【くだらん】ライナーノーツ【お前の話はくだらん】

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192名盤さん
伝説はここから始まった・・・

ロッキング・オン1993年5月号ディスクレビューより

パブロ・ハニー / レディオヘッド
■世界(あなた)に向けて永遠に続くラヴ・ソング
俺なんて死んだほうがマシなんだ、と歌ってデビューした自己嫌悪の
権化――レディオヘッド。僕はこのアルバムの歌詞をすべて書き出して
しまいたい。そんな衝動をおさえるのでホント精一杯だ。このデビュー・
アルバムにも収められた2ndシングル“クリープ”は、ザ・ラーズの
“ゼア・シー・ゴーズ”を聴いた時以来の衝撃だった。そこで音が鳴ったとき、
確かに世界はその色彩を変えた。高らかに咲き誇った。新たな産声を上げた。
レディオヘッドにとって、世界は自分自身を苛み続ける憎悪の対象としてではなく、
天使の羽を持つ限りなく美しいものとしてある。連中は誰も(ロック)がするように
「世界は醜悪だ」と言い切ってしまうことによって獲得できるはずの“強さ”を
敢えて拒んだ。そして「世界は輝いている」と信じることによって否応なく
もたらされる困難さを選び取った。自己正当化を促すエクスキューズをすべて
断ち切り、慰めをすべて拒否したところから始めるためだけに存在する果てしなく
深い自己嫌悪の海。だが、その奥深く沈み込むことは、登るべき峰や越えるべき
海の険しさに思わず感謝してしまえるほどの揺るがない自信を生む。自分自身の
惨めったらしさは袋小路などではなく、あくまで前提としてある。海底から見上げた
陽の光は確かにある――そんな確信を手に入れる。手を触れた途端、すべてが
石に変わり果てたとしても連中は歌うことを止めはしないだろう。だって、ついさっき
まで世界は輝いていたんだから。 (田中宗一郎)