代表“更迭”の歴史
民主党は、日本労働組合総連合会(連合)以外に有力な支援組織を持っていない。これまで、手間暇かかる組織育成を後回しにし、
手っ取り早く世論の風の受け皿となる「党の顔」、つまり代表のイメージに頼ってきた経緯がある。
実際、代表の人気に陰りが出ると、直ちに党内から引きずり降ろすという歴史を繰り返してきた。代表代行の菅直人は過去に、
女性問題(平成11年)と年金問題(16年)で代表を追い落とされた。幹事長の鳩山由紀夫は役員人事に対する党内の反発(14年)、
副代表の前原誠司も偽メール問題(18年)で代表辞任を余儀なくされた。
それでも、今回はまだ本格的な「小沢降ろし」は始まっていない。背景には、政権交代を目前にして党内政局が先鋭化すれば、
「やはり民主党はバラバラだ」と世論の失望を招くことへの危惧(きぐ)がある。小沢率いる自由党が15年、民主党に合流後、
党の支持層が「中高年や保守層に広がった」(選対幹部)ことも、動きを鈍らせる要因となっている。
「これまで民主党が繰り返してきたように、代表をすげ替えて事態が好転すると思っているのか」
一向に収まらない辞任論にたまりかねた副代表、石井一(はじめ)は4月28日、「ポスト小沢」の筆頭格である副代表、
岡田克也と参院議員会館で会い、強い口調で問いただした。
代表を支えるべきだという石井の「正論」に、岡田はとりあえず「それはよく分かっています。当面、小沢を支えます」と答えるほかはなかった。
死活情報を独占
小沢は3月31日の記者会見で、4月中に次期衆院選情勢を調べるため、党独自の世論調査を実施する考えを表明した。
実施時期はその後2回にわたり延期され、結局は5月中旬以降になるとみられている。
小沢はこのとき、調査結果と自身の進退問題を絡めないことも付け加えた。選対委員長の赤松広隆にも「選挙のための世論調査だ」と
クギを刺しており、慎重に予防線を張っているのがうかがえる。
党関係者によると、世論調査は年齢、性別、職業別の支持状況、候補の好悪、前回選挙の投票先など、1選挙区当たり約50ページに
及ぶ資料になる。これに最終的に小沢本人、選対スタッフらの情報を総合的に判断して結論を出すといい、
「19年の参院選は、ほぼ調査結果通りだった」というほど信頼性は高い。
ただ、この世論調査は党費で実施されてきたにもかかわらず、その結果は、所属議員にも公表されていない。
小沢とごく少数の選対スタッフで情報を囲い込み、鳩山にすら知らされないこともある。所属議員の死活を握る情報を独占することで、
小沢は党内支配体制を固めてきたといえる。
「世論調査をやるとすれば、いつやるのか。開示はどうするのか」
4月7日に党本部で開かれた常任幹事会。政調会長代理の長妻昭の一言で、出席者の視線は正面に座る小沢に集中した。
目を閉じたまま答えない小沢を横目に、鳩山がしどろもどろで説明していたという。出席者の一人は「『長妻、よく言った』という感じだった」
と振り返るが、各議員が腫れ物に触るように小沢に接している現状もうかがえる。