…………っッ!?
ついウトウトと釘を打ってしまっていた。どうも、昔話は眠くなってしまう。
国や戦士団の興亡にならば、学ぶべきことも多いからという意識のお陰で身を入れていられるのだが。
一人の凡人の半生に、そうそう価値ある教訓が見出せるとは思わない。
それが得られるほどの濃密な生を重ねること、それは永く永く語り継がれる有史以来の英雄にだけ与えられた蜜月だ。
とはいえ、この男がこれだけ長く話し続けるのは10年来の付き合いの中でも記憶にない。
どうしても俺に伝えておきたいのだろう、あの若い魔術師との因縁を。
俺は友として、その声が紡ぐ昔話を洩らさず聴き続け、理解してやらなければならない。
それが彼の、願いなのだから。
当のノガレはいつもの酒宴と何ら変わりなく、少し赤くした頬の上に丸い瞳を据わらせて酒を味わっている。
俺の視線に気付いたのか、彼の口が酒を泳がせるのを止めた。