69 :
可愛い奥様:
「ご、ごめんっまた電話する!」
悠が一方的に電話を切ってしまった。
ん…?
あれ、空耳かしら。携帯の向こうからも予鈴が聞こえ…た?
ふと、向かいの校舎を歩く人影が目に入った。携帯片手に、うつ向き気味に歩く悠の姿が。
悠が携帯をポケットにしまい、こちらを向く。私の手から携帯がスルッと抜けて地面に音を立てて落ちた。
見間違う訳がない。薄暗くったって、顔立ちはハッキリ覚えてる。
悠がしまったという風に手を口に当てる。ボー然としてる私の前に、窓を乗り越えた悠が降り立つ。
70 :
可愛い奥様:2013/08/26(月) 00:12:25.19 ID:N5IQob5X0
制服を…着ている。もう頭が混乱中。
「ど、どういうこと…?」
やっとの思いで喉から声を絞り出す。悠はあさっての方向を見ながら、
「あれ、今日はメガネなんだ、昨日はコンタクト?」
と話を誤魔化した。
「私の事…知ってて、昨日あんな…?」
「…ごめん」
悠の長い睫毛が頬に陰を落とす。開いた口が塞がらないってこういう事を言うのね。
私は高校生と、関係を持ってしまったの…?
悠が落ちてた携帯を拾って、私の手に戻す。
「信じて貰えるかわからないけど…ずっとオレ…」
悠の顔が赤く染まる。
私はこれ以上悠の言葉を聞いてはいけない気がして。急いで白衣のポケットに入っていた財布から二万円取り出して、悠の手に押し付ける。
71 :
可愛い奥様:2013/08/26(月) 00:15:57.99 ID:N5IQob5X0
「お金は返したから!」
きびすを返し保健室へ向かう。「ちょ…待って、奏子!」
「名前で呼ばないで。生徒とわかった以上、もう会えないわ」
保健室の引き戸を開ける腕を悠が掴む。
「だから…昨日は悪かったと思ってる。あんな風に誘って…。でも遊びじゃなくてオレはホントに…」
言いかける悠の体を押し戻す。
「お互い忘れましょう。本鈴がなるわよ、早く教室にもどりなさい」
ガラガラッと引き戸を閉める。閉める間際の悠の切なそうな顔が胸を締め付ける。
私はその場に座りこんで唇を噛み締めていた。
「…ぅっひっく」
涙がこぼれ落ちて白衣に染みを作る。
涙で視界が歪む。