…その頃、脳無しは、コテハンの殺し合いなどという
ばかげた話にすっかりうんざりしてしまい、こっそりと
表舞台の体育館から抜け出していた。ちゃっかり二階観覧席へ紛れ込み、
可愛い奥様たちと和気藹々と話をしていた。
「あら、私は日本酒もけっこう好きよ」
「私はだめだわー」
「いい日本酒は、二日酔いにならないものなのよ」
「バーボンはどう?」
脳無しのバランスのとれた会話は、
可愛い奥様たちにも、抵抗なく喜んで迎え入れられていた。
「あ! 脳無し、こんなとこにいたのねー」
肩の長さで切りそろえ、ゆるやかにウェーブのかかった髪の毛をゆらしながら、
二階席へかけあがってきた、少女のようなその姿。おサルであった。
少し神経質そうな、しかし形の整った眉毛は、脳無しの姿を見てほっと安心したせいか、
穏やかに緩んでいる。気の強さと高い知性がうかがえる美しい唇から
「よかったー」という安堵のつぶやきがもれた。
祭り好きと認知されつつ、実は平和主義者のおサルも、
このコテハンバトルには、内心嫌気がさしていたのだ。
いつしか、脳無しとおサル、そして何人かの可愛い奥様たちで、楽しい会話が
盛り上がるのであった。
そのときだ。
「馴れ合い! あんた、どうせ自分がコテハンでちやほやされてるから、
いい気になってんでしょ! バカのくせに!」
44 :
可愛い奥様:02/04/13 01:35 ID:/DBL8bX6
ぷっ!
45 :
可愛い奥様:02/04/13 01:57 ID:VxH3Y9s1
>少女のようなその姿。おサルであった
!!クレーーム!!!
46 :
可愛い奥様:02/04/13 01:59 ID:lKGpH981
48 :
可愛い奥様:02/04/13 09:25 ID:m6BsiB0E
おもしろい!!
すごいおもしろくて いろいろ想像しながら
読んだ。
はまりそうだ・・・
ふじ子
マーキングは基本ですから!
一歩引いたところから、楽しそうなこの話の輪を見ていた可愛い奥様が、
おサルにそう言い放った。
しばらくは、この牽制攻撃を無視していたおサルであったが、遂に耐えられなくなった。
「ちがうよ。なんでそんなこと言うの?」
「だって、馴れ合いじゃない? コテハンだからって何をしたっていいってことには
ならないのよ!」
しばらく言葉の応酬が続いたが、誰が何を言っているのか、おサルには
さっぱりわからない。投げつけられる言葉が、誰のものなのかがわからないのだ。
脳無しはじっと黙って聞いていた。
そうこうしているうちに、次第におサルと脳無しを攻撃する可愛い奥様の数が増え始めた。
「脳無しって、あんた自分のこといってるの?」
「氏ね」
「どっかいけ。コテハンは消えろ」
「うざいんだよ。なんで2ちゃんでコテハンやってんの? 馬鹿じゃない?」
おサル・脳無しと、仲良く話をしていた可愛い奥様たちは、
あまりの猛攻に耐えられなくなり、一人抜け、二人抜け、三人抜け……
ついに、おサルと脳無しは二人っきりになってしまった。
同時に、二人に向かって、空き缶や古雑誌、生卵が投げつけられはじめた。
その苛烈な攻撃の中、まず脳無しがスルリと姿を消した。
可哀想なおサルは一人取り残され、顔や腕、脚、そして心に
切り傷すり傷を山とつけられ続けた。
半ば泣き出しそうになりながらも、必死に言葉での反論を続けるおサル。
「おサル! 逝くよ!」
可愛い奥様に罵倒され続けていたおサルの名を呼んだ、万田久子のようなその声。
脳無しは、いつの間にか迷彩戦闘服に身をかため、ライフル片手に、戻ってきた。
おサルを幾重にも取り巻く、名無し糾弾奥様の輪を強行突破して、戻ってきたのだ。
風のように素早く、稲妻のように力強いその姿は、まさに中世の騎士を彷彿とさせた。
それを遠くから見つめていたある可愛い奥様が、思わずぽつりとこう洩らした、という。
「…ジュラール・フィリップみたい…」
おサルの手を痛むほどに握り締め、脳無しは階段を駆け降りていく。
投げつけられる空き缶や、割れたビール瓶、生卵の雨嵐の中、
おサルをぐいぐい引っ張っていく。
体育館中の可愛い奥様からの罵詈雑言の嵐を受けつつ、脳無しは走り続けた。
いつしかおサルの頬には、耐えに耐えた熱い涙がつたっていた。
「低学歴のくせに!」
「貧乏人が、2ちゃんねるで憂さ晴らししてるのよねー」
脳無しとおサルという、格好のターゲットを失った可愛い奥様たちは、
