「日本映画」復興を語る! その7

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235なずな ◆mdZlKXXcGs

★なずなです。
 おははようございます。
 今日は趣向を変えて、「なずな」というHNの由来になった、岩井俊二の
 名作「打ち上げ花火 下から見るか? 横から見るか?」のシナリオを
 全文掲載しましょう。
 すでに見た人は、映画とかなり違う部分があることを楽しみ、未見の人
 はなずな(奥菜恵)の魅力にふれましょう。
 では、50分の映画ですからやや長くなりますが、最後までお楽しみください。
236なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:28:39 ID:8qn2ozOz
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1 屋台
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       浴衣で涼むストーリーテラーのタモリ。
       夕暮れに花火の反映がここにも届いている。
       うちわをあおぎながらタモリ。
 タモリ「夏の花火大会。いいですねぇ。しかもこうやって屋台で
     一杯やりながら見る花火は格別なもんがありますなあ」
       ちいさな子供たちがタモリの前を通り過ぎて行く。
 タモリ「子供たちっていうのはまた花火が本当に好きなんですね
     ぇ。彼らは彼らなりに花火を格別なものと受け止めてい
     るんでしょう。さて、今日はちょっと大人になりはじめ
     た子供たちが主人公です。花火大会のその日に彼らに一
     体どんな・IF・が待ち受けているのか、これから一緒
     に見て行くとしましょう」
       こんにゃくを食べようとして下に落とすタモリ。
       こちらを見て、
 タモリ「皮肉なもんです」
237なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:30:45 ID:8qn2ozOz
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2 道
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       走る幹夫。
       首にラジオ体操のカードをぶらさげている。
       ラジオ体操の歌を我知らず心の中で口ずさんでいる。
       幹夫。
 幹 夫(♪新しい朝が来た。希望の朝だ。
      喜びに胸を広げ 青空仰げ
      ラジオの声に 健やかな胸を
      その香る風に開けよ それいち・に・さん)
       牛乳屋とすれちがう幹夫。
       朝顔に水をまいている老人。
       時計を見る幹夫。
       舌打ちしてスピードを早める幹夫。
       頭の中でラジオ体操第二のかえ歌を歌う幹夫。
 幹 夫(♪ちくしーょ、ちくしょ
      ねぼうだ、ちーくしょ。
      ちーくしょ、スタンプもらえない!)
238なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:32:27 ID:8qn2ozOz
3 グランド
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       グランドにつく幹夫。
       誰もいないグランド。
 幹 夫「(ぼそっと)……え?……なんで?」
       カードを見る幹夫。
       カードのスタンプは七月三十一日まで押してある。
       幹夫の指は空白の八月一日のところで止まる。
       何かを思い出そうとする幹夫。
       どうも何か大事なことを忘れているようだ。
       そしてやっと気づく幹夫。
 幹 夫「……今日、登校日じゃん」
       どっと疲れがおしよせる。
       やり場のない怒りにグランドにころがった空気の抜
       けたドッヂボールをけとばす幹夫。
       バフッという音を立てて宙を舞うボール。
239なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:33:12 ID:8qn2ozOz
4 典道の家・居間
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       パンをかじりながら朝のニュースをのんびり見てい
       る典道。
       典道の母が後ろから忍び足で近づいて来ていきなり
       典道の頭を大根でたたく。
       ゴン!
