◇◆★邦楽バトルロワイヤル★◆◇

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戦場で偶然の再会を果たし、今後の共闘を固く誓い合ったYOSHIKIとスガシカオは
山場となるであろう、午後から夜半に掛けての激闘に備える為、人気の無い自動車整備工場にて
休息を兼ねた戦略会議を開いている。
悪趣味だとは思ったが、シカオはホワイトボードに参加者名簿を記入し、過去の放送で判明した
死亡者を消し、YOSHIKIとの情報交換により要注意人物のリストUPを行う。
「…一番の要注意人物はやはり松岡のようです。アイツは強い。アイツは完全に割り切ってます…」
「…吉井はもはや狂人だ。奴にはもう言葉も何も届かない。見掛けたら覚悟を決めて殺るしかない…」
「…あと清春だな、怪しいのは。西川の時に見たヤツの余裕は…野郎、ネコ被ってやがった…」

当然の様に極悪三人衆の名前が呼ばれた後、YOSHIKIは溜息交じりに第二グループの評論を始める。
「桜井と宇多田も臭うな…アイツ等は善人面してても自分が一番!という性格だ。共闘は難しいな… 草野マサムネもよくわからん」
「曲者揃いですね」「まったくだな」
YOSHIKIは苦笑交じりに白板の二つの名前をマルで囲う。 「せめてコイツ等だけはマトモでいてくれればいいが…」
しかしそこに至るまでの経緯はともかく、桑田佳祐がトータス松本の生命を剥奪した哀しき事実を二人は知る由もない。

シカオとYOSHIKIの休息を奪うかの様に、工場の近くで再び銃声が轟き出す。
「…何やってんだ、この時間まで」 YOSHIKIは癖で唇を若干突き出す、独特の不機嫌な表情に戻る。
「…御苦労なこった。陽水じゃねぇがホントに酷い奴等も多いんだな…生き残ったら他人との付合い方を見直さんとな」
しかしシカオにYOSHIKIのジョークは聞こえていない。あの銃声には聞き覚えがある… 忘れもしない、あの忌わしい場面を…
「…椎名…」 シカオは騒音の方角を見やり哀しげに呟いた。
「林檎?あぁ、いたなアイツも」 YOSHIKIは興味なさげな風情で言葉を続ける。
「アイツもネコ被ってた類だな。まぁどっちでもいいって。大して影響ないだろう、ヤツの存在は…」

「いや」 シカオは強い口調で遮るとYOSHIKIに向って新案を申し述べる。
「行きましょう、アイツの所へ」「おいおい、勘弁してくれ。お前が佐野さんの仇を討ちたいのはわかるが…」
「違います。その逆です。アイツを助けに行きます」「助けるぅ?」「えぇ、そうです。アイツが一番苦しんでると思うんです」

シカオは朝方の情景を回想する。あの犯行直後の引き裂くような咆哮が今も彼の耳にこびり付いて離れない。
『…家から、自分の育った家から追い出された私の気持ちの何がわかるってんだよ、あんたに!!』
林檎は怪しげなキャラ作っていても無類の寂しがり屋だ…俺にはよくわかる…
暖かい愛情に包まれて育った林檎にとって、『業界から出された』という事実は想像以上に心を蝕んだのだろう。
…だからこそアイツは今、逃げちゃいけない。現実に不貞腐れている時間はない。シカオは強くそう思う。

「根は好い奴なんです、林檎は。 混乱してるだけなんですよ、今。 本気で僕を殺す気なら、あの時果たせていた…
アイツは佐野さんの分まで生きなくちゃいけない。佐野さんの死を無駄にさせちゃいけないんです」
「わかった、わかったって。一肌脱ぐよ。」 YOSHIKIはこれ以上シカオの長演説に付き合うのが億劫らしい。
太陽が最も強く輝き出し、風はその存在を完全に消す。スコールが近いのか辺り一面に独特の匂いが充満している。
林檎は最早限界だった。流血・疲労・心労にこの暑さが加わった。彼女は何かに導かれるかの如く、公園に佇む小池に近寄る。
倒れ込む様に水面に顔を突き出し、今までの全てを消し去ろうとすべく、顔面を洗い落とす。
ふと視線を上にやる、そこには木陰で呑気に転寝する二人の人間がいた。佐野元春とアキヒトだ。
林檎は思わず大きく仰け反る。しかしその後、彼の採択した行動は意外なものであった。彼女は佐野の遺体に向い土下座した。