欲求不満の捌け口を求めて、なおも悪口大会を続けていた。
突如、不協和音が鳴り響いた。
「じゃ、あなたの出身大学はどこなの?」
可愛い奥様たちの勢いづいたざわめきが、一挙にトーンダウンした。
「…そういうあなたはどこなのよ?」
別の可愛い奥様がたずねた。
「私? 凶大ですけど何か? 馬鹿が馬鹿を罵る姿って、ほんとにおかしいわね」
後々まで語り継がれる、凶大卒 鮮烈デビューの瞬間であった。
「夫は出版社勤務で、年収は1000万余裕で超えてるわよ。貧乏な人が
貧乏な人を罵って何が楽しいのかしらねぇ」
とたんに、可愛い奥様の怒りの矛先は、凶大卒に向けられた。
「マスコミ妻? 泥仕事の労働者妻が何いってんのよ」
「あんた、ホントに凶大なの? ゼミの教官の名前いってみな!」
「妄想もたいがいにしたらぁ(藁)?」
熱帯ハリケーンの如く果てしなく続く攻撃。
煽りに慣れていない凶大卒は、焦りの色を強めていく。
「みどりのくつしたです」
凶大卒の登場を聞きつけ、どこからかともなくやってきた助っ人、
みどくつであったが、
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■終 了■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■■■■■■■■■■■終 了■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■■■■■■■■■■■終 了■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■■■■■■■■■■■終 了■■■■■■■■■■■■■■■
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終了絨毯爆撃を受け、一瞬で終了。
しかし、この事件は、後の「妻スレ事変」の不確かな前兆でもあった。
一説によると、みどりのくつしたは、マミー石田一派から派遣された刺客、
とも噂されているが、真実は歴史のみが知っている………
「天然さん、大丈夫? 傷は深くないわ。安心して」
ようやく意識を取り戻した天然破壊王の目が、次第に焦点を結び始めた。
最初に飛び込んできたのは、10段重ねになった跳び箱と、
心配そうに天然を見つめるでんぼでございます であった。
53 :
可愛い奥様:02/04/16 13:20 ID:uA0vOMQe
サルの美化反対運動
54 :
可愛い奥様:02/04/16 16:56 ID:NBJyuyQW
>>53 みんな仲良く「泥沼」でいたいっつーこと?
55 :
可愛い奥様:02/04/16 20:34 ID:2+wlYTHe
ねえ、のうなしは?
「わ…私、どうしてたの? 確か、うちのアニオタといっしょに
錦糸町へ、ハムハムハウスを買いに逝ってて…」
天然は、上半身をおこし、額に右手をあててうつむいた。
激しい頭痛に、頭が割れそうだった。
「しっかりして、天然さん。ここは体育器具室よ。今は…信じたくないけど、
コテハンどうしの殺し合いをしている…最中なの…」
でんぼでございますは、天然の背中をさすりながら、低く言った。
「……」
額にかかった天然パーマの長い前髪をかきあげる。そのときになってやっと、
天然は自分の置かれた状況を理解し始めていた。
「あなたは、花沢ルイに撃たれたの。本当は保健室へ行きたかったのだけど…
可愛い奥様たちが出口の前に固まっておしゃべりをしていたものだから、
あなたを運び出せなかったのよ」
でんぼは唇をかみしめて、そう言った。
天然の目が、やっと体育器具室の薄暗さに慣れてきた。辺りを見渡すと、
いくつも連なったボール入れと、積み重ねられた平均台の隙間に、
体育マットが敷かれている。そこには、よし坊が横たわっていた。
「…よし坊…」天然の目から、理由のわからない涙が一筋、頬を伝った。
ガラっ
突然、体育器具室の扉が開いた。薄暗い器具室にカツカツカツ、
と軍靴の足音が響いた。
「天然さん、大丈夫ですか…? と私が言うのはおかしいですね。
あなたがたには、殺し合いをしてもらっている最中なのですから…」
よく通るバリトンの声が、器具室の中に染み渡った。
天然とでんぼは、緊張に体をこわばらせ、お互いわずかに身を寄せ合った。
