しかしドアの前に立っていたのはキモ男でも、ブサ男でもなく、なぜかイケメンが立っていた。
喪一郎は驚きを隠せず、
「な、何か御用ですか?」
かろうじてどもりながら聞いた。イケメンは口の端を歪ませながら、
「ああ、お前らに話があってさ」
と言った。喪一郎の背中にゾクッとした感覚が走った。悪いことをしているのがバレたような、
背筋の寒くなる感覚。
「じゃ、じゃあとりあえずどうぞ」
「いや、ここでいい。話はすぐ済む」
「えっと、何の話なんですか?」
「いや〜、オレ達も最初はそんな気なかったんだよ別に、うん」
「?」
何の話かまったくつかめない。それを見てとったのか、
「しょうがないから一から説明してやるよ、よく聞けよ」
「はい」
高飛車な態度は鼻につくがイケメンから見れば妥当な扱いなのだろう、と苛立ちをこらえて答える。
「オレ達暇だったから、お前らの相手の女見に行ったわけよ。どうせ不細工だろうし、
笑えるかなと思って。そしたらこれがかなり美人でさ、俺が思うにお前らには
もったいないぐらいだったから、オレ達がもらうことにした。そのほうが彼女達も
喜ぶだろうしさ。それでそういう風に政府のやつに話つけたら、お前ら殺しとけってさ」
一瞬、目の前が真っ暗になった。視界が戻ったとき、イケメンの右手には拳銃があった。
イケメンは動転した喪一郎を本当にうれしそうに見て、
「だから、お前らは最後の童貞って事で、オレらが処刑しに来た」
その言葉を聴き終わるか終わらないうちに喪一郎はイケメンに飛びかかった。
一歩で間合いに入ると、すばやく拳銃を叩き落し、蹴りこんだ。いくらイケメンとはいえ、
運動能力においては喪一郎のほうが数段上であった。
「何しやがるんだテメェ!」
とイケメンらしからぬセリフを吐いてイケメンは飛びのいた。蹴りはあまり効いていないらしい。
喪一郎は叩き落した拳銃を拾って再び一歩で距離を詰める。イケメンの顔が引きつる。
拳銃を握り締めたが、そのまま銃身で後頭部を殴り、気絶させた。
もう彼は人を殺したくはなかった。
倒れたイケメンはそのままにしておき、喪一郎はドアを細く開けて廊下を覗いた。
既にメンバーはイケメン達に襲われており、何人か倒れているのが見え、喪一郎は
血が逆流するような怒りに襲われた。怒りに任せて飛び出し、目が合ったブサ男に合図を送り、
イケメン達の足元に射撃を行う。当てる気はなく威嚇射撃である。
イケメン達はすぐに振り返り喪一郎に一斉に弾丸のアメを打ち込んできたが、既に喪一郎は飛びのいている――
――――その時、喪一郎の左腕に激痛が走った。肉がえぐられるような痛み。どうやら撃たれたらしい。
うずくまるようにして喪一郎が崩れ落ちたとき、銃撃がやんだ。狙い通りメンバーがイケメンを気絶させたのだ。
彼らもまた、襲われた敵であろうとなるだけ殺したくはなかった。
メンバーが駆け寄ってくる。しかし傷口を見た瞬間彼らの顔色が変わる。喪一郎はそれを穏やかな顔で
「大丈夫だ、十分戦える」
となだめると包帯で傷口を縛る。今は傷のことより、この後の行動を考えるべきだ。
激昂したブサ男が
「許せねぇ!政府のやつら裏切りやがったな!
