★なぜ★田口ランディ嫌われてるの?★教えて★

このエントリーをはてなブックマークに追加
9013全文1
NHKすくすくネットワーク11月号P94-96
田口ランディ の すくすく日記
       第一回
妊娠、出産、支離滅裂の育児の始まり

 初めまして、田口ランディです。
 今月号から連載エッセイを掲載するにあたって、どのように
書こうかととても悩みました。私には5歳の娘がいるのですが、
正直に申し上げて子育てに関してはまったく自信がなく右往左往
しているのが現状です。ですから、とても「私の子育て論」なんて
おこがましくて書けないし、そんなことを書いたらお母さん仲間
である読者の方に失礼な気がしました。
9113全文2:02/10/21 15:56 ID:DjxXzhd/
 それでいっそのこと自分の悩みをぶちまけてしまうエッセイを
書こうと思ったわけです。ご近所のお母さんと立ち話するような、
そんな感じで子どものこと、打ち明けてみます。どうかよろしく
お願いします。

 私は38歳のとき高齢出産で子どもを産みました。結婚12年目で、
もう子どもなんてぜったいにできないだろうって思っていたら、
いきなり妊娠してしまいました。
9213全文3:02/10/21 15:56 ID:DjxXzhd/
 うすうす妊娠に気がついたとき、私はベトナムを旅行していました。
処女作でもあるベトナム旅行記の取材のためにメコンデルタで
船を漕いでました。なんだかベトナムの街が臭くて臭くて、私の
旅行記にも「ベトナムは臭い」としきりに匂いの話が出てくるのですが、
いまにして思えば、それはベトナムが臭いのではなくて私がつわり
だったんですね。   
 処女作の出版記念パーティーのときは妊娠8か月でした。私は
「よっしゃ、いまからライターとしてバリバリ仕事して書くぞ」と
思っていたときだったので、妊娠はうれしかったけどちょっと
ショックでもありました。デカい腹のライターなんて使ってくれる
編集部はないだろうし、出産して乳飲み子を抱えたら仕事どころじゃ
ないよなあ、と思ったわけです。
9313全文4:02/10/21 15:57 ID:DjxXzhd/
 ところが、世の中って私の思い込みよりも妊婦に寛容(というか
無頓着)で、私は出産直前まで取材とかインタビューの仕事を
してました。いちばん腹がデカいときにインタビューに行ったのは
石原慎太郎さんで、「どうもこんな妊娠腹ですみません」と言ったら
「なにをおっしゃる、日本のために良い子を産んでください」と
励まされました。妊婦のライターなんて珍しいのか、けっこう編集者は
喜んで使ってくれてびっくりしました。
 子どもが生まれてみると、赤ちゃんのころというのは動き回らない
ので、まとまった自分の時間がありました。それで、暇なときに
インターネットを使ってメールマガジンというのを出し始めました。
毎日家でテレビのワイドショーばかり見ていたので、子どもが寝ている
ときにそのワイドショーをネタにコラムを書いて、それを無料配信
していたのです。当分の間、子育てに専念するつもりでした。
9413全文5:02/10/21 16:00 ID:DjxXzhd/
歳をとってから生まれた子どもだったので、なんだかもう孫をあやす
おばあちゃんのような気分にもなっていて、べたべたしたくて
たまらなかったんですね。
 子どもが2歳になるまで、ずっと子育てに専念していました。
そして、たぶんこのまま田舎のお母さんとして子どもを育てて
いくんだろうなあ……と思ってました。ずいぶんとキャリアウーマン
っぽく働いたし、もう40だから引退してもいいか。
 ところがある日、出版社の編集者の方がやって来て、いきなり
「メールマガジンを読んで来ました。小説を書きませんか?」と
おっしゃる。すごくびっくりしたのだけれど、ちょうど娘が近所の
保育園に入園できたので昼間の時間が空いていたから「書きます」と
お返事して、それで小説を書き始めました。なにしろ長編小説なんか
書いたのは初めてだったので「こんなの面白いのかなあ?」と
自分で書きながら半信半疑でした。
9513全文6:02/10/21 16:01 ID:DjxXzhd/
 1年後にその小説が出版されて、私は2000年の6月に作家として
デビューして、それで現在に至ります。小説を書いて、出版して、
そしてその小説が賞の候補になったりするのですが、その間は本当に、
盆暮れ正月が一度にやって来たような激動の日々で、子育ても家事も
しっちゃかめっちゃかで、もう支離滅裂な母親でした。
 というようなわけなので、自分のことでいっぱいいっぱいで、
どちらかというと娘に心配されたり慰められることのほうが多く、
最近は「ももちゃーん(娘の名前)」と抱きつくと「べたべたする
のはやめて」と突っぱねられて落ち込むことが多いです。
9613全文7:02/10/21 16:01 ID:DjxXzhd/
 心配事は娘のアトピーで、生後6か月のころから発症して、良く
なったり悪くなったりをくり返しています。来年から小学校なの
だけれど、学区の小学校には学童保育がなくてこれからどうやって
仕事したらいいのかも不安。娘が最近テレビゲームばかりしているのも
気になるし、食事の作法が悪いのをどうやって指導したらいいかとか、
姿勢の悪いのはどうすれば直るとか、自分のことを「ウチ」というのは
なぜだろうかとか、アニメの『名探偵コナン』は殺人シーンが多いけど
見せていいものかとか、食べ物に困ったことがないのにどうして
ケチなんだろうかとか、保育園で男の子とキスしてるらしいけど
黙認していいのかとか、そういうせせこましい気がかりを日々抱えつつ、
こうして原稿など書いているわけです。
9713全文8:02/10/21 16:02 ID:DjxXzhd/
 娘は最近、妙に女っぽくなってきて「いやーん」などという
甘ったれた声で反応したりします。私は娘のそういうところが
好きではなく、けっこうムッときます。そもそも、私はそういう
デレデレした色気むんむんの甘ったるいタイプが好きでは
ないのです。娘は単に面白がって真似してるだけなのだと
思うのですが「いやん、ばかん」などとクネクネされると
どうしてもキーッとなってしまいます。
9813全文9:02/10/21 16:03 ID:DjxXzhd/
 娘が成長するにしたがって、私が想像もしていなかった一面が
現れるようになって、オロオロしています。2歳や3歳のときは
意識していなかったけれど、私は娘に「こんな子になってほしい」
というイメージを持っていたみたいです。それで、自分のイメージと
ズレていく娘に、少しだけ腹を立ててしまったりするわけです。
身勝手だなあと思うのだけれど、子どもを自分の思い通りにしたい
という欲望は確かに私のなかにあって、自分で自分にびっくりします。
娘は私の欲望にものすごく敏感で、私の思い通りになることを
頑なに拒否します。ああこれが反抗期と呼ばれるものなのか、
と思いました。反抗期って親の欲望への「ノー」なんだな、と。
9913全文10(最後):02/10/21 16:03 ID:DjxXzhd/
 本を読んでいる真剣な娘の横顔を見つめながら、もう何を考えて
いるのかわかんなくなっちゃったな、と寂しく思ったりする。
彼女はすでに完璧な1人の人間になっていて、未熟ながらも自分の
頭で考えて、自分の心で感じている。それがわかるんです。
これから体験するであろう、いろんな苦しいことや悲しいことにも、
この子は自分で耐えていくんだな、と思うとせつなくなってきて
「ももちゃーん」と抱きついては、「んもう、やめてよ!」と冷たく
されています。          イラストレーション=尾崎仁美