(四)綱引きの分布
さて、南九州の綱引きは旧暦八月十五夜に行われますが、同じ夜行われるのは
熊本の辺りから沖縄までなのです。熊本から北の方では一月十四日、十五日、
つまり小正月にする所が多い。しかし、点々と、若干は本州の方にも八月十五夜に
するところがあるようです。その点々としてあるところは、実は朝鮮にも見られるのです。
この分布から考えると、八月十五夜綱引きは、かっては朝鮮、本州でも盛んに
やっていたのが、時と共にだんだん行われなくなって今では熊本以南の南日本地域だけで
盛んに行われているのです。私どもは、鹿児島県に住んでいますと、八月十五夜には
日本中で綱引きをしているように考えがちですが、とんでもないことで、それは熊本
から南の方だけです。しかし、それでも点々と本州や朝鮮にあるということは、
これは朝鮮と日本の国境がない時代からあった古い行事であるということを示唆しています。
ところで一月十五日に綱引きする所は熊本から北の本州全域そして朝鮮、中国
大陸全域です。中国の綱引きは行事としては現在一月十五日だけです。旧暦八月十五夜と
一月十五日の二つの綱引きの東アジアでの分布を想定しますと、ちょうど天気予報の
高気圧が中国大陸から朝鮮半島を経て本州にせり出して来ているように一月十五日
綱引きが分布しています。それは、南日本に南下しつつある日本本土の低気圧で
あるところの、八月十五夜綱引きの上にかぶさって来ています。ここに旧暦八月十五夜
綱引きは古く、一月十五夜綱引きは新しいという、新旧の関係が見られます。
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