こうなりゃこのイケメンも政府軍も全部殺して徹底抗戦だ!」
と吠える。他のメンバーも同じ気持ちらしく、うなずいているものもいる。
不意に喪一郎の頭にある光景が浮かんだ。それを考えるでもなく気づけば
「ひとつ、提案がある」
と言っていた。
「素直に殺されるのを待つ、って以外の方法なら聞いてもいいぜ、隊長さん」
ブサ男はもはや押さえきれないといった表情で喪一郎をにらんでくる。
「戦うのはもちろん俺も賛成だ。俺だってこのまま殺されるのはバカらしい
でも、ここじゃなくて、すぐそこの童貞同盟本部で戦うってのはどうだ?」
「童貞連合本部?そりゃあそこは広いから戦いやすいが、移動のリスクとか
考えたら明らかにマイナスな所だぞ?なんで行く必要があるんだ」
「隊長が言ってるのはそういう話じゃない」
キモ男がにんまりとした表情で話しだす。
「確かにそこまでの移動にはリスクがある、でもそういうのは二の次だ。
俺達がこのままここで戦えばそれは単に反乱部隊の鎮圧で済まされる。
だが俺達が童貞連合本部で戦うなら、最後の童貞として戦うことになる。
どうせ戦うなら、反乱部隊『D-メン』としてじゃなくて、いち童貞として戦おう!ってことだ。
そうだろ隊長?」
「その通りだ。一度裏切った奴等が何を言ってるんだ、と他人は思うかもしれないが、戦うのはオレ達本人だ。
偽善だろうと言われようが関係ない、俺達は最後に童貞同志達の敵討ちとして戦おうって事だ!」
作者一人で盛り上がってる気がしますがあと少しで終わりますので許してください
>>141-143 (・∀・)イイヨイイヨー!
>>モーディンの中の人
長編おつかれ様でした。正直、感動して最終回では涙も出た。GJ!!
145 :
('A`):04/08/08 00:24
146 :
('A`):04/08/08 23:06
童貞だってヒーローになれるんだよ!
147 :
('A`):04/08/08 23:20
夢の中だけな
先ほどの奇襲で半減してしまった『D-メン』のメンバーを見渡して、喪一郎は続ける。
「だから、この瞬間をもってオレ達『D-メン』は解散する。これから先は個人の自由だ。
俺達と最後まで戦うのもいいし、逃げるのもいい。投降する奴がいるのならそれもいい。
・・・・・まぁどうしたにしろ、長くは生きられないだろうけどな」
メンバー達が戦うことを選んだのは言うまでもない。誇りをもって死ねるのは、その道しかなかった。
とりあえずメンバーに武装をさせ、喪一郎は階下の様子をうかがいに行った。
見たところ、政府の他の連中は来ていないようだ。これならまだ間に合う、そう確信した彼はすぐに部屋に戻り、
自らも身支度を始めた。左腕がうまく動かない。脳から送る指示に従ってくれない。
止血のためにきつく縛ったせいなのか、それともそれだけ傷が深いのか。どちらにしろ、あまりいい状態じゃない。
左手の拳を握るよう指示を送る。反応は遅かったが、どうやらまだ動くようだ。安心して喪一郎は身支度を続けた。
最後に無意識に覆面をつけようとしたが、それを投げ捨てた。もう、覆面なんかする必要はない。イケメンの手先としてではなく、
童貞として戦うのだから。最後に自動小銃を取って、喪一郎は部屋を後にした。
廊下に出ると、すぐにキモ男が声をかけてきた。
「隊長、傷は大丈夫なのか?」
「『D-メン』は解散したんだ。俺は、隊長じゃない。ただの童貞の喪一郎だ」
「そんな揚げ足取りが出来るなら心配はいらないな。急いだほうがいい、行こう。」
「よし」
「それと、こいつらだが・・・」
キモ男が床に伸びているイケメン達を指して言う。
「そいつらは殺さずに置いて行こう。気絶したままで殺すんじゃ、こいつらに苦しみが
与えられない。こいつらには"童貞"にやられてもらう。」
「案外残虐なんだな」
「こいつらには苦しんでもらわなきゃ俺の気がすまない。こいつらのわがままでオレ達が追い込まれたんだからな」
「ああ、それと移動手段はどうする?」
「車がいい、ここの職員達には悪いがちょっと拝借しよう。3台ぐらいあればいいんじゃないか」
再度階下へ降りる。職員達は物々しい喪一郎たちの格好を見て何事かと驚いている。
その中で手近な職員に近づき銃を突きつける。
「車のキーを貸せ」
「あ、あ・・・」
動転してガタガタ震えながらも職員はキーをポケットから取り出した。それをもぎ取って、
「よし、行け」
背中を押して離れさせる。職員は大急ぎで走っていった。同時にブサ男達が同じように2台手に入れ、それを持って駐車場へと走る。
適当に分乗させ、喪一郎とキモ男、ブサ男はそれぞれ別の車に乗った。3台ともエンジンをかけ、走り出す。
キモ男、ブサ男、喪一郎の順で並び、『イケメン宮殿』から出た。童貞同盟本部跡までは10分ほどの道のりだ。
大通りへと出ると、後ろで赤色灯がちらついたのが見えた。童排庁の特殊車両だ。ぐんぐんスピードを上げ、迫ってくる。
先頭を走るキモ男の車が突如ハザードを点灯させた。同時に運転席から手が出てきて、前を指す。
