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可愛い奥様:
私は大正七年(一九一八年)年生まれの今年で八十五歳になる元海軍中尉です。
太平洋戦争中は、主に空母瑞鶴飛行隊に所属し、零式艦上戦闘機などの飛行士として
真珠湾攻撃など様々な作戦に参加致しました。
戦争で多くの同胞を失い、自身も敵機との空中戦や敵艦船からの対空砲火など
幾度もの修羅場を経験致しました。
戦後、二等空佐として航空自衛隊のパイロットに招聘され、国防や後進の指導に
従事しました。
現在は、隠居生活をしております。
私が若かった頃には、軍艦や戦闘機などはありましたが、家庭には冷蔵庫や洗濯機もなく、
現在とは比較にならないほど不便な時代でありました。
しかし、人心は希望に満ち溢れ、皆、生き生きとしておりました。
今の時代は、物や情報に満ち溢れ、これだけ便利な時代になったのに、
不景気からでしょうか、元気の無い人が多いように思います。
そして、礼儀や思いやりや優しさに欠けた人が多いように思います。
大正、昭和、平成と、時代の流れを自身の目で見て来たつもりですが、
ここ数年の世の中の風潮は、私には理解に苦しむところが多々見受けられます。
戦後復興から昭和の時代が終るくらいまでは順調だったように思いますが、
平成の時代に入ってから、この国はどんどんおかしくなって来ているように
思います。
私には、今の若い人達を勇気づけ励ます言葉が見つかりません。
八十年以上生き長らえて参りましたが、私は、ただ、日本の将来を悲観する
ばかりです。