70 :
('A`):
総重量30キロォ!!!?
小学生1人分じゃねぇか………ッッ
ガチャ… ギシ…
かつて キックボクシングの名伯楽 黒崎健時氏が言った言葉――――――
「男とは愛する女を背負い2千mは知れる者のことを言う」……………って
そんなもん
コポ…
そっちの方がぜんぜん楽じゃん―――――!!
嗚呼〜〜〜ウマイ〜〜〜ッッ ゴキュッ
ぬるい水がこんなにオイシイものとは…… と………ッ止められない!!
ガコッ
「な〜〜〜に考えてんだてめェは」
班長・2等陸曹 加藤清澄「明日まで水の補給はねェんだ 今飲み干したら死んじまうんぞ コラァ」
「少しは考えろバ〜カがァッ」
死ぬって……………んな大げさな………
しかし それがちっとも大ゲサではないことを―――― あとで"嫌"という程思い知らされることになろうとは………………
「休け〜〜〜〜い!!!」
「………」
50分歩いて10分休憩 3度の食事を除いてこれを延々と繰り返す――
100キロを終えるまで延々と………………
なにしてんだ班長………休憩だというのに弾帯(ベルト)なんか外して
靴ヒモを緩めてる……
アララ 鉄帽(テッパチ)まで脱いじゃって………
足を岩になんか乗せて………めんどくせェことだぜ たったの10分しかない休憩だというのに………
なんだよ 皆もかよ………
へ……ッ
付き合ってらんねェよ この人達のやることは……………
「出発2分前ッッッ」
ホラホラ言わないこっちゃない
俺のようにギリギリまで寝てられない
ジー カポッ
「出ぱァ―――ツ!!!」
「オッ…と 起きなきゃ………」
い…ッッ 激痛(いた)い!!!
膝や踝が まるで棒を突っ込まれたようだ………
体中の関節が………………ギシギシとまるで………
「早く行けよオラァ」「ア…はい」
平気なのかよこいつら……
たとえ休憩時間を削ってでも一たんは体を開放してやる…
それをするのとしないのとでは回復度に比較にならないほど大きな差が出る この基本中の基本をボクが知ったのはそれから一年先であった
そういえば――――――歩き始めてからぜんぜん景色が変化(かわ)ってない……
そりゃそうだ
富士山一週 だもの!!!
ザァー ザク グチャ ザク ザク
〜〜〜〜ッッ
ンみ……ッッ
水を飲みたい……ッッ ハァハァ
………
ぜんぜん入ってこない………ッッッ
舌ベロから蒸発する水分のほうが多いくらいだ
「板垣………」
「おめェの水筒………………………もう空だろ」
「俺はまだ一度も手ェつけてねェ」
ウソだ………!!!
もう10時間以上歩いていて一滴も水を飲まないなんて
「水筒に手ェつけるのは最後の最後」
「それまではこれでしのぐんだ」
「ポッカレモンの原液だ こいつを少ォ〜〜しずつ舐めながら渇きを癒やすんだ」
の……飲みたいッッ 一本丸ごと!!!
人が本当にノドが渇いた時――――――――――― たとえポッカレモンの原液でもガブ飲みできることをこの時知った――――――――
71 :
('A`):2012/02/19(日) 00:43:15.20 0
2日目
いったい――――――
今 何日なんだ……………!?
あと何日残ってるんだ!?
「オラァ 遅れるなッつッてんだろッッ」
「つ……ついまつェん」
「ハハハ………………さしすせそが言いづらくなりゃノドの渇きもホンモノだな」
人が更にノドが渇くとサ行の発音が難しくなること―――――――――初めて知った
坂………
もう何度目の坂だろう―――――
ハンパな坂など一つもない 角度はどのくらい………
知るかよ そんなこと!!!
ただ―――
目の前にずっと カカトが見えていたことだけ憶えてる
ハァハァ ゴォ〜
飛行機か…………
あの中で乗客たちは美しいスチュワーデスにウマい料理を配られ シャンパンのサービスを受け――――
眠けりゃ眠り………………… 起きたけりゃ起き―――――
よもや1万m下の山の中でゴミのような俺が地ベタに横たわり―――――― 自分たちを見上げていることなど………
夢にも想……
3日目
数日前
尊敬してやまない大人物―――― 今 東光大僧正が亡くなった
和尚の生き方にどんなに影響を受けたことか――――――
もし今―――目の前に神様が現れて
板垣よ この行軍はいつでもやめることができる だがもし100キロを完全に歩き通したのなら―――
おまえの敬愛する今 東光を生き返らせてあげよう だが途中でやめるのなら生き返らせることはかなわぬ
さァ どうするかね?
和尚――――――
俺 もう――――― 歩きたく ありません
「到着ー!!!」
全身を包む安堵感――
なにかを得たという思いもなければ
"達成したんだ"という喜びもなかったことは意外だった―――――
「オメデトさん 半人前になれたぜ」
しかし現在(いま)に至るまでの過去20年を振り返るに―――――――
この3日間がいかに多くを僕へもたらせてくれたのかを幾度も実感した