【民主党解剖】第1部 政権のかたち(1)「小沢首相」は大丈夫か
2月上旬、都内で開かれた民主党議員と支持者による会合。党代表、小沢一郎が発した言葉に会場は一瞬凍りついた。
「拉致問題は北朝鮮に何を言っても解決しない。カネをいっぱい持っていき、『何人かください』って言うしかないだろ」
日本人の人権と日本の主権を蹂躙(じゅうりん)した北朝鮮の犯罪をカネで決着させる−。あまりにもドライな小沢発言は、
当然のごとく、箝口(かんこう)令が敷かれた。
外交・安全保障をめぐる小沢の「危うさ」が露呈し始めている。
2月24日、記者団に「米海軍第7艦隊で米国の極東の存在は十分だ」と語り、波紋を広げた。「対等の日米同盟」を土台に、
日本の防衛力増強を志向すると受け取れる発言の真意を、側近は「安保論議を活性化させようとして投じた一石だ」と代弁する。
だが、党内にも「先を見据えない、浅はかな言葉だ」(幹部)との批判が出ている。
「民主党に国民は不安も抱いている」。1月18日、民主党大会で国民新党代表、綿貫民輔はこう指摘した。
民主党が政権に王手をかけたいま、小沢が唐突に繰り出す持論は、野党の足並みも乱している。
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小沢はどんな「政権のかたち」を描いているのか。
麻生内閣の支持率が超低空飛行を続ける中、次期衆院選で民主党が単独過半数(241)を獲得するとの観測が強まっているが、
小沢は単独政権を選択できない。参院の過半数(122)まで届かず、統一会派を組む国民新党、新党日本のほか、
社民党や無所属議員との協力が、少なくとも来年夏の参院選までは不可欠だからだ。
「どれだけ民主党が次期衆院選で勝っても、国民新党や社民党と連立しないと自民党にやられるぞ」
2月20日、小沢は都内の個人事務所を訪ねてきた国民新党代表代行、亀井静香にこう助言され「分かっている」とうなずいた。
野党3党による連立の政権公約策定についても、小沢は「選挙がもう少し近づいてからだ」と答えた。
しかし、連立政権の行く手は容易ではない。とりわけ社民党とは憲法や安保などの基本政策をめぐる溝が深い。
社民党がソマリア沖への自衛艦派遣に反対したため、民主党が態度を決めきれないのが好例だ。「旧社会党の右派が抜けた
残党の社民党はよりたちが悪い」と民主党保守系議員は警戒する。
綿貫、亀井ら「うるさ型」が率いる国民新党も一筋縄ではいかない。
「来年の参院選で単独過半数をとれば、そこから本格的な民主党政治が始まる」。民主党副代表、岡田克也が2月23日の
講演でこう述べたのも、社民、国民新両党を牽制(けんせい)するためだった。