       頭を押さえてふり返る典道。
 母  「何やってんの典道」
 典 道「何が?」
 母  「登校日でしょ? 遅刻するわよ」
 典 道「わかってるよ。いま行こうと思ってたんだよ」
       そういいながら椅子から立ち上がらない典道。
      ふたたびその首がテレビに向こうとすると、典道の
       母の大根がその後頭部を狙っている。
       にらみあう一瞬の間。
       典道の母の一撃を警戒しながら居間を出て行く典道。
240なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:33:53 ID:8qn2ozOz
5 典道の家の店先
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       典道の家は釣具店である。
       典道の父がはたきをかけている。
       典道があがり口で靴をはく。
 典 道「(ひとり言)なんで花火大会の日にガッコ行かなきゃな
     んねーんだよ」
 父  「おめえはまだいいよ」
 典 道「なんで?」
 母の声「あんた学校何時に終わるの?」
 典 道「え? 昼頃だろ」
 母の声「今日おかあさんたちいないからね」
 典 道「(父に)PTA?」
241なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:35:10 ID:8qn2ozOz
      しかめっつらしてうなずく父。
 父  「ガラクタ集めてバザーやるんだってよ」
 典 道「今日?」
       うなずく父。
 典 道「どこで?」
 父  「公民館で」
 典 道「……誰が来んの? そんなの。こんな日に」
 父  「だろー?」
       母がのぞきこむ。
       あわててはたきをたたき始める父。
       飛び出す典道。
242なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:38:25 ID:8qn2ozOz
6 店の外
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       純一と稔にでくわす典道。
 純一「おぉ!」
       足ぶみする典道。
 典 道「よーい、スタート!」
       ダッシュする三人。

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7 店の中
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 母  「おとうさん」
 父  「え?」
 母  「やなの?」
       首をふる父。
243なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:41:45 ID:8qn2ozOz
8 祐介の家(病院)の前
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       入り口のベンチで病院が開くのを待っている三人組
       のおばあさんと話し込んでいる和弘。
 祐 介「へー。お孫さん夫婦が来てるんッスか。そいつはにぎや
     かっスね」
       ドアから祐介が出てくる。
       ふりかえる和弘。
 和 弘「あ、それじゃ、みなさんお大事に」
       一礼して祐介と歩き出す和弘。
       手をふるおばあさんたち。
       それを見ながら祐介、
 祐 介「おまえ、何しゃべってたの?」
 和 弘「何って、世間話だよ」
 祐 介「あーいうタイプが好きなの?」
 和 弘「え? なにが」
244なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:42:33 ID:8qn2ozOz
9 なずなの家・玄関
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       薄暗い玄関と廊下。
       靴をはいているなずな。
       背後からなずなの母の声。
 なずなの母「なずな」
       びくっとするなずな。
       しかしふりかえらずに靴を履き続ける。
 なずなの母「これ三浦先生に渡しといてね」
       その声はかなり耳元で聞こえる。
       ふりかえるなずな。
       居間に消える母の後ろ姿が一瞬かいま見える。
245なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:46:21 ID:8qn2ozOz
      自分の後ろに一通の封筒が置いてある。
       ・三浦先生へ・
       封筒を手に取って立ち上がるなずな。
 なずな「……何よ、これ!」
       返事がない。
 なずな「なんの手紙?」
 なずなの母の声「いいから先生に渡せばいいのよ!」
       少しヒステリックな母の声。
       唇をかみながら手紙を強くにぎりしめるなずな。
246なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:47:43 ID:8qn2ozOz
10 学校・グランド
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       グランドは登校してくる子供たちであふれている。
       半ズボンをまくりあげ日焼けの境界線をくらべっこ
       している子供たち。
 子供A「皮膚パンツ!」
 子供B「しりパンツ!」
       ふりかえるともう一人が全部おろして、尻をふって
       いる。
 子供D「われめパンツ〜!」
       その子供Dをいきなりけとばして通り過ぎる麗華。
       威風堂々と歩く大きな体は他を圧倒する。
       校門に飛び込んで来る典道たち。
       祐介・和弘と合流してストリートファイターの真似
       事をする。
       三浦先生が自転車で通過する。
247なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:48:23 ID:8qn2ozOz
 三浦先生「おはよー」
       稔が走って先生の後に飛び乗る。
 三浦先生「バカ! こら! やめなさい!」
       転びそうになりながら自転車をこぐ三浦先生。
       稔が脱落すると今度は純一が飛び乗る。
       純一はしばしば高校生に間違われるほどでかい。
 和 弘「あーゆうカタチでしか愛情表現できねーんだよ」
       自転車から飛び降りて純一が戻って来る。
       両手をかざして得意げに、
 純 一「もんだぜ」
       ため息をつく祐介・和弘。
 典 道「お前がやるとシャレになんないよ」
       女の子の一群が『ひさしぶりー』という声をかけあっている。
248なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:49:57 ID:8qn2ozOz
11 下駄箱
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       上履きを履いている子供たち。
 女子A「今日花火大会どうする?」
 女子B「ウチ、親戚が来てるのよ」