どうやら先に行けということらしい。喪一郎は一瞬ためらったが、ブサ男の車が前に出ようとしているのを見て、
「よし、キモ男の車を抜いて先に行こう」
と車内の仲間に声をかけた。追い抜く瞬間に車内を見ると、運転しているのはキモ男だった。
「(まさかあいつ死ぬつもりじゃ―――――。)」
タイヤの鳴く音が聞こえ、振り返ると一瞬逆を向いているキモ男の車が見えたが、喪一郎の車が路地に入り
すぐに見えなくなってしまった。
キモ男にはひとつの考えがあった。それは彼の童貞狩りの前に就いていた職業を知っているなら容易に想像がつくことである。
彼の職業は、カースタントマンだった。運動能力は高いが顔を見せられない、キモ男らしい職業である。
即座にハザードを点灯させ、先に行け、と合図を送る。
ブサ男の車と喪一郎の車が追い抜いていく。追い抜く瞬間に目が合った喪一郎の目は、彼の身を案じているようだった。
キモ男はそれだけで満足だった。長い間、彼を心配してくれる人などいなかったのだから。
それを見てキモ男の決心は揺るぎないものとなった。
―――――ここは、俺が時間を稼ぐ。
その決意を胸に、彼は車内の仲間達に声をかける。
「ちょっと派手に動くからな、重心低くして衝撃に備えてくれ!」
言うやいなや、サイドブレーキを引き、車を反転させる。バックミラーからも一郎たちの車のテールランプが消える。
どうやら路地に入ったらしい。キモ男はそれを確認すると同時に、アクセルを再び踏み込んだ。
ちょうど特殊車両と向かい合う形になった。相手は減速する気配もない。無論キモ男もアクセルを緩める気はなかった。
「ひいっ!」
後ろに乗っていた一人が恐ろしさのあまり声を上げる。それを聞いてキモ男は我に帰った。
こいつらをここで死なせるわけにいかない。すばやく車を真横に向かせて、停車させた。
あまりに突然の事で驚いたらしく、正面にいた特殊車両はかわそうとして歩道に突っ込んでいった。
乗っている人間は気絶しているようだ。それを見てキモ男は外に降り立ち、呆然としている仲間達に声をかける。
「お前らの中にも運転できるヤツはいるだろう、俺の代わりに運転して先に行ってくれ」
「副隊長、我々も一緒にここに残ります!」
「俺ももう副隊長じゃない、俺についてくる必要はないんだ。それより急いであっちへ行って、
迎撃の準備を整えるほうがいい。」
「では副隊長、一人一人の同志として俺達もここに残らせてください!」
「気持ちだけ受け取っておくよ、ありがとう。じゃあ行ってくれ」
そういってキモ男は喪男らしいぎこちない笑みを浮かべてドアを閉め、特殊車両へと走った。
表情をあらわにしないキモ男にしては、珍しいことだった。
キモ男が特殊車両にたどり着き、中の人間を引きずり出そうとするころ、やっと車は走り出し、去っていった。
キモ男はそれを横目で見ながら小さく
「これでいい」
と満足そうに呟いて、特殊車両に乗り込んだ。
何度もキーをまわすと、やっとエンジンが息を吹き返した。長くは持たないような気もするが、それで彼には十分だ。
ギヤをバックに入れて、車の向きを戻す。正面を向くと、再び赤色灯が見えた。今度は2台。
すぐさまキモ男はギヤを戻し、アクセルを踏み込んだ。併走している2台がぐんぐん近づいてくる。
キモ男はアドレナリンが吹き出てくるような感覚を味わいながら、さらに車を加速させた。
狙うは、2台の隙間。細心の注意を払いながら、しかしアクセルを緩めることなく迫っていく。
ぶつかる気はないのか、2台がよけようと隙間を拡げたその一瞬を逃さず、車を滑り込ませる。
と同時に、彼は猛然とハンドルを切り、フロントを右の車、リヤを左の車に叩きつけた。予想外の攻撃を受け、
2台はコントロールを失い横転し、その反動を受けてキモ男の車は1回転した。今や彼は満身創痍という形容がぴったりだった。
ヘルメットもシートベルトも無しに1回転したのだから当然と言えば当然である。それでもなお彼の意識は健在で、
二度とかかることはないであろうエンジンに対し必死でキーを回し、息をふき返させようとしていた。
「まだだ、まだこれじゃこの道路をふさぐことは出来ない!」
もはや彼はそのために辛うじて意識をつないでいたといっても過言ではない。
銃声が響く。彼の奪った車両から引きずり出された兵士が放ったものだ。その弾丸はキモ男の車に跳ね、甲高い音を上げた。
キモ男はその音を聞き、本能的に身を縮めながらなお、エンジンをかけようと躍起になっていた。
そこへもう1台、よけようと急ハンドルを切った車がコントロールを失いキモ男の車へと迫っていく―――――
―――――童排庁機動隊より本部へ、現在追走中の童貞の一名が特殊車両を奪って暴走、
3台と衝突したのち炎上、乗っていた童貞は死亡した模様。これによる被害は
機動隊車両4台が大破、走行不能、数名が軽傷を負った。これにともない
現在移動中の道路は通行不能、迂回路など指示願います。繰り返す、童排庁機動隊より――――――――
暖かい御言葉ありがとうございます!