暗い器具室の明かりの中から、姿をあらわしたのは、
SPの軍服に身を包んだ、トオル★……削除忍★大佐、その人であった。
「今行われている、コテハンさんたちの殺し合いは、すべて
教室の可愛い奥様たちにLIVE実況されることになっています。
したがって、ここの様子も天井にある監視カメラで中継されています。
同時に、あなた方も、他のコテハンたちの様子を実況で見ることができます」
そう言って、削除忍★大佐は、ポータブルテレビを床に置いた。
「これは、ひろゆきの命令なのです」
テレビ画面には、可愛い奥様の罵倒と攻撃を受ける脳無しとおサルの姿が
映し出されていた。
「ひどいナリ…」いつのまにか、意識を取り戻したよし坊が、食い入るように
テレビの画面に見入っていた。
「もうすぐ、朝のスポーツニュースが始まるナリ。昨日は阪神戦があったナリ。
チャンネルを変えてもいいナリか?」
そう言って、勝手にチャンネルをいじり始めた。
「あ……!」
でんぼ、天然、よし坊の三人は息をのんだ。
「…このテレビは、実況専用ですから…阪神戦は見られません」
削除忍★大佐の声が、氷のように冷たく刺さる。
テレビには、体育館の左翼で可愛い奥様に幾重にも包囲され、
ナイフを振り回して暴れまわるあるコテハンたちの姿が映し出されていた。
みるく♪とひじき、はっぴ〜奥さまは、可愛い奥様の兵器である、
煽り銃・騙り砲にもびくともしなかった。
「主婦なんて、所詮年増のブスおばはん♪
馬鹿は馬鹿なりにおとなしくしててね〜」
狂気の刃を剥き出しにし、みるくは可愛い奥様にきりかっていく。
みるくと双子の姉妹のようなひじきは、両手に二本の出刃包丁を振りかざし、
「主婦は、アホ」「主婦は売春婦」と、次々に可愛い奥様を刺し殺していく。
「ルール違反に対してルール違反の荒らしで対抗して
何が悪いんでしょうか?」
はっぴ〜奥様は、日本刀を振りかざし、見たこともない衝撃の五刀流で、
真空神風切も真っ青のコピペ攻撃を繰り返していた。
三人のキティラーコテハンを、何十にも取り巻いていた可愛い奥様たちも、
さすがに攻撃が手薄になり始めた。野次と怒号の音が次第に小さくなり、
刃物が空を切り、肉を裂き骨を絶つ音だけが、耳朶を穿つ。
三人は、遂に周囲の可奥を一人残らず血祭りに上げた。
血の海の中に、累々と築かれた可奥の屍。
返り血で真っ赤に染めあがった三人の姿を、徐々に傾き始めた巨大な満月が
ぬらぬらと照らし出した。
みるくは、血脂まみれになったナイフを、ペロリと舌でなめ上げた。
「ここも、つまんないわね…」
バシュッ バシュッ バシュッ
サイレンサー銃の低い音が三回鳴った。
最初に膝を折ったのは、ひじきだった。
声もなく倒れるひじきの上に重なるように、みるくが崩れ落ちた。
ほとんど同時に、はっぴ〜奥様が目を見開いたままゆっくりと、
後方へ倒れていく。
やがて、一段下がった椅子の陰から、のっそりと黒い影が立ち上がった。
その様子をテレビ画面で見ていた天然は、両手で口を覆い、声にならない
悲鳴をあげた。
「天ちゃん、ヤツを知ってるナリか…!?」
「な…名無しぃ……!!」
そう、三人のキティラーを一瞬にして葬り去ってしまった、黒いコテハン…
それは、名無しぃであった。
品の良いカラーシャツに、黒いスーツ、高価なネクタイ。
冷たいほどに整った顔立ちは、主婦板マダムをメロメロにするに十分であり、そして……明らかに男であった。
「…オレは、マジでローカルルール違反だからな…」名無しぃは低く呟いた。
数名の削除人が、どこからともなく現れ、名無しぃを取り囲んだ。
「残念ですが、あなたを削除します」
こうして名無しぃも、コテハンとしての命をここに絶たれたのであった。
「そろそろ、今日はお開きかな」
バーテンダーは、グラスを磨きながら呟いた。
窓の外には低くなった月が輝いていた。バー・マッキャランに残っているのは、
こてっちゃんと、酒場のかもめ、そして何人かの可愛い奥様だけになった。
アルコールランプのアルコールが残り少なくなり、火が消えそうになっていた。
「もう三件目なんだけどさ、いいかな」
バーテンダーの返事も聞かず、ツカツカと入ってきて、
こてっちゃんの白ワインを、勝手にごきゅごきゅ全部飲んでしまったのは、
86@腕時計であった。
室内はさらに暗く、腕時計の顔はほとんど判別できなかった。
