★なずなです。
おははようございます。
今日は趣向を変えて、「なずな」というHNの由来になった、岩井俊二の
名作「打ち上げ花火 下から見るか? 横から見るか?」のシナリオを
全文掲載しましょう。
すでに見た人は、映画とかなり違う部分があることを楽しみ、未見の人
はなずな(奥菜恵)の魅力にふれましょう。
では、50分の映画ですからやや長くなりますが、最後までお楽しみください。
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1 屋台
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浴衣で涼むストーリーテラーのタモリ。
夕暮れに花火の反映がここにも届いている。
うちわをあおぎながらタモリ。
タモリ「夏の花火大会。いいですねぇ。しかもこうやって屋台で
一杯やりながら見る花火は格別なもんがありますなあ」
ちいさな子供たちがタモリの前を通り過ぎて行く。
タモリ「子供たちっていうのはまた花火が本当に好きなんですね
ぇ。彼らは彼らなりに花火を格別なものと受け止めてい
るんでしょう。さて、今日はちょっと大人になりはじめ
た子供たちが主人公です。花火大会のその日に彼らに一
体どんな・IF・が待ち受けているのか、これから一緒
に見て行くとしましょう」
こんにゃくを食べようとして下に落とすタモリ。
こちらを見て、
タモリ「皮肉なもんです」
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2 道
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走る幹夫。
首にラジオ体操のカードをぶらさげている。
ラジオ体操の歌を我知らず心の中で口ずさんでいる。
幹夫。
幹 夫(♪新しい朝が来た。希望の朝だ。
喜びに胸を広げ 青空仰げ
ラジオの声に 健やかな胸を
その香る風に開けよ それいち・に・さん)
牛乳屋とすれちがう幹夫。
朝顔に水をまいている老人。
時計を見る幹夫。
舌打ちしてスピードを早める幹夫。
頭の中でラジオ体操第二のかえ歌を歌う幹夫。
幹 夫(♪ちくしーょ、ちくしょ
ねぼうだ、ちーくしょ。
ちーくしょ、スタンプもらえない!)
3 グランド
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グランドにつく幹夫。
誰もいないグランド。
幹 夫「(ぼそっと)……え?……なんで?」
カードを見る幹夫。
カードのスタンプは七月三十一日まで押してある。
幹夫の指は空白の八月一日のところで止まる。
何かを思い出そうとする幹夫。
どうも何か大事なことを忘れているようだ。
そしてやっと気づく幹夫。
幹 夫「……今日、登校日じゃん」
どっと疲れがおしよせる。
やり場のない怒りにグランドにころがった空気の抜
けたドッヂボールをけとばす幹夫。
バフッという音を立てて宙を舞うボール。
4 典道の家・居間
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パンをかじりながら朝のニュースをのんびり見てい
る典道。
典道の母が後ろから忍び足で近づいて来ていきなり
典道の頭を大根でたたく。
ゴン!