もうちょっと、続きます
151 :
('A`):04/08/10 00:47
GJ
がんがれ!職人さん!!
153 :
('A`):04/08/10 01:11
omosiroizo
154 :
('A`):04/08/10 07:35
最高!!
おもろい!!!
155 :
('A`):04/08/10 20:47
いいね!!GJ!!
落雷の停電によりPCご逝去・・・orz
途中まで書いていたものが消えてしまったのでもうしばらくかかりますが
なにとぞ、なにとぞご容赦を・・・・
>>156 タイトルは決めていないので好きに呼んでいただきたいです
じゃあベタだけど「ラストドウテイ アナザーエイジ」とかどうよ。
だいぶ沈んでるのであげるぞ。
ラスト オブ モテナイ
イケメン=悪
という図式は現実でも当てはまるよな。
ほしゅ
だからもてない
「隊長、着きました」
「だから前にも言ったが俺は隊長じゃ―――――」
言いかけて喪一郎はふと気付く。前に言った相手は今ここにいない。
「隊長、何か?」
「―――いや、なんでもない。迎撃ポイントを探そう」
そう言って喪一郎は車を降りた。
扉は開けっ放しになっていた。建物の中へと入る。比較的きれいなままだったが、戦場としての傷跡は十分に残されていた。
弾丸にえぐられた壁、血の着いた床。それらを横目に見ながら奥へと進む。
広いところに出た。この建物のエントランスで、童貞連合陥落の際、最も激しい戦闘があったところである。
所々にコンクリートブロックが積み上げられている。どうやらこれは弾除けのようだ。
喪一郎はそれを眺めて、仲間たちに声をかけた。
「よし、ここで戦おう。とりあえず何人か、上へいって武器があるか見てきてくれ。
まぁそんないいものは無いだろうけど・・・それとブサ男は俺と配置を考えてくれ」
3名ほどが階段を上がっていった。ブサ男も隣にに来た。
「そこの壁の後ろに2人、あそこに1人とここに2人で、俺ともう1人があっちで、お前へそこでどうだ?」
「いや、ここは1人でいいからあそこはもう一人増やしたほうがいい」
そんな会話をしていたその時、表で車の音が聞こえた。
「おい、手近な壁に飛び込め!それと誰か、上に知らせに行くんだ!」
ブサ男はそういって壁の陰に隠れた。喪一郎もその横にしゃがみこむ。足音が近寄ってきた。
しかしやってきたのはキモ男の車に乗っていた童貞たちだった。喪一郎は振り向いて
「おい、もう1人上に大丈夫だって伝えてきてくれ」
と指示を出し、彼らの方に向き直った。キモ男の姿が見えない。
「キモ男はどうしたんだ?一緒じゃなかったのか?」
彼らは少し表情を曇らせ、
「副隊長はここで時間を稼ぐから俺たちは先に行くように、と・・・」
「あいつ1人で残ったのか?車もお前らに預けて?」
「あ、そのあと副隊長は童排庁の特殊車両に走っていったのでおそらくそれを使ったのかと」
「先に行け、と奴はそう言ったんだな?」
「はい、早く行って迎撃の準備を手伝えって」
「そうか・・・」
数秒の沈黙の後、喪一郎は
「よしわかった。待機していてくれ」
というと再びブサ男と配置の話を始めた。
しばらくすると上にいた仲間が降りてきた。彼らの1人が喪一郎のところまで走ってくると
「いろいろ探したんですが、武器としてはこれぐらいしか無いようです」
と言って、数本のコンバットナイフを出してきた。
「まぁこんなもんかな。ナイフに自信がある奴は持っておけ。役に立つかもしれない」
喪一郎はそう仲間に声をかけると、自らも一本を手に取った。抜いてみても錆びている様子は無く、十分使えそうだ。
「それと隊長、役に立つかわかりませんがこんなものが・・・」
彼が出してきたのは箱に入ったたくさんの指抜き革グローブだった。喪一郎はそれをじっと見ながら何か考えていたが、
手にとってこう言った。
「みんなもそうだし、わかってると思うが俺たちは裏切り者だ。童貞側からしても、政府側からしても。
