死活情報を独占
小沢は3月31日の記者会見で、4月中に次期衆院選情勢を調べるため、党独自の世論調査を実施する考えを表明した。
実施時期はその後2回にわたり延期され、結局は5月中旬以降になるとみられている。
小沢はこのとき、調査結果と自身の進退問題を絡めないことも付け加えた。選対委員長の赤松広隆にも「選挙のための世論調査だ」と
クギを刺しており、慎重に予防線を張っているのがうかがえる。
党関係者によると、世論調査は年齢、性別、職業別の支持状況、候補の好悪、前回選挙の投票先など、1選挙区当たり約50ページに及ぶ資料になる。
これに最終的に小沢本人、選対スタッフらの情報を総合的に判断して結論を出すといい、「19年の参院選は、ほぼ調査結果通りだった」
というほど信頼性は高い。
ただ、この世論調査は党費で実施されてきたにもかかわらず、その結果は、所属議員にも公表されていない。小沢とごく
少数の選対スタッフで情報を囲い込み、鳩山にすら知らされないこともある。所属議員の死活を握る情報を独占することで、
小沢は党内支配体制を固めてきたといえる。
「世論調査をやるとすれば、いつやるのか。開示はどうするのか」
4月7日に党本部で開かれた常任幹事会。政調会長代理の長妻昭の一言で、出席者の視線は正面に座る小沢に集中した。
目を閉じたまま答えない小沢を横目に、鳩山がしどろもどろで説明していたという。出席者の一人は「『長妻、よく言った』という感じだった」
と振り返るが、各議員が腫れ物に触るように小沢に接している現状もうかがえる。
ほころぶ「頼みの綱」
民主党の支持率はこれまで、国政選挙の直前に上昇してきた。10年に民政党、新党友愛などと合併した後は、
小泉旋風が吹き荒れた郵政選挙を除けば、計6回の選挙で、二大政党の一翼を担うまでに成長した。
特に、昨年9月に麻生太郎政権が発足してからは、首相自身の放言、失言を追い風に利用し、民主党は党勢を拡張してきた。
産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では、小沢の秘書逮捕の直前の2月下旬の調査では、
自民党支持率(21・9%)に比べ、民主党支持率(25・9%)は4ポイント上回っていた。だが、4月下旬の調査では、
民主党支持率(21・5%)は低落し、自民党支持率(29・2%)に水をあけられた。
党首の「顔」頼みの選挙戦略は、世論に見放されたときには完全に裏目に出る。これまで世論を味方にして麻生政権に攻勢を強めていた民主党が、
今では世論に見放されかねないという危機感にもがいている。
「世論の風向きに右往左往する『民主党病』が蔓延(まんえん)している。下積みを経験している議員が少ないので、
もっともらしい理屈はうまいが、腹が据わっていない。常に目立っていないと不安になる」
ある幹部は「党の泣きどころだ」としてこう嘆く。自民党に比べ支持組織が限定されているため、世論の風に頼らざるを得ないが、
政権交代を目前にして、その「頼みの綱」がほころびを見せ始めた。立ちすくむ民主党の姿は、政党としての未熟さを際立たせている。(敬称略)
◇
続投に意欲を示す小沢一郎代表に、自発的辞任を期待していた民主党議員らはいら立ちを隠さなくなってきたが、表立った動きは鈍い。
世論調査に表れた厳しい数字に浮足立つ民主党と、孤独の影を深める小沢氏はどこへ向かうのか。第三部では、世論の風に流されがちな党の基本軸を探る。