2・問題点についての検討
2−1 違反の成否
(1)法解釈上の問題
ア 「寄付をした者」とはどのような意味か
検察側の主張は、「寄付名義の政治団体は西松建設のダミーであり、本件の寄付について収支報告書に『寄付者』
として西松建設と記載しなければいけない、それを政治団体と記載したことが虚偽記入に当たる」というものと考えられるが、
検察の主張の重要な根拠とされているのが、寄付の資金の実質的な拠出者が西松建設だということだと思われる。
ここで問題になるのが、政治団体や政党が寄付を受けた場合に、会計責任者に政治資金収支報告書に記載することが義務づけられている
「寄付をした者」とはどのような意味なのか、ということである。寄付者として金銭の交付や振込など外形的な行為を行った者と
資金の拠出者が異なっている場合に、外形的行為者と資金の拠出者のいずれが「寄付をした者」に該当するのか。例えば、図(略)のように、
Aが自らの資金で政治団体Xに政治資金を提供しようと考えてBに現金を交付し、その資金で、Bが自己の名義の寄付として
政治団体Xの会計責任者に現金を手渡した場合、会計責任者が、Aが資金の拠出者だということを知っていた場合に、政治団体X
の収支報告書には、寄付者としてAを記載するべきなのか、Bを記載するべきなのか。この点について、資金の拠出者のAが
寄付者であるとするなら、本件についても「寄付をした者」は西松建設と記載すべきということになろう。この点は、本件に関する重要な解釈問題である。
同法上、「寄付」が、「金銭、物品その他の経済的利益の供与又は交付」(4条3項)と定義されていることからすると、
ここでの「供与」は「金銭や利益を得させること」、交付は「金銭等を渡すこと」を意味する。
それを前提にすると、寄付者として金銭の交付を行った者、つまり、図の事例で言えば、「供与者」であるかどうかは不明でも
「交付者」であることは明らかにBを「寄付をした者」として収支報告書に記載すべきだということになる。
すなわち、図の例で言えば、実質的にはA からXへの政治資金の「供与」であるが、形式的には、A からB、BからXの間で、
それぞれ金銭の「交付」が行われている。この場合、Xの立場としては、定義規定で「交付」も「寄付」に含まれる以上、
自分に金銭や利益を提供した直接の相手のBが「寄付者」として現金の「交付」を行っている以上、それがBの資金か
Aの資金かにはかかわりなく、その「交付」を「Bの寄付」として収支報告書に書けばよい。要するに、政治資金規正法で
「寄付した者」と言っているのは、形式的に寄付者と称して金銭等の移転をしてきた者であり、実質的に資金を拠出した者ではないということになる。