【はやぶさ】HAYABUSA-BACK TO THE EARTH-5【帰還】
嫌味の一つでも言ってやろうと扉を開けた僕の目に飛び込んできたのは、
白髪交じりで黒縁メガネ、そして妙にハイテンションな初老の男が早口でまくし立てる姿だった。
「ご不在だった場合、一旦支店に持ち帰って積荷を入れ替え、また別の配達に出ます。
これを何人ものドライバーが繰り返すと、いわばターミナルを中心にいくつものトラックが
交差して出入りすることになります。僕はこれをクロス運転と呼んでいますけれど、
そういった工夫を事前にしておいたということです」
「いや、僕は昨日ずっと居ましたけど」
「多くの人は、届けられるわけないじゃないか、と言いました。ましてや不在に対応できるわけがないと」
「いや、居ましたって」
「ま、明らかに僕も含めて、人心が離れていくわけです。配達チームは。
まぁ相手が居ないわけですから。業務として成立しなくなってくるわけですよね」
「居ましたから」
「ああ、僕らの宛先を失ってしまったんだ、ていう。断末魔の、なんか叫びみたいな感じで」
「居・ま・し・た」
「支店長はいろんな手を打ってくるわけです。例えば確率論的に、何日に在宅してる確率はこうだと。
よくそんなん考え付くなと思って。やっぱ諦めたら駄目なんだなとは思いましたね」
「もういいです。今は居るわけですからさっさと商品を渡して帰ってください」
「いや〜ほんとに居るんだぁ。この数日間不毛なことをやってきた気がするけどすげぇなぁ、
よく見つかったなぁって思いましたね」
呆れ返ってそれ以上言葉が紡げなくなった僕を尻目に、その男は嬉々としてCDを取り出して、言った。
「言ったろ?ここに届けてやるって!」
そう言い残した彼は、僕の手にCDをポンと置くと、受領印も貰わず颯爽と次の配達先へと向かって行った。