「…スイマセン、許して下さい!…撃つ気なんてなかった…ましてや殺すなんて…」
彼女の述懐に嘘は無い。山中を駆けずり回っていた林檎は、偶然佐野とシカオの会話に遭遇する。
この二人が自分に危害を与える存在ではない事は一発で理解できた。でも彼女は二度と裏切られたくなかった、自分の心に。
佐野がシカオに対し『託す!』という言葉を出した事も不都合だった。シカオに対して嫉妬、寂しさ、疎外感が派生する。
心を決めかねていた林檎に佐野の大喝が降り注ぐ、彼女は条件反射で飛び出した、そして発砲した、それだけの話だ。
だが『それだけの話』が確実にひとりの人命を奪った。あの時のシカオの悲痛な叫びが今も耳から離れない…

林檎は我慢しきれぬかの様に顔を上げる。今度は頭部から出血した見た事が無い程穏やかなアキヒトの顔が見えた。
「!…あんた、何寝てんの!あんたはポルノグラフィティーのアキヒトだろうが!こんな所で終る様な安い存在じゃないだろ!」
顔をクシャクシャにしながら怒鳴り上げる。暫く嗚咽が止らない。動悸を静めると林檎は優しげにアキヒトに決意表明をした。
「…私、頑張るから。頑張るから!頑張って生き残るから……」

「無理だろう、お前じゃ」 背後から冷たい野次が聞こえた。
林檎は咄嗟に前方へ大きくジャンプする。結果的にこの選択は大正解であった。
背後を振り向いたら最後、マサムネの放った手裏剣は確実に林檎の前頭部を捉えていただろう。それが背中への裂傷で済んだ…
「…またあんたか!いい加減、しつこいぞ!」「しょうがないだろ、俺だって死にたくないし」
草野マサムネはあくまでも冷静を装う。「とにかくだ、5時間も追っかけっこしてるんだ。そろそろケリ付けようぜ」

「……」ベンチの陰の叢からは応答が無い。また逃げられたら、今度こそピンチだ。マサムネは林檎専用の特効薬を再度取り出す。
「お前、大体何で参加してんだ、リンゴだかパンプキンだかが?」
「うるさい!黙れ、村上ショージかアンタは!私は何処にいようが椎名林檎なんだよ!」
「そう言う割には逃げ回ってばっかだけどな」
(おやおや、まーた引っ掛かったよ。随分、小さな事に囚われる奴だ。
 こんな安い挑発にも乗ってくれるだなんて。自分の命の瀬戸際だっていうのに…)
「……」「来いよ。軽く揉んでやるよ。不肖草野マサムネ、パク林檎にだけは負けねえよ!」

「…貴様ぁ---!!」 とうとう林檎がブチ切れる。マサムネの声の方角へショットガンを連射する。がまたしても、何の反応も無い。
さすがに林檎は悔いた、自らの思慮の浅さを。だが今更後悔しても始まらない、アイツを倒さねば前に進めない…
『…落ち着け。落ち着くんだ…武器の差を考えてみろ…私の方がどう見ても有利だろうが!』
そう心中で呟く程、反比例して吐息が荒くなる。それでいながら今まで仕留められなかった事実は林檎自身が最も理解していた。
彼女は何かに脅えるかの如く、ジリジリと後退りする。次の瞬間、左足に硬性物の感触が伝わる。林檎は後ろを振り向いた。

『…佐野さん?』 視線を上部へ移行する。そこには音を立てずに手裏剣を握り自分に襲い掛かるマサムネの姿があった。
林檎は発砲した。眼を瞑りながら。まるで自分に降り注いだ全ての悲惨な事実から眼を逸らすかの様に…

「YOSHIKIさん?」「あっちだ!」シカオとYOSHIKIは銃声の轟く方角へ駆け出していた。
剣道の試合で言えば、マサムネの一本勝ちであった。彼の持つ鋭利な鉄は林檎の右の肩甲骨と首の付根の間に完璧に入り込んだ。
しかし最後の最後で、兵器性能の差が如実に現れる。突き刺さる前に引鉄を引いた銃弾はマサムネの腹部を捉えた。
林檎は肩を押え、後方へ倒れ込む。マサムネは前方へくの字の形で崩れ落ちた。

