電車オ釜

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1第1話 ◆.VmuypvAq2 :2005/07/09(土) 02:57:22 ID:0Rsb/8lV
昼どきの客もまばらな山の手線に、寂しげな一人の中年男性の姿があった。彼は40代のしがないサラリーマンだった。
"だった"という過去形なのは、職務中の彼が会社の端末からインターネットに接続し、ネット掲示板に多数の不適切な投稿を行っていた事が上司にバレてしまい、先月懲戒解雇処分を受けたからだった。

知恵の浅い彼は、深夜残業と偽ってネット遊びに興じ、利用規約に反するような投稿を毎日続けたのだ。
これが会社側に発覚したのは、"警告"と記された一通の封書がIT管理部宛に届いた事による。送り主は、某大型掲示板の管理者からだった。
「度重なる削除にも関わらず投稿に改善が認められないため接続制限を実施致します事ご了承下さい」
会社側がその検証を行うのに、大した時間は必要なかった。そして彼は、人気のない深夜のオフィスで、まさに"現場"を押さえられてしまったのだ。

そう、彼は会社のサーバーに残る"ログ"というものの存在を知らなかったようで、十分な証拠を突き付けられながらも最期まで無実を訴え続けた。
しかし、残業時間に対し業績が上がらない彼の勤務実績と、若い女性社員に対する多数のセクハラ疑惑などから、格好のリストラ対象とされたのだった。

ここで興味深い現象を挙げてみよう。彼が"現場"を押さえられた翌朝、彼を擁護する内容のメールや消印のない郵便葉書が、彼の直属上司や人事課長宛に多数送られてきた事。
「○○さんは後輩の面倒見のいいとても優しい人デス!」「有能な彼を辞めさせたら会社は潰れますよ!!」
しかし、メールの送り主はどれも"#gottinay"という単一アドレスであり、葉書に記された「部長様へ♪」という文字の筆跡が同一人物らしく、会社側はこれをまともに取り合わなかったようだ。

結局、彼は引継ぎ業務すら必要とされず、活気のあるオフィスの中、ひっそりとデスクの整理を行う事となった。
もちろん職場には誰一人として、彼に送別の意を向ける者などおらず、何事も無いかの如く己の職務に取り組んでいたのだった。
去り際に彼は、『あんたたち覚悟しとけよな』と捨て台詞を吐きながら、寂しげに会社を去っていった。
2第1話 ◆.VmuypvAq2 :2005/07/09(土) 02:57:55 ID:0Rsb/8lV
そんな負け犬人生の彼は、やがて思いもしない厳しい現実を突き付けられるのであった。それは新宿2丁目の職業安定所に出向いたときの事。
学歴も不十分で資格もない中年の彼には、納得・・いや、妥協出来る職種など用意されているはずもなし。彼は絶望し、そして社会を呪った。
更に場所柄なのか、太目な彼の身体をジロジロと眺めまわす、やたら体格の良い男性達の視線から逃れるように、彼は山の手線(外回り)に飛び乗ったのだ。
「あんな場所には2度と行かない♪」そして電車の中で、彼は不思議と安堵感を覚えた。それ以来、彼は山の手線が大好きになった。

職も無くする事も無い彼は、毎日のように山の手線に乗った。一駅分の切符を買い、時間の許す限り山の手線に何周も乗車し続けるのだ。
「これって何時までもグルグル回り続けるんだよ♪ 降りるまで・・」明らかな現実逃避行動ではあるが、彼の表情には精気が満ちてきたのだった。
だが、リストラ中年である彼のモティベーションは、我々には知る由もない、もっと別の所にあったのだ。

