NO4・古き「名作」「いい映画」観たい時は俺に聞け

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126名画紹介 七五調 29
「灰とダイヤモンド」

 終戦直後のポーランド 国は戦争(いくさ)で荒れ果てて 不穏な空気が渦巻き、淀(よど)む
 左右の陣営、激突し いまだ平和は訪れず 町外れの教会で 労働党の要人の
 命を狙う暗殺者 サングラスの青年、マチェク 機関銃で車を襲い
 二人の男を蜂の巣に ところが相手は人違い あわれ犠牲は罪なき市民

 すべては祖国と人民のため 目的遂げねば後には引けぬ 真の標的、党書記・シチェカ
 彼のホテルを突き止めて 息を潜めて、時期(とき)を待ち マチェクは酒場で疲れを癒(いや)す
 ホテルのバーで働く女 クリシャは戦禍で両親、亡(な)くし 故郷のワルシャワ、後にして
 心に傷持ち、孤独に暮らす マチェクは彼女に好意を寄せて ウオツカで顔を火照らせながら
 クリシャを口説き、部屋へと誘う 明日をも知れぬその命 短き一夜を彼女と過ごす

 二人で歩く廃墟の市街 偶然立ち寄る葬儀屋で マチェクは棺(ひつぎ)の死体を眼にす
 おのれが殺(あや)めた、名も無き市民 悔恨、初めてマチェクに芽生え 組織と理想と現実と
 脳裏に想いが去来して 殺伐としたこの地を離れ クリシャと暮らす夢を見る

 思い悩んだテロリスト 同士に離脱を告白するが マチェクは冷たく突き放される
 たかが色恋、女のことで 大儀を捨てるは許されぬ 平和な世ならば大学で
 勉学、励む頃なれど 憂国・闘士の茨(いばら)の道は いまさら出来ぬ、後戻り
 一夜の契りは幻(まぼろし)か マチェクはクリシャに別れを告げて 書記へのテロルを決意する

 我が子の行方を追うシチェカ 息子はわずか十七歳 されど反抗勢力の
 仲間に入り、逮捕の報せ 政党・書記とて人の親 父の気持ちは揺れ動く
 シチェカは急ぐ、夜の街 ついに巡った、そのときが この機を逃せば後はなし
 マチェクは書記の後を追う 時代のうねりと運命が 二人の男を近づける

 マチェクはシチェカを追い抜いて 振り向きざまに銃を撃つ シチェカは悲痛な叫びを上げて
 マチェクの身体(からだ)にしがみつく そのとき、夜空に花火が揚がり 瓦礫(がれき)の街を照らし出す
 闇夜に轟く、音響は 逝った書記への葬送曲か マチェクは見上げる、虚空の花を

 翌朝、マチェクは駅へと急ぐ 逃亡途中で、官憲に 路上でぶつかり、あわてて走る
 官憲、マチェクに発砲し 銃弾、身体(からだ)を貫いて マチェクは逃げ込む洗濯場
 白いシーツに血が滲(にじ)み 真赤に染まる手のひらの その血は饐(す)えた死の匂い
 荒涼と広がるゴミ溜めに マチェクは倒れ、うずくまる そして苦痛に身をもだえ
 汚物にまみれて息絶える 祖国の焦土の灰の中 ダイヤモンドは無かりしか

 マチェクを好演、チブルスキー 戦後の動乱、背景に 廃墟と化した母国の土地で
 おのれの思想と感情に 苦しみもがく青年を 東欧映画の俊英が 哀感込めて描ききる
 アンジェイ・ワイダ監督の 心に沁(し)みる鮮烈画像 空しさの後に感動が 静かに胸に迫り来る