腹部を押えながらマサムネは嘗ての先輩にクレームを付ける。「…佐野さん、どうして俺の味方、してくれないんすか…」
苦しげにマサムネは体を仰向けに反転する。見上げると天空からはポツポツと雨が降り出してきている。
冷たい雨に撃たれて、彼は悲しげに呟く。「…今度ばっかしは、上手く立ち回れなかったなぁ…」
草野マサムネ、絶命。陽水の思い付きだけで参戦させられた後発軍団は完全にこの時点で全滅した。

林檎は重たそうに体を起す。マサムネの絶命を確認すると肩を押えながら、大声で勝ち誇った。
「…この椎名林檎を舐めるからだ…思い知ったか!」
そして彼女は再び池の水面を見付ける。マサムネの返り血で溢れた自分の顔面を見る。その瞬間、林檎は号泣した。
『…この手は!この手は何の為にある!人殺しの為か!違うだろ!マイクを持つ為にあるんだろうが!』
『…奇麗事をぬかすな!生き残らなきゃハナシになんないんだよ!椎名林檎は、勝って他を見返すんだろうが!』
またも相反する二つの気持ちが林檎の心を蝕む。その直後、貧血を覚える。流血は一向に止らない…
『…チキショー…結局、無駄死にかよ…』「椎名ァ!!」 諦めかけた林檎を現実に呼び戻す声がした。

林檎は自分を呼ぶ声の方角に鬱陶し気に眼を向ける。スガシカオとYOSHIKIの姿があった。
「椎名!大丈夫か!」「…うるさいっ!」気力を振り絞り、ショットガンを杖に身を起す。
左手は右肩の止血の為、当然使用不可である。銃は構えられない。しかし林檎は野良犬の様な視線で二人を威圧する。
「…椎名…」シカオは狼狽する事しかできない。
577【二日目・午後12時】公園:02/01/22 17:05 ID:uy+4Ied+
雨は益々勢いを増す。最早、雷雨と言ってよい。スピーカーから声が流れるも、今の林檎の耳には入らない。
「…椎名、聞いてくれ」「…佐野元春の仇を討ちに来たんですか?残念だったね。今、スピッツの奴も退治してやった所だ」
「スピッツ、だと?」 越中聞き返す。
「林檎!テメッコノヤロッ!草野マサムネみたいな優男をやったのか!」「うるさいっ!外様が語るなっ!」
林檎は必死で似つかわしくない悪役を気取る。
「私がいい加減終わらしてやった!何年も中途半端な活動してる奴には死んでもらったんだ!私が業界の健全な姿を守った!」

「…言いたい事は、それだけか…」YOSHIKIは激昂のあまり拳銃を抜き、発砲体勢をとる。
しかしYOSHIKIの手を固く押し留めた人間がいる、シカオだ。「オイッ!」「…ここは自分に任せて下さい」
そう言うとシカオは雨の中、林檎に歩み寄る。YOSHIKIはその断固とした決意に唖然とするしかない。

「椎名、傷の手当が先決だ」 「カッコつけんな!何を偉そうに… あんただって人殺しだろうが!」
「…残念ながら、そうだ」シカオは更に林檎に近付き説得を行う。「…でも終りにしなきゃいけないんだよ、こんな事」
「テメーのやった事、棚上げしてんじゃねぇ!」「椎名、さっき言ったよな。『私が業界守った』って」「…それがどうした」
「…人を殺す事が、お前の守り方か?」「…何だと」「お前の音楽の世界は、そんなに汚いものなのかよ!」

シカオは大喝する。後輩に必死で自分の思いを届けようとする。
「…いい加減、目を覚ませ。俺もお前も殺人者だ、その事実は消えない。消しちゃいけない…」「……」
「そこで俺達が殺し合う事が彼等の望みか?違うだろ!俺達が死んでいった仲間の為にしなくちゃ…」
578【二日目・午後12時】公園:02/01/22 17:06 ID:uy+4Ied+
「アンタの説教は聞き飽きてんだ!」林檎はシカオの言葉を遮り、叫ぶ。
「…椎名!」「…アンタ、佐野さんに言ってたよな。俺が邦楽を守るとか… じゃぁ何でこんな事になったんだよ、教えろよ!」
「…もうしゃべるな、傷の…」「…何だ、その眼は」シカオの全ての感情を林檎は拒否し続ける。
「…何だよ…何なんだよ、その眼は!同情なんかすんじゃねぇ!どいつもコイツも馬鹿にしやがって!」
林檎は右肩から左手を外す。渾身の力でショットガンの銃口をシカオに向けた。

