娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 6

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204こんな一つの未来



月明かりだけが淡く照らす衣梨奈の部屋に足を踏み入れる。
もうそこはすっかり里保自身の部屋でもあって、私物も全部揃っている。
この街に来てからもう何年になるだろうか。
本来の自分の家もあるけれど、すっかり物置になっていた。

家主であるさゆみも、そしてこの部屋の主である衣梨奈も
里保が初めからここの住人であるかのように受け入れている。

お風呂から上がったばかりの里保の髪はまだ湿っていて
それが窓辺のカーテンを揺らす夜風に冷まされる。

けれども里保の身体は火照っていてた。
それは、決してお風呂の熱だけの所為では無い。
205こんな一つの未来:2013/12/18(水) 16:41:24.62 0
ベッドの上から、衣梨奈が里保を呼ぶ。
普段なら太陽のような温かい笑顔が、今は青白い月明かりに照らされて
どこか妖しい、蠱惑的なそれに変わっていた。
もう何度目かも分からないのに、いつもその顔を見ると心臓が早くなる。
頬が上気しているのを悟られないことが良かったと思う。

「里保、おいで」

優しい声。
ずっと、子供の頃から変わらず衣梨奈は里保を優しく呼ぶ。
その言葉を聞くだけで、胸が詰まってしまうようになったのはいつからだろうか。

音を殺して、衣梨奈の隣に潜り込んだ。
衣梨奈の腕が里保を捕まえて、柔らかく包み込む。

「えりぽん、ちょっと冷えてる?」

「ん?そんなことないとよ。でも里保温かくて気持ちいい」

言うや否や、衣梨奈の両腕が里保を絡めとり、強く抱きしめられた。

「えりぽん、苦しいってば」

「うそ、嬉しいくせに」

全くその通りだったけれど、その自信に満ちた物言いが癪に触る。
206こんな一つの未来:2013/12/18(水) 16:42:01.71 0
里保は未だ信じられないし、不安になるというのに。

返す言葉も無くて、里保は暫く抱きしめられるまま、衣梨奈の腕に身を委ねた。
コチコチと秒針の動く音が聞こえる。自身の耳に、そのリズムと比べて
徐々に速さを増す心臓の音が響いた。

「里保、好きっちゃよ」

衣梨奈の吐息が耳を擽る。
嬉しいのに、また不安になった。

「なんか、信じられない」

「えー酷い」

「そうじゃなくて。なんか本当に、夢みたい。こんなの、絶対無いって思ってたから」

上手く言葉に出来ないことをもどかしく思いながら、里保は途切れ途切れに言葉を紡いだ。
一方的に想いを寄せていた時間が長すぎたからだろうか。
姉妹みたいに育ったから、嫌われているとは思わなかったけれど
少なくともその気持ちの形は違っていた。
いつどこで、二人の形が嵌ったのか分からない。
そもそも今だって、全く同じ大きさの、同じ形の気持ちでいるなんてことは無いだろう。
いくら魔法が上達したって、それだけは分からない。
207こんな一つの未来:2013/12/18(水) 16:42:42.12 0
「だって里保が、えりのこと好きなのに好きって言ってくれないから」

「だってえりぽんが…」

「まあ、いいやん。夢なんかやないっちゃから」

適当だなあと思いながらも、その笑顔に絆される。
結局、自分は贅沢者なんだと思った。
どんどん欲が出てきて、もっともっと欲しくなる。
こんなに幸せを感じているのに、まるで満足出来ない。

魔法使いの性だな、と苦笑した。
欲望が止まって、満足してしまえばもう新しい魔法は生み出せない。
魔法使いはずっと子供、と言ったのはさゆみだっただろうか。
子供のように、いつもどこか不安を抱えて、欲しがって
独り占めにしたくて、自分達は生きている。

今よりももっと、衣梨奈の心を独り占めにしたい。
そんな魔法が使えたらいいのに、と思う。
208こんな一つの未来:2013/12/18(水) 16:43:35.12 0
里保は、意地っ張りな子供のような衝動に任せて、
目の前にある衣梨奈の唇をそっと掠め取った。
衣梨奈が少し驚いて目を見開く。

「なに、珍しいやん」

それもすぐに余裕の笑みに変わって、今度は衣梨奈から
柔らかい唇が被された。

一気に火がつく。
二人はそれから、徐々に深い口付けに移行して
何度も何度もそれを繰り返した。

抱きしめていた衣梨奈の手が解かれ、里保の身体の上を愛撫する。
負けじと里保も衣梨奈の身体をなぞった。
頭が真っ白になるような欲望と快感と幸福感に無を委ねながら
お互いのパジャマを剥いでいく。

衣梨奈の唇が里保の口元から喉を伝い、鎖骨に落ち
慎ましい双丘の間に寄せられた頃には、二人して生まれたままの姿になっていた。
負けじと衣梨奈の髪を撫ぜ耳を喰んでいた里保は
不意に届いた頂きへの刺激に身体を仰け反らせた。
209こんな一つの未来:2013/12/18(水) 16:44:06.15 0
考えていたよりもずっと身体は昂ぶっていて、その刺激を待ち望んでいたようだ。
チロチロと蠢く衣梨奈の舌の動きを、視覚以外の全部の感覚で追いかけた。

「ん…んん」

くぐもった声が、次第に高くなる。
衣梨奈は一度愛撫を止め、もう一度里保の唇を奪って意地悪な声で囁いた。

「声抑えて。道重さん起きちゃうやろ」

目に涙を浮かべて頷く里保に、息つく暇もなく再度快楽の波が襲う。
火照った身体の、更に一番熱を帯びている部分に衣梨奈の手が伸びた。
焦らすように中心を避け、茂みの周りをくるくると動く。

必死に抵抗する素振りを見せながらも
身体は正直に疼いて、待ちわびている。
里保は長い吐息を吐き出した瞬間、衣梨奈の指がそこに―――
210こんな一つの未来:2013/12/18(水) 16:44:55.97 0


パチリ、とさゆみはビジョンを閉じた。
これはいけない、と独り言を呟きながら
外で魔法の練習に勤しんでいる里保と衣梨奈に視線を向ける。

見ていたのは数年後の未来。
可愛い弟子達が幸せそうなことは、さゆみにとっても嬉しい。
でも、この未来は大変面白く無い。
何よりまず、二人が自分にはその関係を隠しているらしいことが問題だ。
本気で隠し通せるとでも思ったのだろうか。

楽しそうにはしゃぐ声が聞こえて来た。
練習をしているのか、遊んでいるのか。

「あんな子供達が、あんなオトナになっちゃってまあ…」

羨ましい、いやけしからん。

「でもま、さゆみの視た未来は必ず変わるしね」

不器用な口笛を一つ。
さゆみは、未来の弟子達の様子を思い出し
初心に頬を染めて考えた。
取り敢えず、自分も混ざれるように未来を変えよう。
その為に、魔法が必要ならば研究しようと
年齢不詳の大魔道士は、妙なやる気を出すのだった。