「こっくりさんはなぜ当たるのか」(安斎育郎著)を読んでみた

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こっくりさんの起源はヨーロッパのテーブルターニングであり、それが明治時代に日本に伝わり定着した
テーブルターニングの歴史は古く、レオナルド・ダ・ビンチの時代つまり15世紀からすでにあったとも言われている
一方で神との交信と言うオカルトチックなこの術に対しての科学的な批判も同様に古い
あのファラデーやガウスのような大物理学者、大数学者も科学的に批判している

日本でも明治時代にこっくりさんが大流行するのとほぼ同時に、井上円了と言う仏教哲学者がこっくりさんのメカニズムを見事に明かしている
本書の付録として掲載されている「妖怪玄談 狐狗狸の事(現代語訳版)」(井上円了著)は必見である
オカルトに堕するでもなく、当時流行していた「電気」にも頼らず、実験と考察を地道に重ねて、人間の内的な要因と外的な環境の要因を解析した
(当時の日本では理由の分からない現象を全て「電気」という目新しい概念で片付ける傾向があった)
そして辿り着いたのは今では常識となっている「予期意向」からの「不覚能動」という結論である
人間は期待または予測する答えを無意識のうちに選び、行動してしまう
自分自身が考えて、自分自身で動かしていることを、自分自身で気づかないことからこっくりさんの神秘性は保たれる

明治時代にすでにこれだけの明快な結論が出たにも関わらず、こっくりさんは20世紀でも主に子どもたちの間で定期的に流行した
そして2002年には21世紀版こっくりさんというべき事例も発生した
そう、あの「奇跡の詩人」である
あの母親がやっていたことはまさにこっくりさんである
「きっとこの子はこのように喋りたいだろう」という「期待」が我が子を操り人形化させてしまった
母親は誰かを騙している自覚は露ほども無く、(残酷なことだが)本当に我が子の意思を感じ取っていたと錯覚していた可能性も有る

こうなると罪深いのはNHKである
この国のあらゆるメディアの中でもNHKスペシャルはもっともクオリティが高く、ゆえにその放送に携わっている人間もエリート中のエリートである
にも関わらずなぜあのような「こっくりさん」を「奇跡」として放送してしまったのか
ファシリテイティド・コミュニケーションがインチキであることは90年代にはすでに分かっていたことであり、綿密な取材を行うNHK側が知らなかったはずは無い
仮に知らなかったとしても、取材の現場で「あれ」を見て、「これおかしいやろ」と違和感を持たないとは考えられない
もっともあり得るシナリオは、何らかの意図があって「奇跡」を演出する必要があり、「こっくりさん」を承知で放送した
視聴者のレベルを低く見積もり特に問題にはならないだろうと高をくくっていたということか
実際NHKはこの件に関しては、一部で批判を受けたものの、最後まで非を認めず、謝罪も訂正も無しに今に至っているわけで、目論見通りの逃げ切り勝ちとなっている

どれだけ科学技術が発達しても、人類の知性理性合理的思考力はかくも脆いものである
「こっくりさん」的なものは形を変えて、22世紀も23世紀も現れてくるのだろうと確信させられる一件である