腕時計は、そのままバーカウンターの端に腰掛けた。
途端に、可愛い奥様が言った。
「あんた、どこに行ってたのよ! 天然がたいへんだったんじゃないの!?」
「漏れは漏れ、天然は天然。どこにいようが漏れの勝手」
しらけてしまった場を取り繕ったのは、こてっちゃんだった。
「いいのよ、今日はたいへんな一日だったし。何を飲む?」
「酔い覚ましにビールね。キリンはダメ、絶対アサヒ」
どこまでもずうずうしい腕時計であった。
「こてっちゃんは、どうしてそんなに良い人ぶるの?」
こてつをじっと見つめつづけていた可愛い奥様が、突如、そう尋ねた。
「…え?」何を言われたのかわからなかったこてつは、聞き返した。
「こてっちゃんって、いつもそうやっていろんなこと言って、
みんなに気を配って、周りをあったかい雰囲気にしようとするでしょ。
でも、そんなふうにしててたいへんじゃないのかな、と思って。
本当は何を考えているの?」
「何を…って、私はみんなと仲良くしたいと思っているし…」
全員の体内に酒が回りすぎていた。
いつのまにか、外は風が出てきたようだ。
ざわざわと木立が揺れる音が響き、ゴウと吹きつける風に、
ミシっ…とアルミサッシの窓が音をたてた。黒い瞳の可愛い奥様が言った。
「私、こてっちゃんに興味があるの」
フフフ・・・楽しゅうございますね。
あの日々の思い出が蘇ってくるようでございます。
けれど一言だけ宜しゅうございますか?
わたくしの店のお客様はどなたも素晴らしいかたばかりでございました。
えぇ、我儘ではなく「拘り」だったのでございます。
作者様にも今宵の一杯をお作り致しましょう。
深い歴史の趣にはやはりこのバイオレットを使わせて頂きましょう。
まだ書き続けて頂きたく思いますので軽く仕上げました。
このほの白い紫は作者様へのオリジナル、「霧菫」でございます。
しかし元常連様始め皆様にまた、お会いしとうございますね。
お元気でおいででしょうか。
ありがとう。
64 :
可愛い奥様:02/04/19 01:35 ID:gYlVhg08
と、騙ってみたくなった夜。
65 :
可愛い奥様:02/04/19 01:46 ID:gYlVhg08
>63
ごめんなさい。騙りでしたが、気持ちはそのままです。
66 :
可愛い奥様:02/04/19 21:42 ID:0HudSq2z
面白いよ〜面白いよ〜ウルウルウル
あまり面白いって言うと面白くねえよってレスが必ず入るから
遠慮してましたが、一度ぐらい言わせてね。
面白いよ!
こてっちゃんは、どう応えてよいのかわからず一生懸命返事を繰り返す。
しかし、その可愛い奥様はこてっちゃんの返答に、さらにいちいち質問を
繰り出すのである。その様子は、まるでベトナムに駐留するMPの尋問だった。
そんな様子を、すっかり酔っ払った腕時計がニタニタしながら見つめていた。が、
「帰る。お勘定。…こてつ、適当にしとけよ。あんたは真面目すぎる」
そう言って立ち上がった。
こてっちゃんに詰問を続けていた可愛い奥様……
彼女こそが、実は『研究員』その人であった。
その後の既婚板の命運を左右することとなる、二人のコテハン。
後に「バー・コテハン」と化すこととなる深夜の「マッキャラン」には、
熱い歴史の胎動が渦巻いているのであった。
ほぼ同じ時刻、1年B組の教室で雑談に興じていた可愛い奥様たちは、
すっかり退屈しきっていた。そんな空気を打開しようと、ある奥様が言った。
「深夜に雑煮しませんか?」
『しまった…! 雑談だった…!』
しかし、立ててしまったスレは今さら引っ込められない。
「いいわね。雑煮にしましょうか。そろそろ小腹も空いてきたし」
「そうね。雑煮にしましょう」
「うちのお雑煮には、小豆を入れるのよ」
「えーーー! うちは鶏肉と小松菜だけよ!」
1年B組の奥様たちは家庭科室に移動して、めいめいに雑煮を作り始めた。
ほこほこと湯気をたてる、温かなだし汁。餅を焼く香ばしい匂い。
醤油や味噌の香りも鼻をくすぐる。
しばし深夜の雑煮に興じる可愛い奥様たちであった。
[番外編Prat1 その日〜午前中]
明るい朝の光が、ドアの向こうから射し込み、新鮮な空気がさわやかに鼻腔をくすぐる。
「いってらっしゃい。今日は何時頃帰ってくる?」
「そうね。会議があるから遅くなる」
「そう。じゃぁ、お夕飯の支度して待ってる」
「うん」
