B'z統一スレッドVol.113

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501名無しのエリー
唐突な出来事…こんなにも冷静でいる自分に、少し呆れてしまう。周りはすごく慌ただしく、咽び泣いている人、怒りにふるえている人…
それぞれが感情を露わにしている。そんな中で自分だけが、それを画面の中のフィクションのように見ている。無感情に。
目の前の悲痛な風景が作り物のようにしか思えない。電話があちこちでけたたましく鳴り響いている。『まだ公式発表はしていませんので…』
マネージャーや事務所の人がマスコミの対応に追われている。俺はぼんやりと、何処かに視点を定めるでもなく背けるでもなくふわふわとそれを眺めていた。
こんな嘘みたいな現実を、現実だなんて思えるわけないだろう。
どうかこれ以上、作り物のビジョンを続けないで。夢なら早く醒めてよ。
こんな悲劇って、あまりにも現実的じゃないよ。
信じられないよ。
あなたが
いなくなるなんて…

二時間ほど前に、携帯に連絡が入った。震える声で…
『松本さんが…亡くなりました』
やめてよ。縁起でもない、そんな冗談笑えないよ…しかし電話の向こうから嗚咽や、泣き声、怒号が聞こえてくる…
冗談ではないのだと訴えるように…喉がカラカラに乾いて…声が出ない。
502名無しのエリー:03/02/02 15:08 ID:DUNl6hYR
暫くお互い無言が続き、電話の向こうのマネージャーが病院へすぐ向かいますか?と訊ねた。
取りあえず事務所に行くと伝えると、わかりましたと言って通話を終えた。
携帯を握りしめたまま、体が動かない。病院に行く勇気なんてなかった。ギリギリまでその事実を、自分の中でだけでも曖昧な儘に、
不確定な儘にしておきたかった。ドクドクと血の流れを感じる程、焦燥感に犯された体を、無理矢理動かして事務所に向かった。
集中力を欠いた不安定な運転。二、三度クラクションを受けた気がした。でもそんなことどうでもよかった。何も考えてなかった。
からっぽの思考なのに、ずしりと頭は重い。
倍以上の時間をかけて事務所についた。扉を開き、目に入ってきた光景は、まるでベタなドラマのワンシーンのようだった。
マスコミ等の対応を抜け、マネージャーの菊池が俺に、大丈夫ですか?と問いかけた。俺は余程ふ抜けた表情をしていたのだろう。
俺には自分より、ずっと彼の方が、苦しげに見えた。自分こそ大丈夫なの?と言うと、少し驚いた様な表情をしたあと目頭を押さえて、『辛いです…』と小さく、でも深く、呟いた。
503名無しのエリー:03/02/02 15:09 ID:DUNl6hYR
この瞬間まで彼は、必死に感情を殺して、業務に徹していたのだ。俺の言葉に少し気を緩めたのか、堪えていた涙をつたわせた。
『あなたが一番辛い筈なのに…私がこんなことじゃいけませんよね…』すみません、と謝る菊池に、『そんなことは…』ない、と言いかけると、
すみません、とまた菊池は申し訳なさそうに呟いて、仕事に戻っていった。

なんだか世界から自分だけ隔離されているみたい。感情がついてこないまま、周りで物事だけが過ぎていく。
ドアの前でつったったままだった俺は、フラフラとソファの方へ歩いていった。体を背もたれにあずけ、深い溜め息をつく。
最後に松本さんに会ったのはいつだっけ?…昨日スタジオで別れてから偶然帰り道のコンビニで会って、
ビックリしてお互い笑っちゃって、何やってんだろ俺達ーって…あなたは煙草を買って、
俺はスポーツドリンクを買って…少しの言葉を交わしてそれぞれの帰路についた。昨日のことなんて、すぐ忘れちゃうけど…、
煙草のパッケージをやぶる音、ペットボトルの感触、ライターの炎、笑い声、別れる時の切ない気持ち…あなたとのことなら、こんなに鮮明に思い出せる…全部思い出せる…
504名無しのエリー:03/02/02 15:10 ID:DUNl6hYR
最後に貴方に抱かれたのはいつだったっけ?
…先週の日曜日?オフだったんだよね…二人で会って、貴方の家で、仕事の続きみたいに曲をつくって、
唄をのせて、日が落ちて、ご飯食べに出かけて、飲んで、いつものマンションになだれこんで…
口付け、深い感触…貴方に溺れて…快楽に酔って…二人でいることの意味を…喜びを…カラダ全部で認識して。
朝がきて、微睡みの中、微笑みあって、また日常に戻ってゆく。思い出すだけで笑みがこぼれてくる。
思い出せる…全部思い出せるのに…些細な仕草や他愛のない言葉の一つ一つまではっきりと思い出せるのに…
ふと目の前のローテーブルに目を止めた。きれいな儘の灰皿。あって然るべきものが無い。灰のひとかけもない。
いつも俺より早く来て、ここで煙草をふかしていた。当然の様に見ていた光景がほんの少しずつ変わってゆくのを感じた。少しずつ…彼の存在が…この世界から…消えてゆく…
記憶の中の彼は、こんなにも鮮やかに生きているのに…
あなたは本当に死んでしまったの?

本当に消えてしまったの?