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('A`):
一度だけ、ほんとに一度だけ逆ナンされた。
お気に入りのバーで飲んでいると、新たなお客さんでカウンターがいっぱいになるので、
みんな席を詰めて座り直した。自分の隣には可愛い女の子。しかも一人。
自分とバーテンダーの酒蘊蓄を聞いていたその女の子が、「カクテルに詳しいですねー」とか話しかけてきた。
「それほどでも…」とかいいながら、彼女の好みを聞いて、彼女が知らないカクテルを勧めてみた。
そのカクテルが気に入ったらしく、会話が弾んだ。二人ともちょっと酔ってきた。
彼女が耳打ちする。「ねぇ…お店出ませんか?」そしてカウンターの下で俺の手を握ってきた。
冷静を装いつつ支払いを済ませると、店を出た。彼女がいきなり腕を組んできた。
目の前はホテル街。その明かりに吸い込まれた。
−激しいひととき−
シャワーを浴びて出てくると、彼女が言った。「○○さん、また会ってくれます?」「もちろんいいよ」
彼女が手帳を差し出した。「名前とか電話とか書いてくれます?」受け取って名前を書き始める。
「○○さんって、お仕事何してるんですか?」「仕事は○○だよ。きみは?」
「私は、病院に通うので仕事辞めたんです」「どっか悪いの?」「これ…」
そう言って差し出した両手の手首にはおびただしい傷跡。まだ生々しい物も多い。
「…どういうこと!?」「精神病院に通ってるんです。ちょっと、ネ!…あ?書いてくれました?」
既に名字と名前の途中まで書いている。「あ…うん、もうちょっと」
パニックに陥りながらも、ようやく名前の最後の一文字をいい加減な名前にし、
ありもしない数字を電話番号の覧に書き込んだ。
手帳を彼女に渡すと、彼女は「あーもうバスがなくなる!先にかえっていいですか?」「あ、じゃ急がないと」
「今日は楽しかったです!電話しますね!」と言い、軽くキスをして慌ただしく出ていった。
これが生涯一度の逆ナンでした。