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12 廊下
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       廊下を走る子供達。
       鐘が鳴る。
249なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:50:45 ID:8qn2ozOz
13 六年二組の教室
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       鐘が続いている。
       教室に入ってくる子供たち。
       祐介が典道のところにやってきてひそひそ話をする。
 祐 介「典道典道」
 典 道「ん?」
 祐 介「おとというちの病院になずなが来たぜ」
 典 道「うそ」
 祐 介「もー、これだぜ」
       自分のシャツをまくって胸を出して、聴診器をあて
       るまねをする祐介。
 典 道「見たのかよ」
 祐 介「見れるわけねーだろ!」
       なずなが教室に入ってくる。
       はっとする二人。
       席につくなずなを見守る二人。
250なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:51:26 ID:8qn2ozOz
祐 介「なあ、典道。告白していい?」
 典 道「だからすりゃいいって言ってるじゃん。一億年前から」
       和弘がやってきて、
 和 弘「今日、行くだろ?」
 典 道「花火?」
       稔が飛び込んできて、
 稔  「ババーン!」
       そのまま稔、和弘にケリを入れる。
       息ができなくなる和弘。
 稔  「あんなのガキの行くもんだぜ」
 純 一「おめえはいつから大人になったんだよ」
251なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:52:49 ID:8qn2ozOz
       うしろから純一が稔をはがいじめにする。
       祐介が稔のズボンに手をつっこんで、
 祐 介「なんだよ。まだムケてねーじゃねーかよ」
 稔  「イテイテイテイテ!」
       稔、仲間の攻撃をふりきって、机の上に逃げる。
       麗華の机である。
       一瞬ぎょっとする稔。
       間髪いれず麗華のチョップが稔のすねをねらう。
       ジャンプしてその一撃をかわす稔。
 典道たち「ナイス!」
       けっそうかいて机から飛び降り、典道たちの輪に飛
       び込む稔。
       にらみつける麗華。
 純 一「すみませーん」
       二回目の鐘が鳴る。
252なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:54:42 ID:8qn2ozOz
14 グランド
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       二、三人の児童があわてて教室に駆け込む。
       ひとりの少年が遅れてグランドに飛び込んで来る。
       朝、一番乗したはずの幹夫である。
       幹夫、肩を落としながら校舎に向かって走る。
       走りながらつぶれたドッヂボールをふたたびけとばす。
253なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:56:58 ID:8qn2ozOz
15 六年二組
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       暗幕に閉ざされて暗い教室。
       アルコールランプでマグネシウムの棒を熱する三浦
       先生。
       教壇にかぶりついている子供たちの顔をマグネシウ
       ムの光が照らす。
       次に銅を使う。グリーンの光が子供たちを照らす。
       ちらっとなずなを見る典道。
       うつむいて手首のプロミスリングをいじっているな
       ずな。
       その横顔に見とれる典道。
 三浦先生「きれいでしょ」
       はっとする典道。
       先生は緑色の炎を見つめている。
254なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:57:45 ID:8qn2ozOz
      暗幕を開ける三浦先生。
 三浦先生「物質によって燃える色が違うわけ。マグネシウムも銅
     もイオウもそれぞれに決まった色で発光するのね。これ
     を……」
 和 弘「炎色反応」
 三浦先生「そう。よく知ってるわね」
       ちょっと得意げな和弘。
       黒板に・炎色反応・と書く三浦先生。
 三浦先生「この炎色反応が花火にも応用されているわけ。花火に
      どうしていろんな色があるかわかった?」
 一 同「はーい」
 三浦先生「今日は飯岡町の花火大会です。みんな行くと思うけど
     花火を見たらこれを思い出してみてね。青はマグネシウ
     ム、緑は銅、オレンジはナトリウムって考えながら見て
     るときっとおもしろいわよ」
255なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 03:59:30 ID:8qn2ozOz
      うなずく和弘。
       ・花火大会の心構え・なるプリントを配る三浦先生。
 三浦先生「花火大会にはいろんな人が来ます。飯岡の人ばかりで
     はありません。他の町からもたくさん来ます。へんな人
     にからまれたり、誘われたりしないように気をつけなけ
     ればいけませんから、みんなこのプリントをよく読んで
     楽しい花火大会を過ごしてください」
 純 一「せんせー」
 三浦先生「はい?」
 純 一「花火大会に行かない人は読まなくていいんですか?」
 三浦先生「林君は行かないの?」
 純 一「どうしよーかなー。今日巨人ヤクルト戦だからな」
       笑。
 三浦先生「一応目は通しておきなさい」
           ×    ×    ×
       教室で掃除が始まる。
       ほうきで野球の真似をしている純一たち。
       ぞうきんのボールをジャストミートした純一の尻を
       モップでジャストミートする麗華。
256なずな ◆mdZlKXXcGs :05/01/22 04:00:25 ID:8qn2ozOz
16 階段
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       授業を終えて職員室に戻ろうとする三浦先生。
       他のクラスで「さようなら」の声。
       なずなが三浦先生を追いかけてくる。
 なずな「せんせー」
       ふりかえる三浦先生。
 なずな「あの、これ」
       手紙を渡すなずな。
       先生が受け取ると、一気に階段を駆け降りるなずな。
       階段の上から授業を終えた低学年が元気に駆け降り
       てくる。
       その後から栗田先生が降りてくる。
       手紙を見ている三浦先生に声をかける。
 栗田先生「ラブレターっすか? 三浦先生」
       びっくりしてふりかえる三浦先生。