大好きな山の手線(外回り)に揺られながら今、彼は携帯電話からネット掲示板に接続した。その瞬間、彼の眼が妖しく光輝いた。
そう、今の彼はリストラ中年などではない。 誇り高き"マピミ♪#gottinay"へと、変貌を遂げたのであった!
3第1話 ◆.VmuypvAq2 :2005/07/09(土) 02:59:09 ID:0Rsb/8lV
渋谷ガードをくぐり抜けた山の手線(外回り)の車内に、一人の若い女性の姿があった。その容姿は細身で色白、二十歳そこそこの可愛らしい、まるで天使のような女性であった。
彼女は都内女子大学に通う学生でもあったが、ヘルス嬢でもあった。止むに止まれぬ理由から彼女は、自らは望まない職種に就いているのだ。
純真無垢で、他人を疑う事を知らない性格の彼女は、悪友の借金の保証人として署名してしまったのだ。その後、悪友の契約不履行から、借金取りの魔の手が彼女に向けられたのだ。
そんな不条理な目に遭いながらも彼女は、「親友が何か辛い目に遭っているのでは?」と心配しながら、「自分が今、出来る全ての事をやらなきゃ!」と前向きに構えた。
だが、比較的裕福な家庭に育った彼女であっても、返済金額は学生に支払えるものではなかった。かといって、両親に心配をかける訳にもゆかず、ネット検索で高額条件のバイトを探したのだ。
面接に向かったバイト先は、渋谷繁華街の片隅にある小さなビルであった。彼女が到着の旨を携帯から連絡すると、3階の事務所に来るよう指示を受けた。
接待してくれた若い男性はとても親切で、仕事の内容は接客業務だと言う。「ここに決めてもいいかな?」 彼女は何の疑いもなく、就業同意書にサインした。
「仕事の内容を詳しく説明しましょう」と、少し離れた建物へと案内された。周囲の、派手な色の看板に不安を抱きつつ、彼女は狭い部屋に通された。 そして・・
その後の出来事は、彼女にとって思い出したくもない、悪夢のような光景だった。強制的に"奉仕"という接待の練習をさせられ、侮辱的な言葉を何度も浴びせられた。
あらゆる苦痛から開放された彼女は、泣きながら逃げるようにその場を離れた。これまで、男性経験が無かった訳じゃない。「でも・・あんなのヒド過ぎるよ・・」
家に帰っても、両親の顔をまともに見る事が出来なかった。そして、「あんな場所には2度と行かない」 そう固く決意した彼女だったが。
4第1話 ◆.VmuypvAq2 :2005/07/09(土) 02:59:38 ID:0Rsb/8lV
「いいんですかぁ?此処で貴女がしてくれたこと、ご両親に詳しく説明してあげましょかぁ?」「契約書にサインしたよねぇ、覚えてる?」そんなメールが、彼女を苦悩させた。
世間知らずな彼女でも、普通の娘に出来るバイトでは返済が追いつかない事ぐらい理解していた。お金に困った娘には、選択の余地など無い事も。
事実説明を伏せての契約なのだから、出る所に出せば契約の破棄も可能であろう。でも、なにより今は父と母を悲しませたくはなかったのだ。
意を決した彼女は翌日から、苦痛を押し殺してバイトに通った。そして、もう2度と泣かないと自分に誓ったのだ。「もっと強く生きなきゃ。」と。

通学電車の帰路。ふと彼女は、対面席の男性に目をやった。その男性は、独り言を呟きながら携帯電話を操作していたのだ。「なんだろなー?メールの文章、つぶやきながら考えてるのカナ?」
その時、対面の男性と眼が合った。彼女が天使のような笑顔で会釈すると、その男性は咄嗟に下を向き、携帯電話による書き込みを熱心に続けた。
「あれー照れ屋さんなのかなー?」それとも、自分の会釈があまりに不自然だったか・・? 彼女は少し、ブルーな気持ちになった。

しかし、その男性の鼻の下は完全に伸び切り、下半身は密かに勃・・していた事など、純真な彼女は気付いちゃいなかった。
そしてもう一つの秘密。目の前の男性が、見た目通りのサエない中年ではなく、孤高の2ちゃんねらー"マピミ♪#gottinay"である事など知る由もなく。