「……」シカオは観念したかの様に眼を瞑る。
「林檎ォ!」状況を見守っていたYOSHIKIはシカオの背後から姿を現し、覚悟を決め引鉄を絞った。
林檎の体はそれとほぼ同時に地面に崩れ落ちていた。

「椎名!」シカオが駆け寄る。YOSHIKIも駆け寄るが、彼は万一に備え素早く林檎から銃を強奪する。
「…無駄ですよ、YOSHIKIさん…」林檎は寂しげに呟く。「…だって、タマ、入ってなぃすもん、もう…」
YOSHIKIは慌てて銃創を確認する。佐野とマサムネの生命と引換に、忌わしい銃弾は粗方も無く姿を消していた。

「…馬鹿野郎!どうしてそんな無駄な意地を!」「…同情されたくなかったんですよ、誰にも…」
林檎は弱々しげに最後まで虚勢を張り続ける。雨は一向に降り止む気配を見せない。
579【二日目・午後12時】公園:02/01/22 17:07 ID:uy+4Ied+
林檎は雨に打たれながら疑問に思う。さっきから雨より大粒で生暖かい水滴が自分に降り注いでいる。
…シカオだ。シカオの涙だ。林檎は愕然としながらか細い声で質問する。
「…シカオさん…何で?」「……」「…私、アンタを二度も殺そうとしたんですよ…酷い事も言ったし…何で…?」

「…馬鹿だ…お前は本当に大馬鹿野郎だよ…」シカオは既に涙声になり、聞き取りにくい事この上ない。
しかし林檎は必死にこのお人好しの先輩の言葉を聞き取ろうと努力する。
「…いつ、馬鹿にしたよ…お前の事を。誰か一度でも…お前を馬鹿にしたか…?」「……」
「…同情されたっていいだろ!泣きたきゃ泣けよ!…そんな時の為に俺達が…いるん…。
 椎名、教えてくれよ、逆に…俺はお前にとって何なんだ?…俺は…助け…合えると…思っ…て…」

もうシカオの声は判別不可能だ。しかし林檎の頑なな心はようやく溶けた。彼女もまた細い一筋の涙を流す。
林檎は再び後悔していた。自分の取ってきた行動や言動について。
私は勝手に僻んでいた。自分の心に囚われていた。自分で自分の世界を小さくしていた。
勝手に仲間外れにされたと思い込んでいた。でもこんな私の為に泣いてくれる人もいるんだ…。
そうだよ、今いる場所は関係ない。私達自身が音楽だろ?何でこんな事、今までわからなかったんだ…

…ごめんなさい、ごめんなさい…シカオさん、貴方の優しさを拒んでしまって。貴方に嫉妬してました…
…ごめんなさい、ごめんなさい…aikoさん、あの時声を掛ければよかった。貴方の力になれたのに…
…ごめんなさい、ごめんなさい…佐野さん、草野さん、貴方達の命を無駄にしました。許して下さい…
…ごめんなさい、ごめんなさい…父さん、母さん、私は強くなれませんでした。一目でいいから会いたかった…
580【二日目・午後12時半】公園:02/01/22 17:08 ID:uy+4Ied+
林檎特有の荒い吐息が見る見るか細くなっていく。雨は一向に降り止む気配を見せない。
「…椎名…しっかりしてくれぇ…」「林檎!フザけるなって!未だお前は何にも成し遂げてねぇだろ!」
シカオとYOSHIKIの激励が遠ざかる。…やり直したい、もう一度、ステージの上に立ちたい…
…歌を歌いたい…ファンの前で歌いたい…でももう遅いんですね…遅いんですね、何もかも…

林檎は泣き顔のまま、シカオにしがみ付く。
「…しか…お…さ…」「もう、しゃべるなって!」「何だ…椎名?…言ってくれ…何だ?」
「……死…にた…く…」 最後の二言を言い残せずに、林檎の首は力なく崩れ落ちた。

「…クッ…」シカオは林檎の顔に自分の額を押し当てる。
YOSHIKIは暫く天を仰いだ後、用無しとなったショットガンを無言のまま大地に叩きつけた。
林檎の安らかな寝顔を見ながら、シカオは手の掛る後輩に労いの言葉を投げる。
「…椎名…お疲れ様…もう、いいから…もう…いいから…な…」

林檎の迷走を弔うかの様に雨脚は一段と強くなる。雨は、一向に降り止む気配を見せない。