日野OL不倫放火殺人事件

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199可愛い奥様


トレーナー姿の北村が、三十六号棟の階段を駆け上げていく。
ガソリン入りのペットボトル五本を入れたビニール袋と、ガソリン入りの
ポリタンクを押し込んだ紙袋を、それぞれ両手に抱えていた。
用意していた合鍵で開錠し、指紋が残らないようにハンカチで握って
ドアを開ける。そしてテニスシューズをはいたまま台所に注意深く上がり
こみ、大量のガソリンを、おもむろに居間の炬燵の周りに撒き、持っていた
ライターを取り出し、テーブルに残されていた裕さんのタバコの吸い殻や
ダイレクトメールに火をつけて北村は玄関のほうにあとずさった。
午前六時二十九分頃、居間で爆燃現象が起きた。不審に思った隣家の主人が
ドアののぞき穴から見ると玄関一面が火の海となっていた。
知子さんが団地に戻ってきたのは、隣家が119番通報した直後だった。
「私はもう半狂乱になっていて、玄関の中は真っ暗で、煙で何も見えませんでした。
ただ一度、チラっと奥のほうに火がみえたような気がして、私、そのまま家の中に
飛び込んだのです。顔が熱かったのを覚えています.......煙が物凄くて、私、その煙を
吸い込んでしまって、息が出来なくて。ただ咳き込んで....」
事件を懸命に語ろうとして、知子さんは何度も言葉につまった。涙が静かに頬をつたう。

200可愛い奥様:2010/06/10(木) 15:38:14 ID:UAJSBQy+0

猛火のなかで知子さんは子供たちの名前を泣き叫び、助けを求めた。
彼女は隣家の主人に助けられ、救急病院に搬送された。
鼻と頬、両手の甲に火傷を負い、髪の毛も相当部分が燃えてしまっていた。
一酸化炭素を吸い込み、喉にも炎症を起こしていた。
「てっきり、子供たちも、病院で治療を受けてるものをと思い込んでました。
集中治療室の窓から見た、空の青さを覚えています。心にぽっかりと穴があいて、
まだ側に子供がいるような気がして。こんなにもお天気がいいのに、
どうして子供たちは側にいないのって......」

退院するまで、知子さんは子供たちの死亡は伏せられた。
二人の子供の遺体の損傷は酷かった。
麻美ちゃんは事件五日後に開催されるはずの音楽発表会を心待ちにしていた。
身長120cm、髪を背中まで伸ばし、白地にピンクの水玉模様入りのパジャマを着ていた。
「麻美は小さい頃、泣きすぎて、ひきつけを起こしたことがあります。
でも、それからはそんな病気もしないで、本当に手のかからない子でした。
優しくて、恥ずかしがりやさんで、オシャマで....。髪の毛を触りながら、
親指をおしゃぶりして寝るんです。指に吸いダコまであったんですよ」
長男の祐太朗君も、「ぷくぷくと太って」カタコトで「パパ、ママ、パパ」と
話し始めた頃だった。

知子さんが子供たちの変わり果てた姿を目にしないように、親戚らの計らいで
二人の遺体は通夜の間に荼毘に付された。