「いってらっしゃい」
夫の広い背中がドアの向こうへ消えるとき、いつも少しだけ寂しい。
夫は最近「×時に帰る」とは言わなくなった。午前様になることも度々で、
そのままお茶も飲まずに眠ってしまうことさえある。
「夕飯の支度をして待ってるから」と言うのが、
彼女にできるせいいっぱいの抵抗であり、事実、毎日毎日、
食べられないかもしれない夕食を作り続けて待っている。
さぁ次は、子供たちだ。
「起きなさい! はやくおきなさーい! 遅刻するわよ〜〜〜〜〜〜〜!」
…毎朝繰り返される朝の儀式。その後は、茶碗を洗って洗濯して干して、
片付けをして、掃除機をかけて…。
平凡で幸せな毎日。
けれども、我知らず、可愛い奥様は小さくため息をついていた。
午前10時過ぎ。
軽やかな起動音とともに、可愛い奥様は今日もWindowsを立ち上げてしまった。
腰にはまだエプロンがかかったままだ。「ほんの少しだけ…」
本当は、まだ家事をしなければならない。なのにどうしてもやってしまう。
今日も、2ちゃんねるに接続し、延々と巡回してしまうのが、自分でもわかっていた。
少しだけのつもりだったので、パソコンが完全に起動すると、中腰のまま、
ネットワーク接続を開いた。モデムから、ピーピーガーガーという音が聞こえる。
『今日は、絶対にレスをつけない。見るだけよ。…ほんの5分だけ』
先月の電話料金は4万を超え、こっそりためていたへそくりから
預金を引き出すハメになった。
IEを起動させ、履歴から「caramel」サーバのフォルダを覗く。
次回は水曜日です。dat落ちしそうだったらたまにあげます。
70 :
可愛い奥様:02/04/23 01:50 ID:kxcsqhOh
お待ちしております。
「専業主婦は、社会の負け犬」
この刺激的なタイトル。
煽りコテハンたちに酷い言葉を投げつけられ、可愛い奥様は
昨日の夜遅く、ついついマジレスをしてしまったのだ。
756番目の次のレスは…たどって行くが、彼女の書きこみは
完全に無視されているも同然…、いやそれよりも悪かった。
「>756 超がいしゅつ〜」
「
>>756 亭主の専属売春婦のくせに、偉そうに社会を語ってんじゃねーよ」
一瞬にして全身の血液が逆流していくのを感じた。同時に、家族を送り出したときの
かすかな倦怠感と不安が消え去った。
可愛い奥様は、エプロンを外すのも忘れ、マウスを握り締めてパソコンチェアに座った。
『…客間の掃除は明日にしよう…どうせ、お義母さんが来るのは明後日だし…』
そう思うと、気分が少し楽になった。これで、昼過ぎまでは楽しく2ちゃんできる。
『…そうだわ』
可愛い奥様は、アウトルックを立ち上げた。今日はまだメールを見ていない。
「受信」ボタンをクリックすると、何通かの電子メールが落ちてきた。
「楽天市場からのおしらせ」
「Yahoo!ショッピングからあなたへ春の新生活フェア」
「ゆびとま通信◆絶対確実安心の在宅ワーク」
『宣伝メールだけ…か…』
可愛い奥様はため息をついた。涙が溢れそうになる。
今日も、待ち望む人からのメールは来ていなかった。
初めて立ち寄った深夜のチャットルームで知り合った「ひろし」……
チャットがきっかけで、ここ数週間ほどメールの交換をしていた。
可愛い奥様は、気がつくとひろしのことを考えてしまう自分に、気づいていた。
会ったこともない、声さえ聞いたこともない人なのに。
午後の光の中で洗い物をしているときに、
夫の洗濯物をタンスに仕舞っているいる夕刻に、
子どもを寝かしつけて夫を待つ夜に……。
「あなたは、そのままで十分素敵だと思う」
ひろしが送ったその一言は、可愛い奥様の胸の中に、小さな炎をともしたのだった。
ここ数日は、ひろしとのメール交換が、1日3〜4回にまで増えている。
なのに昨日と一昨日、ひろしからの返事がぱたりと止まってしまったのだ。
不安をかきけすように、頭を数回振り、アウトルックを閉じようとしたそのときだ。
十通近い宣伝メールに混ざって、妙なサブジェクトのメールが来ていることに気づいた。
【2ちゃん既女板・可愛い奥様へのご案内】
[番外編Prat2 その日〜午後]
窓の外から、下校中の小学生のにぎやかな声が聞こえてくる。
カーテンの隙間からは、温めたはちみつのような午後の光が漏れている。
カーテンを閉めたままの薄暗い寝室で、可愛い奥様はやっと目を覚ました。