その俺たちがこうやって再び童貞側について戦おうとしてる。その意思を俺は少し明確に表そうと思うんだ」
そして足元から汚れたバンダナも拾い上げ頭につける。
「まぁ、かっこいいわけじゃないし、みんなは自由意志でするしないを決めてくれ。
自己満足だけどこれで少しは童貞らしいかな、と思って」
そう話しながら喪一郎は照れくさく笑みを浮かべた。横にいたブサ男もグローブを手に取り
「個人的に俺も賛成だ。童貞として死ぬなら、こういうカッコも有りだと思う。
―――まぁ普通なら恥ずかしくてできたもんじゃないけどな」
と、同じように少しニヤつきながら言った。それを見た他の童貞たちも1人、また1人とグローブを手に取り
――――程なくして全員がつけたのは言うまでも無い。
暗く細い路地を、そこに不釣合いなほど大きなリムジンバスが通り抜けていく。イケメン部隊の乗るバスだ。
くねくねとその細い路地を抜けていくバスの車内で、イケメン達はみな苛立っていた。
彼らからすればその苛立ちは当然だろう。ただの一度も『格上』が存在しなかった彼らが、
あろうことか数段下にいると思っていた存在にその立場をひっくり返されたのだ。
しかもその連中は気絶した彼らを殺すことなくそのまま立ち去った。これではまるで彼らを『格下』と見ているような扱いである。
この事実を彼らが悟ったとき、彼らは自我が崩壊するような衝撃を受けた。当然であろう。自分たちを倒した存在は、
今まで見たことも無い『新たな敵』ではなく、すぐ直前まで『嘲るべき対象』だったのだから。
イケメン達はおそらく一生にあるかないかの屈辱を受けた。と同時に、それを与えた存在に対する強大な憎しみも抱いた。
―――――そんなものは認めない。自分たちを見下げられる存在などあってはならない。
いつも自分たちが最高であり、それ以上の存在などはこの手で消し去るべきだ――――
その感情が彼らにより明確で強固な『必殺』の意志を与え、彼らはその意思を持ってこの最後の『童貞狩り』に望むのだった。
突然ヘリの音が聞こえ始めた。ブサ男は窓から顔を出して上を見ると、喪一郎のもとへ戻ってきた。
「まさかイケメン部隊が上から来るってことは・・・無いよな?」
喪一郎も窓から見上げ、ヘリコプターを見ながら言った。
「いや、あれは童排庁のヘリじゃない。たぶんテレビ局だ。これは推測だが・・・
おそらく政府の連中はこれを大々的に宣伝するつもりなんだろう。『最後の童貞狩り』とか名づけてな。」
喪一郎は顔を引っ込め、仲間たちに向き直ると
「まあ、俺たちが勝てばその宣伝は逆効果に終わる。俺たちにとっちゃこの戦いが最後の最後だ。
思い切りやって、政府の思惑通りにだけは運ばさせないようにしようぜ」
「いいかお前ら、負けるかもなんて考えるな。最低でも引き分けだ。
まぁ心配しなくても能力は俺たちが上なんだ、いつもどおりやれば勝てるに決まってる」
喪一郎が呼びかけると、ブサ男も続けた。仲間たちは無言だが、士気は十分のようだ。
表が急に明るくなった。ヘリのライトがそこに合わされたらしい。と言うことは、イケメン部隊が来たのだろう。
「来たぞ!さっき指示したとおりに配置についてくれ!」
喪一郎はそういいながら自分も壁の影にしゃがみこみ、自動小銃を握り締めた。左手は怪我のせいか感覚が無いが
脳の指示通りきっちり握り締めてくれた。これならまずは安心だ。
入り口のほうから声が聞こえる。イケメン部隊が一応降伏勧告を行うようだ。
「お前ら勝ち目が無いのはわかってるだろ?オレ達だってダルい真似はしたくないんだ、
今降伏するなら命ぐらい俺たちが助けてやってもいいぞ、どうだ?まぁ降伏しても一生オレ達のパシリ決定だけどな」
と、半笑いでまるで挑発するように話しかけてきた。どうせ降伏させる気は無いのだろう。