マピミ♪ 「超可愛い!私の大好きなごっちんソックリだわwwwwwどうしよ!?こっち見てるーーーーーーっ!!」
ヘルス  「あー私ヘンなことしちゃったかしら?恥ずかしーなー」
マピミ♪ 「生まれて初めての胸キュンだわ♪どうしよ!どうしよwwwwwWWWWWwwwww!!」
ヘルス  「あれー?絶対に怪しい女って思われてる?どーしよー気まずいなー」

山の手線の狭い車内、対面に席を分けた男女の間に、恋の火花が激しく飛び交った。少なくとも、萌え萌え中のマピミ♪にはそう見えていたのだろう。
ガクガクブルブルする手元の携帯から、無意識の内に「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!」と書き込みしていたマピミ♪だったが、恐らく彼は気付いちゃいまい。

この瞬間。 電車オ釜、マピミ♪の恋は発進した。
5読者の声:2005/07/09(土) 20:41:46 ID:wM2/cbHs
続きキボン
6マピミ♪ ◆D3OFMPKfgI :2005/07/09(土) 21:40:19 ID:vWHBAmGi
キモッ
7読者の声:2005/07/10(日) 00:54:15 ID:ruVNZOh0
私は月に還らなくてはなりません
まで読んだ
8読者の声:2005/07/10(日) 00:58:25 ID:U8gZXJXP
山の手線に、寂しげな
まで読んだ
9読者の声:2005/07/10(日) 17:36:44 ID:lFCwP4K6
キモくないぢゃん  続きキボン!!ワラワラ
10読者の声:2005/07/10(日) 17:59:31 ID:KVg2rRtx
間違い
キモくないぢゃん  続きキボン!!ワラワラ

正解
キモくないじゃん。続きキボンww
11電車オ釜・第1話 ◆.VmuypvAq2 :2005/07/11(月) 12:17:20 ID:nzvdHt4S
これまでマピミ♪は、TV越しのアイドルや、現実の綺麗な女性を見て萌え萌えしたことはあったが、今回のような"胸キュン"は味わった事がなかったのだ。
今でこそリストラ中年に成り下がったネカマのマピミ♪ではあるが、彼とて恋愛の一つや二つは経験しているのだ。とくに20代の時に付き合っていた女性は、恋人と言っても差し支えなかろう。
その娘は、年齢よりも大人びた魅力を持ち、当時も冴えない風貌の青年であったマピミ♪に対し、なんと彼女の方から告ってきたのだった。
彼女は絵画の販売員をしており、恋に墜ちたマピミ♪は男気を見せる為、48万のローンを組んでラッセンの絵を買った。彼女の大変な喜びようを見て、マピミ♪も満足していた。
その後、価値観の相違から彼女とは疎遠になったが、マピミ♪に大きな自信を与えてくれたのだ。 その自信を有効に生かしてさえいれば、マピミ♪がこの歳まで童貞である事はなか(以下略
しかし今、マピミ♪を見つめながら顔を赤らめている可憐な女性を目の前にし、無責任にも確信を得たのだ。マピミ♪の意味不明な自信が、むくむくと頭をもたげる。
「キットコノ娘ハ私ニ告ッテクルニ違イナイワ!」 嗚呼、マピミ♪童貞喪失の予感・・