『あぁ…もう午後なのね…今日も朝起きられなかった…』
頭痛のせいで頭が重かった。まず手を伸ばして肩をゆっくり上下してみる。
次に膝を立てて上半身を起こす。自分の体が確かにあることを確認すると、
今日も昼夜逆転してしまった、という事実が彼女の気分を憂鬱にさせた。
妻が朝起きてこない、ということに夫は最初あれこれと文句を言ったが、
今ではとうに諦めきっている。勝手に起きて出勤していく。寝室さえ別々だ。
子どもたちも、台所の菓子パンやシリアル、牛乳ををめいめいに摂って
登校するようになっていた。母親が起きなければ、自分で起きるしかない。
甘えられない分、却って子どもも夫もきちんと起きるようになった。
『私だけが…毎日こんな時間にのろのろ起きだしている…』
ひたすら憂鬱だった。もはや悩んだり悲しんだり、自分に対して腹を立てることさえ、
面倒だった。
可愛い奥様は、パジャマのままベッド脇のパソコンに向かった。
昨夜も2ちゃんねるをやりすぎて、眠ったのは明け方の5時過ぎ。
憎たらしい腕時計が、いけしゃあしゃあと
「おはよう!前田義子さん!」
と書き込みをしているのを見て、すぐにパソコンの電源を落としたのだった。
『だいたい、前田義子って誰よ? 前田ギコ? 何それ?』
心の中で悪態をつきながら、それでもかちゅ〜しゃを立ち上げてしまう自分がいた。
すぐに既婚女性板につなげる。
「だらしない主婦博物館」
「ちょっとどころじゃない!完全なひきこもり」
そんなスレが上にあがってきていた。可愛い奥様は、くすっと微笑んだ。
『私と同じような人が、他にもいるのね…』
もう何日外へ出ていないだろう。この寝室は、ほとんど自分の部屋と化し、
何週間もカーテンさえ開けていない。子どもは勿論、夫さえ入ってこない。
丸一日、パジャマのままで過ごすこともある。
『また天然がいる…』可愛い奥様は「チッ」と音をたてて舌打ちした。
『この馬鹿女、いったい何回言われたらわかるんだろう…』
理由は自分でもわからない。なのに、彼女は天然破戒王が大嫌いだった。
早速、テキスト保存してあるテンプレートを開き、べったりとコピペした。
『フフフ…今日はsageないわよ。あの女に思い知らせてやる…』
ククククっと喉を鳴らし、可愛い奥様は気付かぬうちに一人笑っていた。
『さて…っと。今日は目障りなコテハンは出てきているかしら?』
ゆっくりと巡回を始めた。右手でマウスを動かしながら、左手は
ほこりだらけのサイドボードの上をごそごそと探る。
そこに避妊具が置かれなくなってもう何年経つだろう。
精神科医から処方された薬を、規定の倍量取り出すと、
飲みかけの、ヴィッテルのペットボトルで、ゴクリと飲み下した。
生暖かい水と大量の錠剤が喉を通過していく瞬間、ふと思い出した。
『メール見なきゃ』
メルトモのアキラ君から返事はきているだろうか?…
とり憑かれたようにそれだけが気になった。
ベッキーを立ち上げ、数あるアドレスの中から最もプライベートなアドレスを
最初にチェックした。
「よく眠れた?(笑)」
「今、学校のPCからだよ」
アキラ君だ! 今朝方書いたメールに、早速返事が来ていた。しかも二通。
早速メールのプレビューに視線を走らせた。
「るなっち、元気だしなよ。2ちゃんなんてクズの集まりなんだからさ。
るなっちは誰よりも頭がいいよ。おれ、るなっちにいろんなこと
教えてもらって、すげー助かってる。ホントだよ。
2ちゃんでしかモノをいえない奴らなんて、最低な奴らなんだから、
そんなヤツらに言われたことなんか、気にすることないって。
ね? オレがなぐさめてやるゾー!オレの胸で泣けー(笑)
またいつでもメールください。楽しみにしてます。無理しないで。
アキラ」
可愛い奥様の顔が、わずかに赤く染まった。アキラ君……今となっては、
夫よりも子どもよりも、アキラ君のほうが大切で身近な人に思えた。
急いで二通目のメールを読もうとしたとき、可愛い奥様は気付いた。
おかしなサブジェクトのメールがきている。
【2ちゃん既女板・可愛い奥様へのご案内】
次は週明けかも。
>76
番外編。。。
なんかTBS系ドラマの様なノリですね。
来週また、お待ちしております!ワクワク、ワクワクwww
78 :
可愛い奥様:02/04/25 09:56 ID:/BWldog4
え・・これ、面白くなるのかな?
