「こりゃ、なんでこんなに、ウマいの?」
カウンター席の60代男性が2、3口スープをすすって、思わず言った。目当ての店があって
西荻に食事に来たが閉まっていたため、今年2月に本格オープンしたばかりのこの店
「Kin mama(キンママ)」に初めて入ったとのこと。テーブル席の客は「風邪気味だから、
元気出してもらおうと思って連れて来たの」と座りながら言った。
お店の中に不思議なリラックス感がある。入り口には、小学生の描いた開店祝いの絵が貼ってあった。
「そうか、この店は金さんちの食卓、そのままなんだ」と、以下の通りキン(金)ママ本人から話を聞きながら、思った。
金という名字は、本当は「金海金(キメギム)」だそう。韓国には300年以上続く金海金一族の村がある。
その村の住民は、近くも遠くも親戚なので、誰がどの家に行っても食事をもてなされた。
今、東京に住む金さんちは、その20代目。その金さんちにも、ひんぱんに友人が訪れ、
キンママの手料理でもてなされていた。
「料理のうまい女性は、手に味をもって生まれてくる」という諺が韓国にはある。また、
「美味しい」ことを「身体にいい」と表現する国でもある。滋養たっぷりのスープ、
野菜の力を感じるナムル、キムチ… 漢方や宮廷料理とも通じる、身土不二(しんどふじ)の食の思想。
オモニ(母)からオモニに、綿々と継がれてきた「手の味」は、祖母が銀座の日本料理屋の女将だったという、
キンママの「手」に受け取られ、洗練された。
シェフ、デパ地下、B級グルメそして社員食堂と、食の外部化とともにさまざまなブームが起こった。
逆に貴重になってきたのは、規格通りの美味、サービスではなく、「いつもの手料理」「なごやかな食卓のもてなし」
ではないだろうか。それがキンママ料理の「ウマいわけ」に違いない。
キンママの晩ご飯は、木曜から日曜のみオープン。あとの3日(月〜水)は、
家族のために自宅に戻る。ランチは水曜以外の毎日。詳細はぐるなびを参照のこと。
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