喪一郎は壁から立ち上がると、引き金を引いた。数発の弾丸が放たれイケメンたちの目の前の床を削る。
「今のは威嚇だ。次は当てる。お前らこそ、尻尾巻いて帰ったらどうだ?ここで死んだら、女とも遊べやしないぞ?」
喪一郎は叫ぶ。挑発には挑発で返すのみだ。イケメンが拡声器を投げ捨てたのか、乾いた音が響き
「あくまで格上気取りか!公開すんなよ!」
と叫び返してきた。と同時に、何か小さなものが喪一郎たちの前に飛んできた。喪一郎は反射的に壁の陰にしゃがみこむ。
真っ白な閃光が走る。その光が消えないうちに自動小銃の連射音が響き、そこらじゅうの壁を削る。
光が収まると喪一郎は立ち上がり、猛然と反撃を始めた。童貞たちは12名、対してイケメン部隊は50名ほど。
ここに、最後の童貞狩りの火蓋が切って落とされた。
自動小銃の連射音が重なり合って響く。喪一郎は立ち上がって撃ち返す。放った弾丸は一発の無駄も無くイケメンに命中した。
もともと彼は銃の扱いが得意な方とはいえ、左腕の怪我がある今この命中率は異常と言っていい。
彼の知る中で怪我を負った時ここまでの命中率が出せそうなのは―――ミリ男だけだ。
「ミリ男の腕に変わったってか?ならそんなありがたいことは無いな」
そんなことを呟きながら再び引き金を引く。5,6発が飛び、2人ほどを倒した。無論はずれは無い。
まさに神がかりであった。容赦なく、正確に撃ち返して20人ほどを倒したころ、弾が尽きた。
もう動いているイケメンは5人しかいなかった。それでも彼らは退く気配もない。なぜなら彼らにとってもまた
この戦いは勝利して、自らの力を証明しなければならないものだからだ。ここで退けば、彼らは自己を見失う。
喪一郎が童貞側を見渡すと、必死で公選するブサ男が見えた。銃弾が掠めたのか、彼の頬に赤い筋ができている。
他はもう誰も生きていないようだった。ブサ男も身を引っ込める。彼も弾が尽きたのだろう。
後はもう、自分の体を頼るのみ。そう思った喪一郎は別の壁の陰に入りながら近づいていった。
その手に、コンバットナイフを握り締めて。
イケメンたちも彼らの弾切れを悟ったらしく、こちらに近づきながら壁の陰にいる喪一郎たちを狙い始めた。
後ろのほうから、床に何かが落ちる重い音が聞こえた。全員がそこに目を向ける。そこにあったのはコンクリートブロックだった。
その瞬間を待っていたかのように、空気を切り裂く音とともに銀の光がイケメンの1人の胸元へ吸い込まれていった。
ブサ男がナイフを放ったのだ。ナイフは正確にイケメンの胸に刺さり、一人が倒れる。
他のイケメンたちが驚いてブサ男の方を見た隙を逃さず喪一郎は飛び出し、振り返った彼らのうち2人の銃を叩き落し、
銃を失った1人に右手のコンバットナイフで喉を切りつけ、もう1人に向き直ると胸に突き立てた。
と、すぐさまナイフを抜いて横に跳ね、後ろから襲いくる銃弾を身をひねってかわす。
「ぐっ―――!」
何発かかわし切れなかったらしい。体に熱い痛みが走る。途端に呼吸も苦しくなる。肺をやられたのだろうか。
だがここで止まれば蜂の巣にされる。そう思い喪一郎は歯を食いしばって逃げる。だがスピードの落ちた彼に全てをかわせるはずも無く、
さらに数発を体に受けた。痛みで意識が消えかける喪一郎の目に、イケメンの一人が倒れるのが見えた。
彼が蹴った銃をブサ男が拾って撃ったのだ。残るイケメンはあと1人。もう喪一郎は動けないと判断したのか、イケメンは振り返って
ブサ男に向けて銃撃を開始した。喪一郎はその無防備な背中に向けてよろめきながらも走り寄る。
そのまま倒れこむように力を込めて体当たりした。不意を突かれたイケメンは無様に地面に転がり、銃は床を滑り彼の手を離れた。
喪一郎はその上へ馬乗りになって、両腕を足で押さえつけた。
「残念・・・だったな。・・・もう女遊びは・・でき・・ないぞ」
喪一郎は苦しそうに途切れ途切れの嫌味を言うとナイフを振り上げ、首に突き立てた。