79 :
可愛い奥様:02/04/26 00:06 ID:WlcdC7r/
保存しました。面白い。
80 :
可愛い奥様:02/04/28 15:57 ID:mHVx4pDU
保守保守
81 :
可愛い奥様:02/04/30 00:34 ID:lh3ZZXt8
可奥編がどうなるのか気になる。
----------------------------------------------------------
To: *****@*****.ne.jp <河合 奥子>
From: 2ちゃんねる <
[email protected]>
Subject: 【2ちゃん既女板・可愛い奥様へのご案内】
どもども、ひろゆきですー。
このメールは2ちゃんねるの「既婚女性板」におすまいの
可愛い奥様にお送りしてますです。
今日のよる12時から、体育館@お祭りch で
既婚女性板のコテハンさんたちの殺し合いをしてもらうづら。
おひまな方は、みにきてちょ。。。。
----------------------------------------------------------
書かれていたのは、これだけ。
『何のいたずらだろう? いたすらはいやづら。。。』
不安に思いつつ、ゴミ箱へ捨ててしまおうとした。
カチッ
メールを閉じようとマウスをクリックした瞬間、目の前が真っ暗になった。
……気がつくと、そこは夜の体育館だった。周囲を見渡すと、薄暗くライトダウンした
体育館の閲覧席に、自分と同じように不思議そうな顔をした主婦らしき人たちが、
何百人、何千人といる。
ふと前を見ると、バスケットコートにライトが当てられ、何人かの主婦が
必死に叫んだりわめいたりしている。
壇上には、軍服を着た人々が何名か、そして演壇の前には…ひろゆきがいる。
雑誌やテレビで見た、あのひろゆきだ。
担架が運ばれてくる……ビニールシートがめくられ、
死体のようにぐちゃぐちゃになった主婦の姿……
「よし坊!」誰かが大声で叫び、たくさんの人が悲鳴をあげていた………。
コテハンたちがてんでバラバラに好き勝手なことを始めたその頃、
可愛い奥さまたちもすっかり退屈して、めいめいに自慢話や今夜のおかずについて
おしゃべりを始めていた。
ホロロロロ〜〜〜、ホロホロロロロロ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
どこからともなく尺八の音が鳴り響いた。
あまりに予想だにしない出来事に、可愛い奥さまたちはすぐにおしゃべりを止めた。
尺八の音と共に近づいて生きたのは、虚無僧の格好をしたあるコテハンであった。
虚無僧は、地面の下から聞こえてくるような、低くふるえる声で
念仏を唱え始めた。
所詮、主婦は世間観が無いために直に噂を信じ、集団心理へと陥り、
世間を無駄に騒がせる。
所詮、主婦など社会責任を持たない奴隷。
亭主の為に飯を炊き、股を開くのが関の山。
亭主の夢のための捨石となればそれで良い。
所詮、主婦など飯炊き女。
亭主専用の壷と心得よ。
所詮、主婦など社会に役には立たん。
亭主のチンポをしゃぶる、うぬ等の顔を鏡に映せば良く解る。
所詮、主婦などその程度。
所詮、主婦など社会のオモチャ。
今日も今日とて飯を炊く。どんなにいい訳をしても飯を炊く。
亭主帰らば、股開く。
所詮、主婦などその程度。
どんなに見栄を張っても、飯を炊く。
所詮、主婦などここで幸せ自慢の妄想をするのが、関の山。
我が名は『うぬ』也哉。
うぬは、「弐茶音瑠真宗浄土念仏」を唱えながら、
真の仏陀の如く音もなく歩いてくる。可愛い奥さまの人垣が、
「モーゼの十戒」海を渡るイスラエル人のように、さーっと割れた。
すたすたと、しかし厳かに可愛い奥さまたちの間を通り過ぎていく。
…この事件は歴史的に「うぬの巡礼」と呼ばれ、ある時期になると繰り返される
年中行事となった。
84 :
可愛い奥様:02/04/30 10:05 ID:UI7qm6xs
ワッハッハッハ うぬ〜!!(笑い泣き
85 :
可愛い奥様:02/04/30 11:09 ID:8FjWbGLV
面白いよ!
