週刊ポスト 2006年9月29日号 昼寝するおばけ 曽野 綾子
356「家族の重責」
http://skygarden.shogakukan.co.jp/skygarden/owa/solrenew_magcode?sha=1&neoc=2005509106&keitai=0 皇室においては第一の任務は、お世継ぎをお生みになるということである。秋
篠宮ご夫妻は今度そのような形で、両陛下に大きなご孝養を尽くされたことにな
る。
第二のお務めは、たった一家族しかない伊勢神宮の祭主としての天皇家の、祭
儀その他のしきたりを、充分に重んじられることであろう。それは単に神道とい
う一宗教の保護だけではない。それは日本の文化の基本的な本流の一つであり、
他のいくつかの支流を支えている精神を守ることでもある。茶道や能などの家元
も、この伝統の維持の中で、日本文化の幾つかの支流を支えている。流れという
ものはその流動性によって人々の生を支え、引いては自然の繁栄に与している。
合理化に反することでもなく、死んだ過去の踏襲でもない。
第三のご任務は、徹底して仁慈を内外に示されることである。天皇皇后両陛下
は、世界の大国にも小国にも同じような親しさと丁重さを示される。国家予算の
規模も、宗教の違いも、肌の色も関係ない。国内においては、むしろ恵まれない
人たちをお励ましになる。
天皇家の女性方は、皆、美しく教養があり、語学も達者でいらっしゃるが、は
っきり言って外交などというものは他の誰にでもできることだ。本当の強力な外
交は、時には汚いことにも手を染めねばならないものであろう。そんなことは外
務省に任せればいいことだ。
第四の皇室の任務は、おおらかな意味で日本の家庭として望ましい姿を保持し
て頂くことだ。それが具体的な徳の表現なのである。とは言っても、国民は近寄
り難い堅苦しいご生活を望んではいない。国民が好むのは、殿下方がお子さまの
PTAに出席されたり、障害者の青年たちと気楽に語られたりすることである。高
円宮さまは亡くなられる直前に、自分は要らない電気をこまめに消す方だけれど、
「娘たちはどれだけ守っていますか」などと、私との対談の席でごく自然に語ら
れた。そういうほのぼのとした父親の思いも溢れる家庭を期待しているのである。