音楽の製作現場から見たコピーコントロールCDの問題点
話:レコーディングエンジニア 渡辺省次郎氏の見解
レコーディングエンジニアという仕事をやっています。
仕事内容は、アーティストの演奏や歌をレコーディングして、
CDとして聴ける状態に仕上げていくこと。最近では、
東京スカパラダイスオーストラやオレンジペコーと仕事をしています。
コピーコントロールCD(以下、CCCD)が話題になっていますが、
僕はCCCD導入自体は、悪いことだとは思いません。
CDの売り上げが落ちている全ての原因が、CD−Rで複製して配っている
ことだとは思わないんですけど、少なくとも一要因になっていると思う。
その可能性があれば、そこを閉ざしていくのは当然のことだと思います。
ただし問題は、音質的にデメリットしかないこと。
それと、かからないプレーヤーがあること。音質は、
聴いた感じでは膜が一枚かかった感じというか、初期のMDみたいな音。
CDと比べると特にトラックが生楽器のものは、劣化がひどいような気がします。
レコーディングエンジニアの仕事は、スタジオで起きた一瞬の出来事を
パッケージングしていくことなんです。レコーディングの際に、
テイクを重ねていくと、段々うまくなっていくんだけど、やっぱり最初のテイク
がいいということがよくあります。回を追うごとに、無意識な出来事が減ってきて、
全部認識化された出来事だけになっていく。無意識な出来事が多いほうが、
聴いている方にはひっかかりがあるんです。それをどれだけ入れられるか。
CCCDは、そうしたイキイキとした感じが失われてしまう。
音の元気さが減るっていうのかな。一番気になるのはそこです。
ただ、CCCDにしなければならないかは、僕らが決められることじゃないんです。
あくまで原盤権を持っている人の権利。もちろん僕たちも意見は言いますが。
僕らはアーティストと現場で、その時できる最高の形をパッケージに残すことだけを
考える。
実はレコード会社のディレクターにもCCCDになるべくしたくないという人は
多いんですよね。CD−EXTRAにすればCCCDをまぬがれるので、
そういう方法をとっている方はいます。
ユーザーでCCCDがどうしても嫌だという方は、DVDオーディオが
出てくるのを待つしかない。音質的にはCDよりもいいですから。
僕らもその方がCCCDより断然いい。
CCCDもバージョンアップして、改良されてきています。
ただ残念なのは、現場のエンジニアとソフト会社のやりとりが全然ない事。
なんとかコミュニケーションがとれたらなと思いますけどね。
CCCDの方式はいっぱいあって、それを決めるときも、結局エンジニアの
参加って全くないんですよ。それがちょっと悲しい。もうちょっと、
僕らも参加したいですよね。