喪一郎はイケメンの上から立ち上がると近くの壁までふらふらと歩いていき、もたれかかって座り込んだ。
ブサ男が駆け寄ってくる。喪一郎は息も絶え絶えに声をかける。
「ブサ男・・・か。怪我・・・・・無いのか?」
「ああ、大丈夫だ。怪我っていえるのはこれぐらいか」
そう言いながらブサ男は頬を指差す。
「そうか・・・・・・よかった」
「で、なんか遺言とかあるか?あるなら聞いてやってもいいぜ」
「遺言は・・無い。けど・・・友人・・として・・・・・頼みたい事がある」
そう言うと喪一郎はまだ動く右手で頭のバンダナを取り
「お前は・・・・もう・・戦わずに・・・・・逃げて・・ほしい。こいつは・・・・俺の・・形見だ」
そういってバンダナをブサ男に差し出す。
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ!俺だけ逃げちゃみんなに悪いじゃねぇかよ!」
「いや、お前・・だけでも・・・・・生き・・残れば・・イケメンは・・全滅したんだ・・から・・・
俺達の・・・勝ち・・・だ。お前が・・・長生き・・すれば、する・・ほど・・・」
もう声を発することさえできず、喪一郎はぱくぱくと口をあける。それを見てブサ男は、
「わかった。なるだけ長生きに努力する。あっちに行ったら皆にちょっと遅くなる、って伝えといてくれ」
それを聞いて喪一郎も頷く。ブサ男はバンダナとイケメンの首に刺さっていたナイフを取り
「こいつは形見って事でもらっとくぞ。じゃあ、あっちで待っててくれ」
その言葉は喪一郎に聞こえたかどうか。既に彼は目を閉じて、死んでいた。その顔には子供のように楽しそうな笑みを浮かべて。
ブサ男は喪一郎に向かって手を合わせ、そして他の童貞たちにも手を合わせると、その場を後にした。
政府はこの日を『童貞反乱最後の日』として発表した。
童貞狩りにあった遺族らが中心となった反対運動により、この30年後、童貞排斥法は廃止される。
その5年後、『童貞反乱最後の日』から35年目のその日には、最後の童貞狩りの現場となったそこに慰霊碑が立てられ、
童貞たちの冥福が祈られ、童貞狩り以降空白地域となっていたそこの復興も始まった。
―――――そして、『童貞反乱最後の日』から50年が過ぎたある日。
かつて童貞たちの聖地と言われ、童貞狩りの主戦場でもあったそこは立派に復興していた。
昔の頃のような電気街としてではなく、誰もが立ち寄るような賑わった『街』として。
その賑わいはその中心に立てられた慰霊碑をまるで無かったかのように見せるほどのものとなっていた。
その慰霊碑を、ある老人が訪ねていた。その老人の顔は決して整っているとは言いがたいが
しかし岩のようなその顔には重みと渋さがあった。若いころに怪我でもしたのだろうか、
その頬には裂けたような傷跡があり、その傷跡が一層彼の雰囲気を重いものとしていた。
その老人は手にした包みを開いた。そこには他の人にはガラクタにしか見えないものが入っていた。
薄汚れたバンダナ。真っ赤にさびたナイフ。そしてぼろぼろの指抜きグローブ。
老人はそれをまだ新しいたくさんの花束の横にそっと供えると、慰霊碑に向かって深く深く頭を下げた。
2分ほどそうしていただろうか。老人は頭を上げ、そのまま後ろを向くと雑踏の中へと消えていった―――――
ここまでお付き合いいただき、どうもお疲れ様でした
2レスの単発だったはずの話がここまで続いたのはひとえに皆様のおかげです
拙い文章ですが、少しでも楽しんでいただけたなら光栄です
一応オリジナルでストーリーを組んだつもりですが
パクリと思われる描写などありましたらお許しください
またネタとスレの皆様のお許しがあればまた書いてみたいと思います
それでは新しい職人様の降臨を待ちつつ失礼します
最後なのでage
173 :
('A`):04/08/16 01:04
待ってました!乙でした!