頭を押さえてふり返る典道。
母 「何やってんの典道」
典 道「何が?」
母 「登校日でしょ? 遅刻するわよ」
典 道「わかってるよ。いま行こうと思ってたんだよ」
そういいながら椅子から立ち上がらない典道。
ふたたびその首がテレビに向こうとすると、典道の
母の大根がその後頭部を狙っている。
にらみあう一瞬の間。
典道の母の一撃を警戒しながら居間を出て行く典道。
5 典道の家の店先
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典道の家は釣具店である。
典道の父がはたきをかけている。
典道があがり口で靴をはく。
典 道「(ひとり言)なんで花火大会の日にガッコ行かなきゃな
んねーんだよ」
父 「おめえはまだいいよ」
典 道「なんで?」
母の声「あんた学校何時に終わるの?」
典 道「え? 昼頃だろ」
母の声「今日おかあさんたちいないからね」
典 道「(父に)PTA?」
しかめっつらしてうなずく父。
父 「ガラクタ集めてバザーやるんだってよ」
典 道「今日?」
うなずく父。
典 道「どこで?」
父 「公民館で」
典 道「……誰が来んの? そんなの。こんな日に」
父 「だろー?」
母がのぞきこむ。
あわててはたきをたたき始める父。
飛び出す典道。
6 店の外
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純一と稔にでくわす典道。
純一「おぉ!」
足ぶみする典道。
典 道「よーい、スタート!」
ダッシュする三人。
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7 店の中
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母 「おとうさん」
父 「え?」
母 「やなの?」
首をふる父。
8 祐介の家(病院)の前
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入り口のベンチで病院が開くのを待っている三人組
のおばあさんと話し込んでいる和弘。
祐 介「へー。お孫さん夫婦が来てるんッスか。そいつはにぎや
かっスね」
ドアから祐介が出てくる。
ふりかえる和弘。
和 弘「あ、それじゃ、みなさんお大事に」
一礼して祐介と歩き出す和弘。
手をふるおばあさんたち。
それを見ながら祐介、
祐 介「おまえ、何しゃべってたの?」
和 弘「何って、世間話だよ」
祐 介「あーいうタイプが好きなの?」
和 弘「え? なにが」
9 なずなの家・玄関
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薄暗い玄関と廊下。
靴をはいているなずな。
背後からなずなの母の声。
なずなの母「なずな」
びくっとするなずな。
しかしふりかえらずに靴を履き続ける。
なずなの母「これ三浦先生に渡しといてね」
その声はかなり耳元で聞こえる。
ふりかえるなずな。
居間に消える母の後ろ姿が一瞬かいま見える。
自分の後ろに一通の封筒が置いてある。
・三浦先生へ・
封筒を手に取って立ち上がるなずな。
なずな「……何よ、これ!」
返事がない。
なずな「なんの手紙?」
なずなの母の声「いいから先生に渡せばいいのよ!」
少しヒステリックな母の声。
唇をかみながら手紙を強くにぎりしめるなずな。
10 学校・グランド
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グランドは登校してくる子供たちであふれている。
半ズボンをまくりあげ日焼けの境界線をくらべっこ
している子供たち。
子供A「皮膚パンツ!」
子供B「しりパンツ!」
ふりかえるともう一人が全部おろして、尻をふって
いる。
子供D「われめパンツ〜!」
その子供Dをいきなりけとばして通り過ぎる麗華。
威風堂々と歩く大きな体は他を圧倒する。
校門に飛び込んで来る典道たち。
祐介・和弘と合流してストリートファイターの真似
事をする。
三浦先生が自転車で通過する。
三浦先生「おはよー」
稔が走って先生の後に飛び乗る。
三浦先生「バカ! こら! やめなさい!」
転びそうになりながら自転車をこぐ三浦先生。
稔が脱落すると今度は純一が飛び乗る。
純一はしばしば高校生に間違われるほどでかい。
和 弘「あーゆうカタチでしか愛情表現できねーんだよ」
自転車から飛び降りて純一が戻って来る。
両手をかざして得意げに、
純 一「もんだぜ」
ため息をつく祐介・和弘。
典 道「お前がやるとシャレになんないよ」
女の子の一群が『ひさしぶりー』という声をかけあっている。
11 下駄箱
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上履きを履いている子供たち。
女子A「今日花火大会どうする?」
女子B「ウチ、親戚が来てるのよ」