冷たくなった空気が頬をなでるのは、間もなく夜が明けるってことだ…
おサルはそう思った。こんなときに、こんな呑気なことを考えているのは場違いだ。
学校の屋上に、こんなふうに脳無しと二人っきりでやってくるなんて
思いもしなかった。
襲いかかる可愛い奥さまを振り切って、階段を駆け上がってきた脳無しは、
はぁはぁとまだ肩で息をしている。
『脳無しが守ってくれたんだ……』
そう思うと、また涙が出そうになる。でも、泣いてはダメだ。
空はまだ暗く、空一面の星がくっきり見える。
貯水タンクの側までやってきて、やっと一息ついた。
さーーーーーっとつめたい風が吹き付けてきて、脳無しの長い髪の毛がなびく。
『きれいだな……』
そんなことを考えていた。
「きれいっていうのは、空のこと?」
脳無しが振り向いて、ニヤリと笑う。脳無しには、全部わかってしまう。
「おサル……大丈夫?」
「うん…」
言葉が続かない。でも、言葉は多分必要ないんだとおサルは思う。
脳無しは「がちゃっ」と音を立ててライフルを下に放り投げた。
ゆったりとした長い髪の毛をかきあげて、フェンスのほうへ歩いていった。
転落防止のために屋上には金網が張り巡らされている。
右手をフェンスにかけたまま、脳無しは少しだけ寂しげな目でじっと空を見ていた。
おサルはどうしていいのかわからなかったけれど、脳無しがあんまりきれいだから、
ただ見つめていた。
しばらくたって、脳無しはぽつんと言った。
「私、脳無しをやめようと思うんだ……」
「え……」
脳無しは、にこっと笑った。
「でも、おサルのことは忘れないよ。…ホントに、本当に楽しかったね」
「でも…でも…」
息がつまって声が出ない。おサルの目から泪が溢れた。
「また別のハンドルで2ちゃんには来るから。声をかけて」
脳無しは、そう言うとおさるの顎をそっともちあげて、じっと瞳を覗き込んだ。
脳無しにずっと握り締められていた手が、まだ熱い。言葉が出てこない。
「ね? 泣かないで」
月は小さく薄くなり、東の空が白白と明らんでいた。
風はさらに冷たく清々しく、早い流れで雲が動いていくのが見える。
もう、星は見えなくなっていた。
[2日目 〜午前中]
コテハンたちは、すっかり疲れきっていた。
夜中、可愛い奥様に煽られ、騙られ、嬲りものにされ続けた疲労は、
コテハンたちの肉体を確実に蝕んでいた。
「連絡です。コテハンさんたちは至急、第二視聴覚室へ集合してください(^_^;)
繰り返します。コテハンさんたちは至急、第二視聴覚室へ…」
スピーカーから流れてきたのは、マァヴ★(^_^;)中佐の声であった。
「マァヴ★たん…」
疲れ傷ついたコテハンたちは、(^_^;)のマークに惑わされ、
よろよろと第二視聴覚室へ集結した。
そこには、うすっぺらな煎餅布団が何枚も敷かれ、遮光カーテンが引かれていた。
「お疲れ様です(^_^;) もうくたくたでしょうから、
ここでしばらくねてください(^_^;)」
そこには、好々爺の如くニコニコ笑顔を浮かべたマァヴ★中佐が待っていた。
「ご苦労さまです(^_^;)」
そう言うと、一人に一本ずつ明治VAAMを手渡した。
「逝き印じゃなくて、明治っていうのがポイントかしら?」
くたくたのはずなのに、社会派発言をするのはさすが、さざなみである。
「二日酔いにVAAMじゃ辛いわねぇ…」
こてっちゃんと腕時計は、ぶつぶつ文句を言っている。
「お疲れでしょうけど、奥様はダイエット中だと思いますんで…(^_^;)」
人の良い顔の陰には、どんな陰謀が隠されているのか? 恐るべしマァヴ★中佐。
ほとんどのコテハンたちは、すぐにすやすやと眠り始めた。が、
「眠れないの…」
目をキラキラさせ表情のない顔で、むっくりと起き上がったのは……やはり研究員だった。
「困ったですねー(^_^;)」
「(^_^;)はなんでついているんですか?」
「なんでと言われても…(^_^;)」
「(^_^;)←これウザくないですか?」
「…………どうぞ、睡眠薬です(^_^;)」
>62
おや、お懐かしい。
あなたのことをマッキャランのみんなは
心配orお慕いしていると思われますよ・・・
しかし。
息災のようで、何より。。。
90 :
可愛い奥様:02/05/06 11:18 ID:ijQ3Kbnh
もう、野暮だなあ・・・
ネタで遊んだっていいじゃん。。。
92 :
可愛い奥様:
>91
コテハンまた、やる気在るの?
へー