うん、やっぱり面白いわな。
主人公が童貞ってのがあいかわらず感情移入を強化してるし。
最終決戦の描写がリアリティあるし、指抜きの皮グローブ、俺もしてるし。
人は死んで終わり、ってんじゃなくて、生き残った者たちに受け継がれる「何か」が、やっぱり大切なわけで。
なんつうかね。「童貞=侍」というか。大和魂というか。
ラストの秋葉原の描写も、なんかリアル。
どんな激動の時代も、過ぎ去れば昔話…というか。
それを体験した者にとっては忘れられない大切な記憶なんだけど、生まれてもいない若い世代にとっては
「フーン」って感じで。太平洋戦争(大東亜戦争)もそうだよね。
まさか
>>171はPC逝ったのに終戦記念日に間に合わせるためにすごく頑張った…なんてのは考えすぎか?
うん、まあ、単純に小説としても面白かったし、次回作にも期待してます。
お疲れ様でした。
で、タイトルは結局どうなったんだ?
どうせモテないし、旅行していろいろなものを見てこようと思う。
で、それをネタにしてこのスレに新作投下…できればいいなと。
つーわけで保守よろ。
>175
いってら〜!ノシ
新作マテルーヨ(・∀・)
一応自分も少しばかり話の構想があるんですが・・如何でしょうか。
178 :
('A`):04/08/17 09:58
掘り起こし上げ
179 :
('A`):04/08/17 09:59
正直全然面白くない
180 :
('A`):04/08/17 11:51
いっそ、殺して欲しい・・・
181 :
('A`):04/08/17 11:56
182 :
('A`):04/08/18 20:30
>>174
ログうpしてくれ
21世紀中頃、人類は滅亡の危機に瀕していた。
性交渉によってのみ感染するウイルスによって
人間の遺伝子が組み替えられ、正常な子供が
生まれなくなったのである。
そのウイルスは感染している個体には何の異常もないが、
その生殖機能を掌握し、DNAを改竄された配偶子を
作るようにしてしまうのであった。
世界保健組合の研究結果で過去20年間において性的接触や
異性との交友の少なかったものはほぼ感染が見られないと
判明した。
このことを受けて日本政府は『純潔者保護隔離特別法』を施行した。
これにより、童貞、処女は厳重な警備の元に隔離、監視され
ウイルスに絶対感染しない状態に、すなわち、異性との接触を
完全に断たれた状態に置かれた。
関東地方最大の隔離施設、アキハバラ・エデン
収容者:木喪 ヒキオの日記
5月31日 空は見えない。
朝食:玄米、味噌汁、沢庵、アジの開き、薬
昼食:牛丼、味噌汁、薬
夕食:食べる気にならない
明日は処理の日だ。自慰行為をしないようにつけられている
この拘束具をほんのわずかな間だが、外せる。
この忌々しい首輪がなければ日課であったオナニィを
楽しめるもの、まったく忌々しい。
この収容所に着てから半年ほどたつ。
初めは何とか逃げ出そうとしたがそのたびに失敗し、
首輪の仕掛けに苦しめられた。
何が人類の未来を守るためだ。結局俺たち童貞は
イケメンのヤリチンたちのために奉仕させれているだけだ。
6月1日 雨
朝食:薬
夕食:思い出せない
今日は朝から精液採取のためにドリームマシンにかけられた。
アレにかけられている間はひどく気分が悪い。
今日はいつもに増して珍宝が痛いし気持ち悪い。
いつになったらこの拷問のような日々が終わるんだ。
6月2日 空は見えない
朝食:白米、昆布の佃煮、煮魚、味噌汁
昼食:そば、冷奴、サラダ
夕食:玄米、レバニラ、マッシュポテト
今日は久しぶりに新入りが来た。
まだ狩られていない童貞がいたとは。
新入りに収容所内を案内した。
この擬似都市の広さに驚いていた。
入った頃の自分を思い出し、
自分を匿ってくれた両親のことを
久しぶりに思い出した。無事でいてほしい。
187 :
('A`):04/08/20 16:08
今までのとは違った感じで面白そうだな。期待してます。
なんだか過疎の予感
hosyu
191 :
('A`):
保守