政策の大転換
インド洋での海上自衛隊による給油支援の根拠となる新テロ対策特別措置法や海賊対処法案、在沖縄米海兵隊のグアム移転をめぐる日米協定…。
民主党は政府の安保政策のほとんどすべてに反対してきた。
日米両政府が平成18年に合意した沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の名護市への移設に対しても、反対の立場だ。
民主党の「沖縄ビジョン」は飛行場の県外(海外)移転を主張しており、代表の鳩山由紀夫も5月16日の就任記者会見で
「その考え方を変えるつもりはない」と強調した。
この米国との“契約違反”ともいえる政策転換について、党内では当初、「次期衆院選のマニフェスト(政権公約)には盛り込まれないだろう。
『民主党がまた非現実的なことばかり言っている』と批判されるのがオチだ」(保守系議員)との見方が強かった。
だが、鳩山は5月26日の記者会見で「当然、望むは国外であると書き入れるのではないか」とマニフェスト盛り込みを示唆した。
また、インド洋での海自の給油活動についても、党「次の内閣」防衛担当の浅尾慶一郎は「2度にわたって国会で反対し、前代表(小沢)が
『憲法違反』とまで言ったものをそのまま継続させるのでは筋が通らない」と語り、政権交代後は実施しない考えを示す。
今月1日、民主党本部。米国務副長官のスタインバーグと会談した岡田は「日本は米国に対し、核兵器の先制不使用を働き掛けるべきだ」と
する持論を展開した。これに対し、スタインバーグはこう突き放したという。
「多くの国がドクトリン(宣言)で『先制不使用』というが、それはドクトリンでしかない」
難航する意思決定
保守系から旧社会党系まで混在する民主党で、最も党内の意見対立が先鋭化する分野が安保政策だ。このため、議論は避けられがちで、
意思決定が先送りされたり、そもそも議論の場がもたれなかったりということもしばしばだ。
「自衛隊の艦艇によるエスコートは、かなり効果がある」
ソマリア沖への自衛隊派遣は、昨年10月の臨時国会で党副幹事長の長島昭久がこう提案したのをきっかけに政府・与党が進めた。
ところが、民主党内で議論が本格化したのは4カ月後の今年2月に入ってから。
党の方針が、政府の海賊対処法案に対する修正案としてまとまったのは、政府案の衆院審議が始まった4月14日当日のことだった。
安保上の最重要課題である対北朝鮮政策をめぐっても、党内は割れている。
4月1日の党外交・防衛部門会議役員会。党拉致対策本部(本部長・常任幹事会議長の中井洽)は、北朝鮮による弾道ミサイル発射の兆候を受け、
対北制裁の強化を打ち出すことを求めた。
だが、5月25日の北朝鮮の核実験を経た今も部門会議での結論は出ていない。中井は28日付の自身のブログで不満をあらわにした。
「党内には朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)とお付き合いのある議員や北朝鮮に妙に肩入れする議員もいることは承知している。
それは自民党でも同じことで気にもしていないが…」
民主党は外交・安保政策とどう向き合うのか。政権担当能力がまさしく問われている。(敬称略)