「あっれ〜?君って渋谷キューティハウスの・・」マピミ♪の海綿体充血度がピークを迎えた時、無粋なリーマンの発言がマピミ♪の妄想を断ち切った。
彼女を見ると、明らかに嫌がってる表情だった。ひと違いです。と、しつこい男の会話を断とうとしているようだ。マピミ♪の下半身に溜まった血液は、驚くべき勢いでマピミ♪の頭に昇っていった。
マピミ♪は、怒り心頭に達していた。「店外デート」だの「ご指名」だのと、意味不明のワードを発する無礼なリーマンに対し、まるで親の敵が如く軽い殺意すら覚えた。
「コイツよくも私のラブ×2タイムを邪魔しやがったわね!(怒)今すぐ氏ね!!」マピミ♪は叫んだ。しかしそれは、マピミ♪の心の声であった。
ネット上ではいくらでも暴言を吐けるマピミ♪であったが、現実社会においては、他人に面と向かって意見出来ない体質になっていたのだ。 ネットから切り離されたマピミ♪は、唯のリストラおっさんに戻ってしまったのである。
12電車オ釜・第1話 ◆.VmuypvAq2 :2005/07/11(月) 12:18:23 ID:nzvdHt4S
マピミ♪は頭に血が上ったまま、両手がグーの状態でその場に立ち尽くしていた。一歩が踏み出せない、どうする事も出来ない!
さらに、マピミ♪の中の悪魔が囁きかける。「他の客を見ナサイ!皆気付かぬ振りしてるじゃないのwwww」 確かにそうだ、お前冷静な奴だな・・

「きゃぁっ!やめてくださいっ!!」 幼げな悲鳴が、電車内に響き渡った。見ると男は、あの彼女の細い腕を強引に掴み、無理矢理電車から降ろそうとしているのだった。
その時、マピミ♪はプッツーンとキレた。これまでの辛い思い、会社や同僚への憎悪、掲示板で馬鹿にする哀れな奴等、無能な日本国首相・・全てが一緒くたになって爆発した。
「テェメェェェっ!彼女が嫌がってるでしょっ!そのコ汚い手を離しナサイ!!」マピミ♪は今、電車ネカマから、勇敢な一人の男に変わったのだ。お姉言葉は別として・・
マピミ♪が力いっぱい振りかざしたユニクロのバッグ(税込¥2,800)は、男性の顔面を見事に直撃し、バランスを崩したその男性はもんどり打ってドア付近に倒れ込んだ。
ブキッ! ドア口の手すりに激しくぶつかった男性の頭から、鈍い音が発せられた。倒れた男性は耳から血を流し、ビクビクと小刻みな痙攣を繰り返しているが、今のマピミ♪はそんな事気付いちゃいない。
窮地から救われた美女は、呆然とした表情のままマピミ♪を見上げていた。きっと、白馬の王子様の登場に感激し、マピミ♪を尊敬しているに違いない。マピミ♪はそう感じていた。
「今がチャンスだわ!」ついに白馬の王子様にまで進化した、今のマピミ♪に怖いものなどなかったのだ。目の前には己が救った憧れの君、告白するなら今しかない。童貞とオサラバ出来る千載一遇のチャンスに思えた。
13電車オ釜・第1話 ◆.VmuypvAq2 :2005/07/11(月) 12:18:46 ID:nzvdHt4S
マピミ♪には、数多くのネット仲間がいた。いや厳密には仲間などではなく、マピミ♪の投稿を批判する善良なユーザー達なのだが、マピミ♪にとってはかけがえの無い話相手。無二の親友であるのだ。
そのネット友達に、今すぐ報告したい。掲示板はマピミ♪にとって、神聖な場所でもあるのだ。そこで皆から、ネット友達から勇気をもらいたい!
「私今から告りマス♪」そう書き込んで、マピミ♪は送信ボタンを力強く押した。オカズだったごっちんのグラビアも捨てる。お姉言葉ももう止めよう。今日からマピミ♪は変わる、きっと生まれ変われるハズ。そう信じて・・
しかしマピミ♪は、重大なミスに気付いていなかったのだ。あまりの興奮ゆえ、トリップの「#」を大文字で送ってしまった事を・・
                                                           ―第2話へと続く?―
14さすらい刑事・欲情派:2005/07/11(月) 12:52:10 ID:nzvdHt4S
七夕のマピミ♪gottinay祭りに出したかったが機を逸した感じだなwww
15読者の声:2005/07/11(月) 15:23:20 ID:Rx6YKxud
最後の一行ワロタ
16読者の声
マピミは「一生童貞でいよう」と堅く心に
まで読んだ