしてこれで全てが解決したのだろうか。私には分からない。
だが----確実に分かっていることもある。
例えば、向かいの病室の女の見舞い客が秋にそっくりだったのは何故なのか。(
>>187参照
そう、向い側には病室などない。あるのは、壁にはめこまれた大鏡。
私は、私自身と、私の病室にいる秋の姿を見ていたのだ。
秋。つまりバイトの娘。
そうなのだ。またしても鏡なのだ。(
>>188参照)
覗く者は覗かれる。
7階の非常階段で、私はなぜ買った覚えのないジタンの両切りを持っていたのか。(
>>12、
>>44、
>>120参照)
多分それは、総鏡張りになっている向いのビルの壁面に映った自分の姿を見つぃまったたから。
鏡を見る度に、私は人格の同一性は危うくなるのに違いない。
病院での出来事も、少しずつ思い出してきた。
瀬戸川を送りだした時に、扉の向こうの鏡が目に入る。
そこには、開いた扉と自分の姿、それから傍にいた秋が映っていたはずだ。
それを私は、向かいの個室の扉が開いて、女と見舞いの若い女が見えたと思い込んでいたのだ。
「秋・・・ちゃん?」
私はそうつぶやくと、怪訝な表情で私を見送る秋を残して病室を出た。
人格の同一性が保てなくなりそうな時に、何が起こるのか。
ゲームの規則を思い出せ。(
>>114参照
若い女が去る。見舞いに来たバイトの娘を送り出したのは私。(
>>188参照
ならば、実際に部屋を出たのは私なのだ。
そして私は意識のとぎれたまま、屋上にいる所を秋に発見された。(
>>195参照
1行目 (
>>188参照)→(
>>111参照)
4行目 自分の姿を見つぃまったたから。→自分の姿を見てしまったから。
5行目 私は人格の同一性は危うくなるのに→私の人格の同一性は危うくなるに
鬱。もっと推敲してから書き込みます。
「そろそろ、なぜ自分が入院することになったか、思い出していただけましたか?」
主治医の新たなる質問で、私(それとも海苔付と言うべきか)は我に返った。
「確か過労で...え、じゃこの足は」
「そう、骨折です(
>>173参照)。あなたは過労という名目で入院を強制された(
>>170参照)。
もちろん自覚症状など皆無だから、バイトの娘に誘われるままに病院を抜け出して、
飲みにいき、階段から落ちて骨折、今度は完璧なる入院生活を送る羽目になった(
>>132-134、
>>171-173参照)」
「問題は」
そこで主治医(いや、白い男と言うべきか)は勿体ぶるように間をあけて、新たなる問いを
私に投げかけた。
「大した過労でもないのに、あなたの上司は何故一週間も入院させようとしたか、なのです」
・・・それが、どうしたというのだ?・・・いや、駄目だ。その理由を思い出してはならない。
(この項のやり取りは、
>>175も参照のこと)
何故一週間も入院させようとしたか。
簡単なことだ。
私を、事件の担当からはずすためだ。『虚城 〜インターネット殺人事件』絡みの
今回の事件から。
本当に恐ろしいのは...何故事件の担当からはずしたかったか、ということの方だ