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12 廊下
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廊下を走る子供達。
鐘が鳴る。
13 六年二組の教室
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鐘が続いている。
教室に入ってくる子供たち。
祐介が典道のところにやってきてひそひそ話をする。
祐 介「典道典道」
典 道「ん?」
祐 介「おとというちの病院になずなが来たぜ」
典 道「うそ」
祐 介「もー、これだぜ」
自分のシャツをまくって胸を出して、聴診器をあて
るまねをする祐介。
典 道「見たのかよ」
祐 介「見れるわけねーだろ!」
なずなが教室に入ってくる。
はっとする二人。
席につくなずなを見守る二人。
祐 介「なあ、典道。告白していい?」
典 道「だからすりゃいいって言ってるじゃん。一億年前から」
和弘がやってきて、
和 弘「今日、行くだろ?」
典 道「花火?」
稔が飛び込んできて、
稔 「ババーン!」
そのまま稔、和弘にケリを入れる。
息ができなくなる和弘。
稔 「あんなのガキの行くもんだぜ」
純 一「おめえはいつから大人になったんだよ」
うしろから純一が稔をはがいじめにする。
祐介が稔のズボンに手をつっこんで、
祐 介「なんだよ。まだムケてねーじゃねーかよ」
稔 「イテイテイテイテ!」
稔、仲間の攻撃をふりきって、机の上に逃げる。
麗華の机である。
一瞬ぎょっとする稔。
間髪いれず麗華のチョップが稔のすねをねらう。
ジャンプしてその一撃をかわす稔。
典道たち「ナイス!」
けっそうかいて机から飛び降り、典道たちの輪に飛
び込む稔。
にらみつける麗華。
純 一「すみませーん」
二回目の鐘が鳴る。
14 グランド
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二、三人の児童があわてて教室に駆け込む。
ひとりの少年が遅れてグランドに飛び込んで来る。
朝、一番乗したはずの幹夫である。
幹夫、肩を落としながら校舎に向かって走る。
走りながらつぶれたドッヂボールをふたたびけとばす。
15 六年二組
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暗幕に閉ざされて暗い教室。
アルコールランプでマグネシウムの棒を熱する三浦
先生。
教壇にかぶりついている子供たちの顔をマグネシウ
ムの光が照らす。
次に銅を使う。グリーンの光が子供たちを照らす。
ちらっとなずなを見る典道。
うつむいて手首のプロミスリングをいじっているな
ずな。
その横顔に見とれる典道。
三浦先生「きれいでしょ」
はっとする典道。
先生は緑色の炎を見つめている。
暗幕を開ける三浦先生。
三浦先生「物質によって燃える色が違うわけ。マグネシウムも銅
もイオウもそれぞれに決まった色で発光するのね。これ
を……」
和 弘「炎色反応」
三浦先生「そう。よく知ってるわね」
ちょっと得意げな和弘。
黒板に・炎色反応・と書く三浦先生。
三浦先生「この炎色反応が花火にも応用されているわけ。花火に
どうしていろんな色があるかわかった?」
一 同「はーい」
三浦先生「今日は飯岡町の花火大会です。みんな行くと思うけど
花火を見たらこれを思い出してみてね。青はマグネシウ
ム、緑は銅、オレンジはナトリウムって考えながら見て
るときっとおもしろいわよ」
うなずく和弘。
・花火大会の心構え・なるプリントを配る三浦先生。
三浦先生「花火大会にはいろんな人が来ます。飯岡の人ばかりで
はありません。他の町からもたくさん来ます。へんな人
にからまれたり、誘われたりしないように気をつけなけ
ればいけませんから、みんなこのプリントをよく読んで
楽しい花火大会を過ごしてください」
純 一「せんせー」
三浦先生「はい?」
純 一「花火大会に行かない人は読まなくていいんですか?」
三浦先生「林君は行かないの?」
純 一「どうしよーかなー。今日巨人ヤクルト戦だからな」
笑。
三浦先生「一応目は通しておきなさい」
× × ×
教室で掃除が始まる。
ほうきで野球の真似をしている純一たち。
ぞうきんのボールをジャストミートした純一の尻を
モップでジャストミートする麗華。
16 階段
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授業を終えて職員室に戻ろうとする三浦先生。
他のクラスで「さようなら」の声。
なずなが三浦先生を追いかけてくる。
なずな「せんせー」
ふりかえる三浦先生。
なずな「あの、これ」
手紙を渡すなずな。
先生が受け取ると、一気に階段を駆け降りるなずな。
階段の上から授業を終えた低学年が元気に駆け降り
てくる。
その後から栗田先生が降りてくる。
手紙を見ている三浦先生に声をかける。
栗田先生「ラブレターっすか? 三浦先生」
びっくりしてふりかえる三浦先生。