昨年8月、小沢は細川連立政権時代に、たもとを分かった元官房長官の武村正義と東京駅前のホテルでフランス料理をともにした。
「なぜ殿様(細川護煕元首相)は、8カ月で辞めちゃったんだろうか」
ワインを口にしながらたずねる小沢に、武村は「よくわかりません」と答えただけだった。
武村と会食した小沢の狙いは、首相官邸で細川の傍らにいた武村から、細川の真意を探りたかったのだと小沢の周辺はいう。
「当初予算を2回組めば政権は安定する」「3年間政権を維持すれば自民党と官僚内閣制はつぶれる」…。
小沢は、新政権を安定軌道に乗せるための持論を周囲に漏らしてきた。自民党単独政権に終止符を打たせた細川連立政権が
短命に終わった教訓を、迫る「大勝負」に生かしたい小沢の思いが見て取れる。
もっとも側近議員は、「小沢は政権の枠組みについてフリーハンドを握っていたいようだ」と語る。党内には「民主党が
選挙に強い小沢氏の『顔』を使い、小沢氏が民主党の『数』を利用している関係だ」(中堅)という声も漏れる。
周辺は、小沢の戦略をレーニンの「2段階革命論」とダブらせる。「小沢は次期衆院選での政権交代を第1段階とし、
想定される来年夏の参院選と衆院選とのダブル選後を第2段階と考えているのではないか」
自民党解体を究極の政治課題とする小沢には、「民主党政権も踏み台でしかない」(民主党中堅)のかもしれない。
「大蔵(財務省)も目ざといな。おれのところによく来るようになった」
小沢は昨年12月、広島市内で地元の連合幹部と懇談した際に、上機嫌でこう語った。財務省だけではない。
経済産業、外務両省など霞が関がここにきて民主党幹部への接近を強め「政権交代シフト」を敷きつつある。
霞が関では、100人以上の議員を政府に送り込むショック療法で政治主導の確立を唱える「小沢政権」への警戒とともに
「民主党はくみしやすい」との声も漏れる。若手・中堅は政策の理解度が高いだけに、役人と融和する「『新・族議員』が増えるはず」
と財務省関係者はささやく。
「小沢さんは私に好きなポストを選べと言ってくれている」
党内に即戦力が乏しいのも事実だ。東海地方選出の幹部は最近、地元支持者との会合でこう語っているという。
政権交代前夜のムードに酔って浮足立っている議員も少なくない。
小沢は主要閣僚に民間人を多用し、衆院解散直後に閣僚名簿をサプライズ公表する構想を温めている。
党幹部は「民間人の経済閣僚候補の1人は昨秋から内諾を得ている」と明かす。