日本人が日本の選挙を撮るということで、日本人にとっては「わかりきっている」と思われがちな選挙を、ドキュメンタリー・観察映画として仕上げた作品だ。
そんなこともあり「欧米向けかな?」と思わせたりしたのだが、実際は、日本人こそが観なくてはならないものだった。
「わかっている」はずのものの選挙や選挙運動が、これを観ることによって「わかっていなかった」と思うと同時に、
政治とは離れた全く他のものに変化して、笑いあり、涙ホロリ、怒りあり、のメロドラマを観ているような気分にさえしてくれる120分間だ。
市議会補欠選挙で自民党推薦による選挙運動から、開票日までの2週間に密着して撮影され、スタッフは監督の想田(そうだ)和弘さんただ一人。撮影、録音、編集と全てを一人でやりこなし、制作費さえ自己負担だったという。
切手コイン商を営む主人公の「山さん」こと山内和彦さんは、この選挙に出馬するまでスーツさえ着たことがなかったらしく、ボヘミアン的な経歴がありそうなものの、監督とは、なんと東京大学の同級生。
現在NY在住の想田監督であるが故に撮れた映画だったのだろうか? 日本に住んでいたなら撮れなかった、または撮らなかった題材の映画だったのだろうか?
「僕はアメリカに住んで長いので、日本で生活している人には至極当たり前で素通りしてしまうようなことでも、どこか珍しいというか、興味深く見えることが多いのです。
例えば、満員電車のシーンなど、日本に住んでいたら撮ろうとも思わないでしょう。
しかし僕にとっては、ああいう場面が妙に印象に残るし、日本の社会について何かを雄弁に語っているように思えるのです。
とはいえ、僕が日本で暮らしていたとしても、山さんが自民党から立候補すると知ったら映画に撮りたいと思ったでしょうね。というのは、ドキュメンタリーの題材として、あまりにも魅力的ですから」と想田監督。
「映画『選挙』は自民党が行う選挙運動を否定したり持ち上げたりする映画ではありません。選挙や民主主義について考えたり、議論したりするきっかけになってくれることを期待します」とも言っていた。
http://www.laboratoryx.us/campaignjp/index.html